2024年05月03日( 金 )

「ビンタた」ミスすると殴り合う異常空間(前)~筑後リサイクル店殺人事件

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 福岡県筑後市のリサイクル店の従業員や関係者4人が約10年前に相次いで死亡した事件で、殺人罪などで起訴された経営者夫妻のうち、妻の中尾知佐被告人(47)の公判(裁判員裁判)で、被害者らが死に至るまで暴行が日常的継続的に行われていた異常な実態が浮かび上がった。

「一生苦しんでほしい」と遺族

kurai2 「(息子が)苦しんだことと同じように一生苦しんでほしいと思います」。
 福岡地裁第1号法廷の証人席で、殺人事件の被害者の母親が泣きながら語った。息子の日高崇氏は当時22歳。2003年8月頃に被告人らのリサイクル店で働き始め、翌年の6月下旬に死亡したとされている。亡くなっていたと知ったのは14年6月。「骨もないし、絶対に信じられなかった」。
 母親は今でも日課にしていることがある。玄関で「待っているからいつでも帰っておいで」と、息子に向けて語りかけているという。

 殺人罪などで起訴されているのは、知佐被告人と、夫の中尾伸也被告人(49)。
 2人の周りでは、元従業員らの行方不明が連続し、被害者の親族が警察に届出ていた。04年5月末~6月中旬に元従業員の男性(当時19歳)が死亡(傷害致死の時効が成立しているため不起訴)、04年6月下旬に元従業員の日高崇氏が死亡(殺人罪で起訴)、06年10月に義弟の冷水一也氏(当時33~34歳)とその息子の大斗君(当時4歳)が死亡(傷害致死罪で起訴)したとされている。死亡が確認されたのは約10年後だった。

 死亡が発覚したのは、被害者の大斗君の所在調査で12年9月に警察が自治体から相談を受けたのがきっかけだった。遺体の骨の一部が伸也被告人の実家の庭から発見され、DNA鑑定の結果、行方不明だった被害者と確認された。

暴力で支配し、虐待の末…

 検察側によれば、被害者らは両被告人から暴力で支配され、逃げることもできない状態におかれ、日高氏らの顔面ははれあがり、十分な食事を与えられず、衰弱し、普通の速度での歩行が困難になっていった。検察側は、被告人らが共謀し、日高氏が死んでもいいと思って、人が死ぬ危険性が高い行為と分かって、虐待行為を続けたとしている。
 知佐被告人の弁護側は、事件全体を「夫である伸也がキレて起こした事件」と主張し、日高氏殺害について、「暴行を加えたのは伸也で、知佐被告人は殺すつもりもなければ、殺すことについて伸也と話し合ったり、指示したこともない」として、殺人罪の成立を否定している。

「ビンタた」「ゲンコツた」と殴り合わせる

 被害者が死に至ったリサイクル店では、伸也被告人が「社長」、知佐被告人が「部長」と呼ばれていた。リサイクル店では、知佐被告人が、給料の支払いなど経理を担当し、伸也被告人が中古の電化製品や家具など仕入れて、従業員らが商品をきれいに磨き店舗で販売をしていた。

 元従業員らが公判で証言し、勤務時間が毎日のように午前9時、10時から午後12時、翌日の午前2時までの長時間におよび、1つひとつの作業を始める時と終わる時に逐一電話などで知佐被告人に報告し、その報告回数は1日に50回以上にのぼり、ミス1件につき1,000円の罰金が給料から天引きされたという。
 証言をまとめると、たとえば掃除では「砂ひと粒、髪の毛1本、曇り1つ」でも残っていると、ミスと扱われた。ミスがあると罰金のうえ、知佐被告人から「ビンタた」「ゲンコツた」と言われ、ミスした従業員が他の従業員に「ビンタお願いします」と言って、殴り合うシステムがあった。知佐被告人がいないときでも、ミスがあるかないかを従業員同士がチェックし、同じように殴り合った。被告人がそばにいないのだから殴り合わなくてもバレないのになぜズルをしなかったのかとの質問に、証人は、密告制度と知佐被告人らへの恐怖を語った。
 元従業員の女性は、ミスがあれば「チェックした人が殴るように、部長から言われていた。(私もミスを見つけたときは)『殴ってください』と言われ、実行しました」と述べ、法廷で泣き続けた。知佐被告人、伸也被告人から直接殴られたり蹴られたこともあったと話した。

(つづく)
【山本 弘之】

▼事件の経過
2003年   中尾伸也、知佐両被告人がリサイクル店を開業
2003年4月 死亡した元従業員男性が同店で働き始める
2003年8月 日高崇氏が同店で働き始める
2003年12月 日高氏、元従業員男性が中尾夫妻のアパートに住み込み始める
2004年5月下旬 元従業員男性が死亡
2004年6月下旬 日高氏死亡
2006年4月 冷水一也氏が同店で働き始める(5月には住み込み始める)
2006年10月 冷水氏の息子大斗君と冷水氏が相次いで死亡
2012年9月 筑後市が大斗君の所在調査で福岡県警に相談
2014年4月 福岡県警が両被告人を窃盗容疑で逮捕(5月に窃盗罪で起訴)
2014年5月 伸也被告人の実家の庭から人骨発見
2014年7月 日高氏殺人罪で福岡地検が両被告人を起訴。9月には冷水氏と大斗君の傷害致死罪で起訴。
(検察の冒頭陳述などから作成)

 
(中)

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