福岡県土木組合連合会 久留米支部 支部長
(株)郷原組 代表取締役
郷原恭彦 氏

地震や豪雨など自然災害が激甚化するなか、道路や河川などのインフラを守り、被災時の応急復旧を担う地場建設業者の重要性が高まっている。一方、建設業界では人材不足や高齢化、後継者不足が進み、地域の「復旧力」を将来にわたって維持できるかが課題となる。2023年7月豪雨で大きな被害を受けた久留米地域では、災害時に地場建設業者がどのような役割を担ったのか。福岡県土木組合連合会・久留米支部長を務める(株)郷原組の代表取締役・郷原恭彦氏に、災害への備えや人材確保、地場建設業の今後について聞いた。
地域を守る地場建設業
──災害時、地場建設業者はどのような役割を担いますか。
郷原 建設業者の役割は、災害が起きてから復旧工事をするだけではありません。普段から道路や河川などを見ながら、行政や地域と連携し、災害に備えています。
地場の建設会社には、地域で長く事業を続け、代表が2代目、3代目という会社も少なくありません。子どものころから見てきた道路や川、橋、山があり、地域の地形や土地勘をもっています。そうした蓄積は、発災直後の被害状況の把握や応急復旧において大きな強みになります。
私自身、とくに印象に残っているのが2023年7月の豪雨災害です。久留米市田主丸町竹野地区では土石流が発生し、大量の土砂や岩石が道路まで流れ込みました。私たちの担当する道路も被災し、まず通行できる状態に戻すための対応に追われました。
山から流れ出した土砂は非常に大きな岩石を含み、河川の流れそのものが変わるほどでした。道路を開通させた後も本格的な復旧には時間がかかり、現在もいまだ復旧工事が続いている場所があります。災害によって、それまで見慣れていた景色そのものが変わってしまう。それほど大きな被害でした。
久留米地域では、地震だけでなく豪雨や土砂災害、内水氾濫への備えも重要です。災害はいつ起きるかわかりません。だからこそ、平時から準備しておく必要があります。

──どのような体制で災害に備えていますか。
郷原 久留米支部には、現在79社が加盟しています。福岡県内の支部のなかで最も大きな規模です。それだけ多くの事業者が地域に存在していることは、災害対応という面でも大きな力になります。
個別の建設事業者は、福岡県と「風水災害時の緊急対策工事等に関する協定書」を結んでおり、それぞれ担当する地域などが決められています。月1回以上、自分たちの担当区域を巡視し、道路や河川などの状況を確認します。大雨や雪が予想される場合には、県土整備事務所から事前に待機の連絡が入り、すぐ動けるよう準備することもあります。久留米支部では独自に、組合員企業を地域ごとに分けた9班体制の緊急連絡網も整えています。災害が起これば、それぞれの班長を中心に、その地域に精通した業者が動く仕組みです。
災害時は、道路に流れ込んだ土砂を撤去する大がかりな作業だけではありません。道路が冠水すれば、バリケードを設置して通行止めにするなど、二次災害を防ぐための初動対応も必要です。また、久留米地域では内水氾濫への備えとして、排水ポンプ車が重要な役割を担います。久留米県土整備事務所には他地域に先駆けて配備され、今では4台の排水ポンプ車を動かせる体制となっています。県から要請があれば速やかに出動できるよう、支部内でも担当班を決めています。
今年度も久留米県土整備事務所から待機・出動要請があり、実際に対応しています。行政、地域、建設会社が日常的につながっているからこそ、有事に動くことができます。災害が発生してから体制をつくるのでは、遅いということです。
人材確保と技能継承
──人手不足は、災害対応にも影響しますか。
郷原 大きな課題です。単純に人数が足りないだけではなく、災害時に現場を見て判断し、すぐ動ける経験豊富な人材が減っていることも問題です。
災害現場では通常の工事以上に、「何から手を付けるべきか」「どこが危険なのか」といった判断が求められます。地域との調整や作業の段取りも必要です。こうしたものは、マニュアルだけでは身につきません。現場を経験し、先輩の仕事を見ながら覚えていく部分が大きいと思います。
一方で、建設業には今も「きつい」「汚い」「危険」といった、いわゆる3Kのイメージがあります。近年はICTや建設機械の活用が進み、仕事のやり方自体は大きく変わっています。働き方改革で、休日確保も進めなければなりません。
近年の猛暑も大きな問題です。昔のように真夏でも8時間連続して働くことは難しく、休憩をこまめに取りながら仕事をする必要があります。ファン付き作業着なども普及しています。現場によっては、早朝から作業を始めて気温が上がる前に終えるような働き方も、今後さらに必要になるかもしれません。
待遇だけでなく、こうした働く環境そのものを変えていかなければ、若い人に選んでもらうことは難しいと思います。
──若手への技能継承は、どのように進めていますか。
郷原 土木の多くの仕事は資格が必要です。1級、2級の土木施工管理技士だけではありません。重機を扱う作業、チェーンソー、掘削など、それぞれの作業に必要な資格や講習があります。当社でも、現場を担う社員には必要な資格を取得してもらっています。仕事を任せるためには、経験だけでなく資格も欠かせません。
久留米支部でも、行政やライフライン企業を招いた研修会を定期的に行っています。災害時にも電気、水道、通信など、多くのライフライン企業と連携しなければなりません。NTTや九州電力などから講師を招き、地下埋設物やライフラインに関する技術研修などを行うことで、安全性や技術力の向上につなげています。
平時から顔が見える関係をつくり、技術を学んでおくことが、結果として復旧力を高めることになります。
建設業の魅力を次世代へ
──若い人へのPRにも、力を入れられていますね。
郷原 25年4月、若手人材の育成や建設業の魅力発信を目的に、福岡県土木組合連合会青年部会が発足しました。若手の経営者や幹部が中心となり、業界の将来を見据えたさまざまな活動を展開しています。久留米支部でも約40社の若手が参加し、意欲的に取り組みを進めています。
人材不足が進むなか、仕事の魅力を外に発信することも重要です。その1つが福岡県と建設関連団体で開催しました「ふくおかケンセツ☆ジュニアラボ」です。昨年11月に久留米シティプラザで開催したこのイベントは、「ゲームじゃない、ホンモノの体験!」を掲げ、ショベルカーなどの乗り物体験やドローン操作、3D&バーチャル測量体験、木材工作などを実施しました。会場には多くの子どもや家族連れが訪れました。子どもたちには、まず「建設業って面白そうだな」と感じてもらうことが大事です。実際の建設機械を間近で見たり、ドローンを操作したりすることで、普段はなかなか知ることのできない仕事に触れてもらえる。すぐ採用につながるものではありませんが、将来の担い手を増やすには、こうした取り組みを続ける必要があります。
青年部では、DX研修にも取り組んでいます。建設業そのものを効率化するとともに、昔からある業界のイメージを変えていくことも若い世代の役割だと思っています。
──女性の活躍も広がっていますか。
郷原 以前に比べると増えています。当社にも女性社員がいますが、現場を担当しますし、現場がないときにはダンプにも乗ります。土木は男性の仕事というイメージが強いと思いますが、そうとは限りません。むしろ昔の農村部の土木現場では、女性が多く働いていた時代もありました。
今は女性が働きやすいよう、現場環境を整える必要があります。工事現場には女性専用トイレを設置したり、会社のロッカー室を男女で分けたりするなど、これまで男性中心だったために気づかなかった部分も、変えていかなければなりません。
女性に限らず、若者や外国人など、これまで以上に幅広い人材が働ける業界にしていかなければ、将来の担い手は確保できません。

防災を支える建設業
──行政に求めることはありますか。
郷原 年間を通じて、仕事量をできるだけ平準化してもらえると助かります。建設業はどうしても年度末に工事が集中します。以前よりは改善されましたが、昔は仕事がほとんどない時期がある一方、一気に発注されて人手が足りなくなることもありました。
災害時にすぐ動ける人材と重機を地域に残すためにも、地場建設会社が平時から安定して経営できる環境が必要です。また、適正な工事価格も重要です。人件費や資材価格、安全対策費を適切に反映し、企業が一定の利益を確保できなければ、人材育成や設備投資はできません。資材価格が急激に変動する時代ですから、必要に応じて契約価格を柔軟に見直せる仕組みも必要でしょう。
地域によっては後継者不足で、仕事があっても廃業する会社が出ています。会社がなくなれば、そこにいた技術者や重機、地域の経験も失われかねません。地域の建設会社を維持することは、産業政策だけではなく、防災という意味でも重要だと思います。
──これからの防災に何が必要でしょうか。
郷原 近年は、「これまで経験したことのない」「観測史上最大」といわれる災害が各地で起きています。過去のデータだけを基準にした対策では、対応しきれないケースも増えています。もちろん、堤防や道路、河川などを強くする工事は続けなければなりません。実際、対策工事を行ってきたからこそ、被害を抑えられている部分もあります。
ただ、災害を完全になくすことはできません。これからも「災害は起こる」という前提に立ち、発生後に誰が、どこへ行き、何をするのかまで準備しておくことが大切です。
地域の皆さんには、建設会社が普段、道路や河川をつくっているだけではないことも知っていただきたいですね。公共施設の巡視、防災訓練への参加、行政との緊急連絡網、重機や資機材の確保など、何も起きていないときから災害への準備をしています。
地域に建設会社があり、そこで人が働き、重機があり、技術が受け継がれている。それ自体が地域の防災力です。
災害時にすぐ動ける建設会社を地域に残しておくためには、平時から人材や技術、重機を維持できる環境が必要です。地場建設業を地域全体で支え、次世代へつないでいくこと自体が、地域の防災力を高めることにつながると考えています。
【内山義之】
<プロフィール>
郷原恭彦(ごうはら・やすひこ)
1958年6月生まれ、福岡県田主丸町出身。81年3月、九州共立大学工学部土木工学課卒業、同年4月、(株)羽野組に入社。82年4月、(株)郷原組に入社し、2002年10月、郷原組の代表取締役に就任。25年5月に福岡県土木組合連合会久留米支部支部長に就任した。そのほか、田主丸土木組合組合長も務める。

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