ネットアイビーニュース

NET-IB NEWSネットアイビーニュース

サイト内検索


カテゴリで選ぶ
コンテンツで選ぶ
会社情報

クローズアップ

「呼吸する美術館」「芸術」を街中、日常生活のなかに解き放て!(2)~東京藝術大学教授 伊東順二氏
クローズアップ
2013年9月 9日 07:00

 普段、あまり意識することはないが、芸術や美術というものは、都市を形成するうえでの重要なファクターとなり得る。長崎県美術館の館長を務めたことがあり、現在は東京藝術大学で教鞭を執る、日本を代表するキュレーター、美術評論家の伊東順二氏に、都市形成における美術、芸術の果たす役割を聞いた。

<自然や環境と融和した個性ある都市づくり!>
 ――都市形成における美術や芸術の役割は、ヨーロッパが進んでいるというイメージがあります。

 伊東順次氏(以下、伊東) すべてにおいて、ヨーロッパが先行しているわけではありません。私が長崎県美術館館長のときも、海外からの視察もたくさんありました。最近、イギリスのテイト・モダン現代美術館やイタリアのウフィツイ美術館における無料化、開館時間延長が注目されていますが、長崎県美術館ではすでに定着していることです。ヨーロッパの地方都市と比べても、日本の地方都市が劣っているとは思っておりません。
 ただし、街づくりについての意識の違いはあります。ヨーロッパ、アメリカなどではとくにキリスト教文化の影響で、人工の美を大切にします。街づくりに関しても、自然に影響されず、都市理論をキッチリ当てはめてつくる傾向があります。街をつくる基本コンセプトがしっかりしています。この点では、日本も学ぶべき点が多々あります。

nagasaki-museum.jpg しかし一方で、彼らには人工的に、論理的に街をつくり過ぎたという反省もあります。自然や環境と融和して、各都市の個性を出していくことが大事なのではないのかと考え始めています。
 長崎県美術館への交通の便は、必ずしも良いとは言えません。そこで逆の発想で、歩いて行く楽しさ、美術館へ向かう道に"参道的楽しさ"を演出しました。まわりの小さなレストラン、土産物屋の売上は約3倍になりました。美術館のチケット持参で割引が受けられるなど、さまざまな工夫がなされました。
 長崎県美術館のカフェは直営にしました。その理由は「展覧会ごとにメニューを変える」ことにこだわったからです。そのメニューは、県の代表的なお菓子屋さんを公募、美術館と共同開発し、ヒット商品はその後、その店の定番、地元の名物になりました。美術館併設のカフェとしては、全国一の売上になりました。

<復活させるのは「もの」ではなく「心」!>
 ――先生はその後、富山大学の教授に着任されました。富山で企画された「金屋町楽市」についてお聞かせいただけますか。

 伊東 国立大学に初めてできる文化マネジメントコースの教授として、富山大学に着任しました。「金屋町楽市」は、大学で学ぶ文化マネジメントが閉鎖的なものではなく、現実に街の活性化に貢献、文化の産業性を回復させることができるという教育プログラム的な意味も持っていました。
 「金屋町楽市」の考え方は、長崎県美術館の延長線上にあります。長崎県美術館館長のとき、美術館で表現しにくいものが2つあることを感じていました。

 1つは、現代美術、ストリートアート的なもので、街の通りのなかで今、生きているものをわざわざ美術館に持ってきて紹介する必要があるのかという点です。失われているのは、実は日本人の生活なのです。
 2つ目は、工芸品は美術館のガラスケースではなく、生活のなかで輝きを放つものであるということです。工芸品が衰退している原因は、生活から切り離されてしまったことにあるのではないかという点です。
 
 富山県は工芸職人の多い地域です。そのなかでも、衣食住一体系が根強く残っていた金屋町に注目しました。金屋町そのもの、もしくは「生活」を「美術館」にすればよいのではないかという発想が「金屋町楽市」です。この成功には、友人の隈研吾氏に什器等の制作等を含めて多大な尽力をいただきました。2日間で2万5,000人の入場という賑わいを見せています。
 文化はそこで生まれ、そこで生きる人たちが享受していく地産地消に近い側面があります。一方、成長、継続し続けるためには、茶道で言う「守破離」もとても重要なのです。
 この考え方を全国的に知ってもらうために、丸の内で「金屋町楽市と隈研吾展」を開催したほか、ローマの「ラ・ルーチェ展」にも参画しました。若い作家に、経済的サイクルのなかで夢を現実化させることが可能であることを知ってもらえたと思います。復活させなければならないのは「心」であって、「もの」ではありません。

(つづく)
【金木 亮憲】

≪ (1) | (3) ≫

<プロフィール>
東京藝術大学教授 伊東順二氏伊東 順二(いとう・じゅんじ)
早稲田大学第一文学部仏文科(1976年)卒業。早稲田大学大学院仏文科修士課程(80年)修了。仏政府給費留学生としてパリ大学、およびエコールド・ルーブルに学ぶ。フランス政府給費研究員としてフィレンツェ市庁美術展部門嘱託委員(80年)、「フランス現代芸術祭」副コミッショナー(82年)などを歴任。83年に帰国後、美術評論家、アート・プロデューサー、プロジェクトプランナーとして、展覧会の企画監修。アート・コンペティション、アート・フェスティバルのプロデュース、都市計画、また、企業、協議会、政府機関などでの文化事業プロデューサーとしても幅広く活躍。2004年長崎県美術館館長、05年富山大学教授、富山市政策参与、13年4月より東京藝術大学社会連携センター教授兼アートイノベーションセンター副センター長。「九州芸文館」アート計画プロデューサー。著書として、「現在美術」(パルコ出版)、「現代デザイン事典」(編集委員 平凡社、1996~2012年)ほか多数。


※記事へのご意見はこちら

クローズアップ一覧
クローズアップ
2013年9月10日 07:00
クローズアップ
2013年9月 9日 15:54
NET-IB NEWS メールマガジン 登録・解除
純広告用レクタングル

2012年流通特集号
流通メルマガ
純広告VT
純広告VT
純広告VT

IMPACT用レクタングル


MicroAdT用レクタングル