2024年05月18日( 土 )

賃貸住宅の修繕積立金が損金に

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賃貸住宅修繕共済とは

 共済への加入には、長期修繕計画の作成が必要になり、共済掛金はこの計画を基に算出していくかたちとなる。まずは、修繕費を予想し、補償希望額を修繕金額の50~100%で算出、10~50年の契約期間を設定し、掛金を算出する(支払い限度額は資料参照)。

 木造(軽鉄含む)なら築30年以内、それ以外なら築40年以内の建物が対象となり、賃貸に供していることが求められる。掛け捨てであるため、返戻金や満期金はないことにも注意が必要だ。

 ただ、満期となっても契約を継続することは可能で、その場合は掛金を引き継ぐことができる。また、物件を売却しても組合への通知および承認があれば、新たなオーナーは契約を引き継ぐこともできる。

 共済は、修繕共済と火災修繕共済を組み合わせた共済金制度で、修繕共済は1:1年ごとの定期検査で劣化事象が生じていないこと、2:劣化に対して初めて行われる修繕であること、3:修繕は組合が合理的と認めた範囲であること、4:定期検査から2年以内に実施されることの4要件を満たす場合、掛金を限度に共済金が支払われる。火災共済は火災や落雷などで修繕費用を支払った場合、30万円を限度に共済金が支払われる。

共済掛金の算出例(資料:全国賃貸住宅修繕共済協同組合)
共済掛金の算出例(資料:全国賃貸住宅修繕共済協同組合)
共済金の支払い限度額(資料:全国賃貸住宅修繕共済協同組合)
共済金の支払い限度額(資料:全国賃貸住宅修繕共済協同組合)

共済に加入する際の注意事項
・本共済を利用するために組合加入(出資金1,000円以上)を要します。
・本共済は掛け捨て商品であり、積立を目的とするものではありません。
・共済対象は、「外壁」「屋根・軒裏」に限られます。
・本共済は期中で解約したり、満期を迎えても、共済掛金の返戻はありません。
・本共済の対象は「修繕」であり、「性能向上(グレードアップ)」は含まれません。
・払込済共済掛金の総額からシステム利用料等として事業費を控除します。
・共済組合の運営にあてる事業費率は、財務の健全性の維持や経済情勢の変化に応じて必要により見直すことがあります。
・決済サービス手数料として口座振替1回あたり200円をご負担いただきます。
・初回共済掛金が、初回振替日に振替不能となった場合、共済契約は無効となります。ご注意ください。
・加入にあたっては建物の長期修繕計画書(組合所定)を提出していただきます。
・対象となる物件に既に劣化事象が発生している場合、あらかじめ修繕を行わなければ本共済に加入できません。
・共済期間の初日から毎年、建物検査を受けていただく必要があります。
・定期検査において、共済の対象に劣化事象が発生し、一定の要件を満たす修繕工事を行った場合、未経過共済掛金※を限度に共済金をお支払いします。
・修繕を実施する業者は、代理店が指定する業者となります。
・共済金は、修繕を実施する業者に直接お支払いします。
※修繕開始日が属する共済年度の前年度の末日までに契約者が支払った共済掛金の総額から事業費、支払済みの修繕共済金等を差し引いた残りの額
(資料:全国賃貸住宅修繕共済協同組合)

管理会社間で競争激化へ

 不動産経営において、経費として計上できるものはそれほど多くない。今回の新たな仕組みでは、将来の修繕費を全額経費計上できるようになるため、オーナーへのメリットも大きいはずだが、課題は長期修繕計画の作成だろう。個人オーナーの場合、計画の作成は管理会社が担うことになるとみられるが、修繕工事は代理店の指定業者となるため、物件の管理会社=代理店でない場合、管理会社が長期修繕計画の作成に消極的になる可能性も捨てきれない。管理会社は共済の代理店となれればいいが、代理店となるには全国賃貸管理ビジネス協会などの会員である必要がある。逆に、代理店は管理戸数増加を図り、一気呵成に攻勢をかけてくるだろう。管理会社間では、これまで以上に熾烈な管理物件の争奪戦が始まることとなるとみられる。

 それでも、賃貸住宅の修繕を計画的に行いやすい仕組みができれば、入居者も安心して住め、オーナーの資産維持にも貢献するだろう。また、建物の外観がきれいに維持されることで、街並みも維持され、周辺住民の満足度向上にもつながっていくことも期待される。これまで、賃貸住宅オーナーにとって、修繕積立のハードルは高かった。修繕計画の作成はもちろん、将来の費用をプールしておく余裕がないオーナーも多かったはずだ。ただ、それが経費となり、節税につながるとなれば、積極的に積立を行うオーナーも増えていくだろう。

【永上 隼人】

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