2024年04月27日( 土 )

スポーツ界を揺るがす不祥事の連鎖 説明責任軽視が危機招く

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 見る人に感動を与え、健康な身体をはぐくみ、明日を生きる活力を与えてくれるスポーツ。そのスポーツの世界で、不祥事、悪評、不始末の嵐が吹き荒れている。

 日本相撲協会は、長年続いた八百長疑惑、暴力事件などの不祥事をようやく払拭したかと思われたところで元横綱・日馬富士の暴行傷害事件に端を発した一連のスキャンダルを引き起こした。さらには巡業の土俵上で倒れた市長に救命措置を行った女性に対して「女性は土俵から下りてください」とアナウンスし、人命よりも自分たちが尊ぶ伝統を重視するという姿勢が露わになった。

 日本レスリング協会は、協会の要職である強化本部長を務めた栄和人氏のパワーハラスメントを認定した。第三者委員会は、栄氏が伊調馨選手、田南部力コーチに対し、「よくおれの前でレスリングできるな」「伊調の指導をするな」「目障りだ」などの暴言を吐くなど、4件のパワハラがあったとしている。栄氏は強化本部長を辞任したものの、協会副会長の谷岡郁子至学館大学学長は同大学レスリング部の監督を続投させることを明らかにした。

 日本サッカー協会は、ロシアW杯の開幕まで2カ月ほどに迫った4月9日、バヒド・ハリルホジッチ監督を解任し、同協会の技術委員長を務める西野朗氏を監督にすると発表した。会見で田嶋幸三会長は、解任の理由について「さまざまなことを総合的に評価した」などとあいまいな説明に終始した。しかもパリ在住のハリルホジッチ監督を訪ねた田嶋会長は、激怒する監督を前に解任のための契約書にサインをもらうこともできずに帰ってきたのだという。ハリルホジッチ監督は訴訟準備をしているという報道もある。

 長く愛され続ける相撲、近年オリンピックで破竹の快進撃を続けるレスリング、いよいよ国民的スポーツとして根付こうとしているサッカー。それぞれ多くの国民の日常を潤し、感動を与えてきた競技だ。それぞれ事情は違うが、これまで築いてきたイメージが大きく損なわれてしまった。なぜなのか。

 共通するのは、「説明責任のあいまいさ」だ。
 これはとくにサッカーが顕著だ。4年に1度の「本番」であるサッカーW杯までほとんど時間がなくなったタイミングでの監督解任という大バクチに打って出たというのに、解任の理由について明確な説明はない。「1%でも勝つ可能性を高くするために」というが、W杯経験のない新監督に任せることでなぜ可能性が高くなるのかについてもコメントはなかった。
 相撲の場合は、「なぜ女性が土俵に上がってはいけないのか」という疑問に明確に答えていない。「伝統だ」というが、そもそも江戸時代には男女で取り組みを行う相撲興行があったし、戦後に女相撲の元力士が横綱の薦めで大相撲巡業の土俵に上がったという記録もある。人命がかかる事態になった今回の件についても、八角理事長は通りいっぺんのコメントを出しただけで再発防止策については触れていない。
 レスリングは、第三者委員会による調査と処分を行ったことでまだマシに思える。だが実際は、当初「そのような事実はない」と完全否定していたものを、林芳正文科相が聞き取り調査を行うと表明したことで掌を返して調査を始めたものだ。

 説明責任のあいまいさは、そのまま危機管理の甘さにつながる。どの団体の責任者も、問題を突きつけられた際の初動対応は組織防衛と自己弁護だ。もはや反射的なものかもしれないが、「わが身かわいさ」を露呈してしまえば、外部からは不信のフィルターを通して見ざるを得ない。相撲の場合、市長が倒れた際に現場責任者である巡業部長がどこでどうしていたか、についての説明は二転三転した。状況を整理したうえで、ステークホルダーが納得できるようにきちんと説明することは、危機的な状況であればあるほど重要だ。私企業でももちろんだが、全国の競技者を統べる立場のスポーツ協会であれば、ステークホルダーは国民全員ということになる。

 あいまいな説明、保身や内向きのコメントは、回りまわって事態をさらに悪化させてしまう。急場だからこそ、迅速かつ慎重な対応が求められるのだ。いざというときに、腹をくくって説明の場に出る責任者がいるかどうかは、欠かすことができないリスクヘッジだといえる。
 中途半端で腰の座らない「謝罪」がどのような結末を引き起こしてきたか。スポーツのみならず、企業の謝罪会見で我々が目にしている通りだ。言を左右にして追及を逃れようとする「責任者」の姿が目立つようになったのは、かつて福岡にも出店していた船場吉兆の賞味期限偽装・食材使いまわしの一件からだろうか。「ささやき女将」の指示をオウム返しで繰り返していた取締役のあわれな姿が記憶に残っている方もいるだろう。
 しかし現在、スポーツ界のトップたち以上の厚顔無恥を晒しているのが安倍晋三総理であろう。自らの国会答弁では平然と矛盾した言辞を弄し、官僚には「強気で行け」とささやきならぬメモ書きを押しつける。腹だけは据わっているのかもしれないが、とっくに賞味期限が過ぎた自らの腐臭を知らぬげに権力の座に座り続ける安倍総理。そんな人物を国のトップに据え続けているこの国から、本来あったはずのスポーツマンシップが消えてしまったのも道理ということなのだろうか。

【深水 央】

 

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