2024年05月03日( 金 )

防災を産業・文化にまで高める(後)

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(株)かんがえる防災
代表取締役 高木 敏行 氏

(株)かんがえる防災 代表取締役  高木敏行 氏

 災害大国・日本では、BCP(事業継続計画)が注目され、企業はもちろん、LCP(生活継続計画)として家庭でも導入されるケースが増えてきた。とはいえ、計画があっても実効性に乏しいものであれば備えにはならない。そこで、消防士出身で防災の専門家である(株)かんがえる防災の代表取締役社長・高木敏行氏に、あるべき防災のかたちとBCPについて話を聞いた。

既存の事業や業務に防災をプラス(つづく)

 ──御社が携わるBCPには、どのような特徴があるのでしょうか。

 高木 まず、BCPのコンテンツの1つとして災害対策があることです。それぞれ事業スタイルが異なりますから、各クライアントの状況やニーズに合わせたオーダーメイド型とすることを大切にしています。そもそも、BCP=災害対策ではありません。BCPはアメリカでコンピューターが普及し始めたころ、それが壊れたりした際にどう事業を続けていくかという、リスク管理の議論がきっかけで策定されるようになりました。その後、2001年9月11日の同時多発テロ事件でさらに注目されるようになり、日本では11年3月11日の東日本大震災の発生により本格的にBCP導入の機運が高まったのです。

 日本では、災害をきっかけに注目されるようになりましたが、通常時にもBCPは必要です。企業には通常時でも物価高騰、訴訟、ハラスメント、さらには事業承継などといったリスクがありますが、これらもBCPの対策項目に位置づけられます。そこで我々は、自然災害といった非常時のリスクに加え、通常時のリスク対策も含めてサービスを提供しています。防災とBCPは組織の守りの部分ですが、リスクを抑えることで被る被害のコストを軽減し、それを採算性の向上という攻めにつなげることを提案しています。

 たとえば、訪問介護事業者にとっては、浸水危険地域に住む利用者に防災のアドバイスができるようでしたら、それが新たなサービスとなり、業績アップや企業価値向上につなげることができます。ホテルなど宿泊施設については、コロナ禍を経て避難所としての役割をも担うようになりました。ただ、受け入れた避難者が何らかのトラブルに遭った場合、それはその宿泊施設のイメージを損なうことになりかねません。万が一のときのためのBCPを策定しておくことは企業防衛につながり、避難者の満足度を高めることで今後の事業展開にも有利に働くことが期待できます。大規模災害時には必ずマンパワーが不足しますから、それに対応するためにもBCPは役に立つはずです。

YouTubeで情報発信を行っている
YouTubeで情報発信を行っている

全社横断的な策定が大切

 ──BCP策定の難しさには、どんなことがあるのでしょうか。

 高木 BCP策定がうまく進まない会社には、総務課などの担当者に丸投げしてつくらせているケースが多いのですが、それでは実効性が乏しくなる可能性があります。というのも、総務の担当者は経営判断ができないからです。経営判断には何が課題で必要なのかを理解しておく必要がありますから、経営者がBCPの策定に関わることが不可欠です。また、お金の問題も出てきますから、経理担当者の参加も必要です。建設業だったら、工事現場のリスクについて詳しい担当者も策定作業に参加すべきです。

 つまり、大切なのは社長や各部門の責任者がBCPについて共通認識をもち、話し合う場を設けておくことです。全社横断的なかたちではないと、仮にBCPの策定ができてもそれは絵に描いた餅になってしまう可能性が高いのです。全社横断的に話し合うことで、経営者をはじめとするさまざまな関係部署のそれぞれの課題を多くの従業員が知ることになります。これはBCP策定だけでなく、副次的には組織力を高めることにつながります。BCPは組織設計ともいえ、BCM(事業継続マネジメント)の意味合いも含んでいます。当社では各クライアントの状況に合わせ、そうした組織設計についてもアドバイスをさせていただいております。

能登半島地震の支援プロジェクト開始

 ──ところで、御社は能登半島地震を受けて、現地の支援プロジェクトの取り組みを始めていますね。

 高木 被災地復旧のため、義捐金を届けるプロジェクトです。具体的には、自宅の立地や家族構成に応じた防災を学ぶための冊子「かんがえる防災BOOK」を制作・販売しています。その売上の一部を義捐金とし、土砂災害復旧支援のため1冊制作するごとに1本植林することなどに使われます。冊子には、プロジェクト参画企業さまのロゴを掲載することもできます。冊子だけでなく、防災専門家による防災知識のオンライン研修や停電を想定した家庭の防災訓練を行う個人向けプラン、防災研修を行う法人や団体、地域など向けプランも用意しています。

「かんがえる防災BOOK」の表紙
「かんがえる防災BOOK」の表紙

    大規模災害が発生した地域ではこれまで、人命が失われるだけでなく、その後の人材流出、そして税収の減少という問題に直面してきました。このプロジェクトによりさまざまな企業や団体と連携することで、長期的に被災地に義捐金をお届けし、少しでもそうした問題の解決に役立てられればと考えています。当社では今後も、BCPや家庭の防災を広く普及し、災害からの直接的・間接的な死者減少につなげ、永続的に住み続けられるまちづくりに貢献してまいります。

(了)

【田中 直輝】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:高木 敏行
所在地:福岡市博多区博多駅前4-27-5
    博多ステーションタワー302
設 立:2019年8月1日
資本金:300万円
TEL:092-710-5963
URL:https://kangaerubousai.co.jp/


<プロフィール>
高木 敏行
(たかき・としゆき)
1984年生まれ。九州産業大学卒。2008年に福岡県内の消防本部に入局し、奇しくも「119番」をイメージさせる11年9カ月間勤務。消防指令補まで務めた後に起業した。防災士、防災危機管理者、危機管理士(自然災害)の資格を有する。福岡県福智町防災アドバイザー(2022年から)、さくら介護グループ顧問(BCP策定)などに就任している。

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