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「呼吸する美術館」「芸術」を街中、日常生活のなかに解き放て!(3)~東京藝術大学教授 伊東順二氏
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2013年9月10日 07:00

 普段、あまり意識することはないが、芸術や美術というものは、都市を形成するうえでの重要なファクターとなり得る。長崎県美術館の館長を務めたことがあり、現在は東京藝術大学で教鞭を執る、日本を代表するキュレーター、美術評論家の伊東順二氏に、都市形成における美術、芸術の果たす役割を聞いた。

<「浮世絵」1枚は、そば1杯の価格と同じ!>
 ――先生は、日本人は常に暮らしのなかにアートを取り入れてきた民族と言われています。たとえば、どういうことでしょうか。

 伊東順次氏(以下、伊東) 日本人は、常に日々の暮らしのなかにアートを取り入れてきた民族です。茶の湯や浮世絵など、大衆が身近にアートを支えていたのです。たとえば浮世絵は、その芸術性が高く、世界的にはモネ、ゴッホにまで影響を与えています。しかし江戸時代、その1枚の価格はそば1杯(現在の約300円)の価格と同じでした。欲しい人がいれば、どんどん刷って分け与えました。
 教会や王室等と結びついてアートが発展した西洋は、アートと生活の距離が遠く、このようなことは考えられないことでした。芸術家には、古代ローマ時代、ルネッサンス以降でも、一貫して「哲学」、「科学」の素用が不可欠と考えられていました。

<入ってくるものを例外なく、すべて吸収してきた!>
 ――明治以降、西洋美術を輸入することによって、日本ではアートと生活の距離が遠くなったと言われています。

kyushu-geibun.jpg 伊東 明治維新のときは仕方がなかったと思います。そうしなければ、新しい政権のアイデンティティを出すことができなかったからです。しかし、歴史を遡ってみると、日本人は元来、入ってくるものを例外なく全部吸収しています。
 芸大の日本画保存修復技術は世界一と言われ、多くの外国の研修生が来ています。修復は、膠(にかわ)を接着剤として、岩石、土、貝殻等を合成した鉱物絵具などで行ないます。この技術は、中国大陸から朝鮮を通じて日本に伝えられたものです。しかし、今この技術が残っているのは日本だけです。金工の技術も中央アジアで生まれ、現在も残っているのは日本だけです。
 私は、日本(東洋)、西洋のそれぞれの良いところを学び、取り入れるべきだと考えています。

<過去、現在、未来との「共生」を考える!>
 ――先生は、「現代デザイン辞典」を監修されています。2013年のキーワードは何ですか。

 伊東 現在、編集会議で検討している最中です。ここ2年は、復興に果たせるデザイン力に焦点を置いてきました。今年は、過去、現在、未来の「共生」を考えています。近代主義は、新しいものが出ると、前者否定、後者肯定という考え方をします。去年発売されたパソコンより、今年のパソコンの方がすべてにおいて良いという神話です。工芸品についてはとくにそうですが、過去のものの方が良いものもたくさんあるはずです。
 私はかつて平安遷都1200年に関するイベント「数寄の都」展をプロデュースしました。数寄の都とは、さまざまな都市の異なる部分が存在するが、1つの都市として完結しているという意味です。日本人は古来、何かを否定して自分が存在することをしていません。日本も良いけれど、韓国も中国も良い。まったく自分を捨てず、むしろ活かして「共生」できるのです。この考え方の回復はとても重要です。
 私が最近プロデュースした福岡県筑後市の「九州芸文館」は、このコンセプトでできています。美術、陶芸、音楽など多様な文化施設が混在し、資料室、展示室、キッチンまであります。しかしその全景は、1枚の絵として見ることができます。

(つづく)
【金木 亮憲】

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<プロフィール>
東京藝術大学教授 伊東順二氏伊東 順二(いとう・じゅんじ)
早稲田大学第一文学部仏文科(1976年)卒業。早稲田大学大学院仏文科修士課程(80年)修了。仏政府給費留学生としてパリ大学、およびエコールド・ルーブルに学ぶ。フランス政府給費研究員としてフィレンツェ市庁美術展部門嘱託委員(80年)、「フランス現代芸術祭」副コミッショナー(82年)などを歴任。83年に帰国後、美術評論家、アート・プロデューサー、プロジェクトプランナーとして、展覧会の企画監修。アート・コンペティション、アート・フェスティバルのプロデュース、都市計画、また、企業、協議会、政府機関などでの文化事業プロデューサーとしても幅広く活躍。2004年長崎県美術館館長、05年富山大学教授、富山市政策参与、13年4月より東京藝術大学社会連携センター教授兼アートイノベーションセンター副センター長。「九州芸文館」アート計画プロデューサー。著書として、「現在美術」(パルコ出版)、「現代デザイン事典」(編集委員 平凡社、1996~2012年)ほか多数。


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