星野リゾート「界 嬉野」27年夏開業を正式発表 現地の温泉供給体制見直しの契機になるか
9月30日、星野リゾートは佐賀県嬉野市の嬉野温泉に温泉旅館「界 嬉野」を2027年夏に開業すると発表した。同社として佐賀県初進出となる。当初は27年春の開業が予定されていたが、その後、夏へと延期。今回の正式発表で、客室や施設の概要がようやく明らかになった。
「界 嬉野」は全28室で、全室に露天風呂を設ける。各客室には坪庭を配し、嬉野茶の茶葉を漉き込んだ建具や有明海をイメージしたアートなどを取り入れる。宿の中心にはスパトリートメント施設「美肌小舎」を設け、「日本三大美肌の湯」として知られる嬉野温泉の魅力を前面に打ち出す。30〜40代の女性を主なターゲットとし、福岡や首都圏からの旅行客やインバウンドなどの取り込みをはかる。予約開始は27年春を予定している。
星野リゾートという全国的な知名度をもつ事業者の進出は、嬉野温泉にとって大きな意味をもつ。西九州新幹線の開業でアクセス環境が改善した一方、その効果を温泉地全体のブランド力向上や宿泊需要の拡大につなげられるかが課題となってきた。星野リゾートの情報発信力や集客力への地元の期待も大きい。
新規参入を左右する「湯」の問題
一方、今回の開業までの経緯を考えるうえで避けて通れないのが、嬉野温泉の「湯」をめぐる問題だ。
嬉野温泉は、源泉所有者と呼ばれる限られた事業者のみが温泉を揚湯できることになっており、源泉をもたない旅館やホテルなどは、源泉所有者から供給を受けなければならない。そうした事業者への供給を主に担ってきたのが嬉野温泉配湯(株)だ。
現在、嬉野市は嬉野温泉配湯から申し出を受けた配湯事業の譲受について検討を進めている。市は今年、譲受価格や事業の内容、今後必要となる投資などを調査する業務を公募型プロポーザルで発注し、PwCアドバイザリー(同)を受託候補者に選定した。調査結果は年明けにまとまる見込みで、その内容を受けて、嬉野温泉の配湯を今後誰が、どのようなかたちで担うのかという議論が本格化する。
源泉所有者らの対策にも期待
嬉野温泉では昨年1月、源泉水位が大幅に低下し、温泉資源の持続可能性そのものが問われる事態となった。背景には、揚湯できる権利が限られた源泉所有者に集中する一方で、温泉地全体として揚湯量を管理する実効性のある仕組みが十分に整備されてこなかったという構造的な問題がある。
源泉は私有財産である一方、嬉野温泉という地域ブランドを成り立たせる最も重要な資源でもある。嬉野温泉全体を発展させるには、源泉所有者だけでなく、源泉をもたない既存事業者も安心して営業でき、温泉資源そのものを将来にわたって維持できる揚湯・配湯体制を構築する必要がある。そのうえで、新たな事業者を受け入れられるだけの安定した供給余力を確保できるかも重要になる。
こうしたなか、源泉所有者側でも安定供給に向けた対策を進めようとする動きが出ている。まず試金石となるのが、これから迎える冬の繁忙期だ。気温の低下とともに宿泊客が増え、温泉使用量も膨らむ時期に、源泉水位を維持しながら必要な湯量を安定して供給できるのか。その実績は、現在の供給体制がどこまで持続可能なのかを見極める材料になる。
さらに27年夏には、新たに「界 嬉野」が加わる。既存の旅館・ホテルへの供給を維持しながら、新規施設が必要とする湯量まで確保できる体制を示せるか。今冬を無事に乗り越えることは、その意味でも大きな意味をもつ。星野リゾートの開業までに、嬉野温泉として安定供給への道筋を具体的に示すことが求められる。
星野進出を「次の嬉野温泉」への契機に
星野リゾートの進出は、嬉野温泉の知名度と発信力を一段引き上げる大きな機会となる。その効果を一施設の開業にとどめず、温泉地全体の発展につなげるためにも、足元に残された温泉供給の問題を先送りすることはできない。
27年夏の「界 嬉野」開業に向けた動きと並行して、配湯事業の在り方についても大きな節目が迫っている。星野リゾート進出を契機として、限られた温泉資源を守りながら、新たな投資や挑戦を受け入れられる持続可能な仕組みづくりへと踏み出すことを期待したい。
【寺村朋輝】









