2024年04月26日( 金 )

3町にまたがるボタ山を再開発 「産業遺産跡地」を「未来環境都市」へ(後)

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産業遺構を新たに甦らせ、環境に優しい都市づくり

FECA発起人の1人である志免町議会議員の古庄信一郎氏

 今年1月、このボタ山を自然と調和した環境のまちへと整備しようと、産学官による「未来環境都市協議会(FECA)」が発足した。発起人には、Anny Group代表の二枝崇治氏と志免町議会議員の古庄信一郎氏のほか、志免・須恵・粕屋の3町長が名を連ねている。1月20日にシーメイトで開催された設立シンポジウムには、建築家の隈研吾氏や九州大学総長の久保千春氏を始め、建築・環境・エネルギーの第1人者が登壇。約300人が参加し、盛大に行われた。

 FECAの行動計画では、18年度中にボタ山全体の図面の確認や地盤調査、近隣状況の調査などを行ったうえで、今後の長期的な活動計画を策定。19年度にはFECA本部となるオフィスを設置し、20年度からは策定計画に基づいた建築・整備計画を実施。翌21年度以降に、長期的なまちづくりに向けて、人と環境に優しい都市設計を進めていくとしている。構想では、動植物の生息空間(ビオトープ)や大型アリーナを整備し、環境問題を研究する大学や企業の誘致を目指すほか、将来的には駅などの交通インフラの整備まで視野に入れる。

 また事業計画を実務的に策定するために、産・学で構成される「NPO法人ALFEE」の設立も申請中で、長期にわたる事業を検討している。ALFEEとは「Asia」「Life」「Future」「Eco」「Energy」の頭文字から付けられた名前で、同団体がアジア地域独自の気候に対応する環境研究の事業計画を行い、今後の未来型の環境を守る都市形成に寄与するNPOであることを表している。ALFEEの代表理事は前出のAnny Group代表の二枝氏が務め、事務局長は九州大学教授の塚原健一氏が務める。

 FECAの発起人の1人であり、今回の一連のプロジェクトの中心人物でもある志免町議の古庄氏は、「志免立坑櫓を生かす住民の会」の会長を務めるなど、これまでにも竪坑櫓の保存活動を先頭に立って行ってきた人物だ。古庄氏は今回の動きの発端について、「ここは、かつては石炭というエネルギーの産業で栄えた地域ですが、当時、環境に対してあまり良い影響は与えてきませんでした。また、閉山後に放置されて半ば廃墟と化した竪坑櫓を含め、地元からも“負の遺産”的なイメージをもたれていたのは事実です。ですが、だからこそ今度はそのイメージとは逆に、このボタ山エリアを環境に優しい都市づくりのために役立てられないかと、今回のFECAおよびALFEEを立ち上げるに至った次第です」と語る。こうした古庄氏の思いに、同じく地元出身のAnny Group代表の二枝氏が賛同してくれたことも、ボタ山再開発計画の実現に向けての大きな後押しとなった。

 さらに古庄氏は、「日本を支えてきた炭鉱の遺産を新たなかたちで甦らせ、このエリアのさらなる発展につなげていきたい。そして新たな未来環境都市づくりを進める一方で、貴重な竪坑櫓などの残すべきものはきちんと後世に伝え残していく。それが、今を生きる我々の責任ではないでしょうか」と、自身がこれまで行ってきた竪坑櫓の保存活動も含めて、地元への熱い思いを語ってくれた。

 奇しくも、JR福北ゆたか線・長者原駅(福岡県粕屋町)と福岡市営地下鉄空港線・福岡空港駅(福岡市博多区)の接続を目指す民間の促進協議会が、16年7月に飯塚市で、17年9月には粕屋町で発足し、両駅間を地下鉄などで結ぶ構想が掲げられている。この構想が将来的に実現に至るのであれば、その途中の路線が、ボタ山に整備される未来環境都市を経由することも十分に考えられるだろう。

 閉山後、半世紀以上にわたって手付かずで放置されてきたボタ山だが、ついに整備・再開発に向けての動きが現実のものとなってきたようだ。これまで、福岡都市圏に隣接するベッドタウン的な位置づけでの発展を遂げてきた糟屋郡の3町だが、新たな未来環境都市構想により、また違ったかたちの先進的なまちづくりが進んでいくことを期待したい。

FECAによる2033年度の完成イメージ

(了)
【坂田 憲治】

 
(前)

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