2024年04月28日( 日 )

豊洲新市場構造についての素朴な疑義(後)

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協同組合建築構造調査機構 代表理事 仲盛 昭二 氏
(構造設計一級建築士)

 豊洲新市場の建設は、民間の大手設計事務所が設計を担当しているので、鉄筋コンクリートによる地下空間構築よりも、盛土の方が工事費用がはるかに少ないことは、容易にわかっていたことです。構造的にも、現在のようなかたちでは、工学的に不適切であることは明らかなので、都の意向に対して、適切な助言を行うべきでした。どのような経緯で、誰の指示により、現在の建物の設計に至ったのか、設計事務所レベルから遡及していけば解明できる、簡単なことだと思います。

tukiji 土壌汚染対策も含めて(考慮して)の設計であるはずです。盛土もなく、地下水の侵入を防ぐ手立ても講じないまま、建築コストのかさむ地下空間を構築する設計を行った設計事務所は、工事費を膨らませるという都の行為に加担したことは事実です。何のための設計コンサルタントなのか、この件に関しては、存在意義を見出すことができません。
 この設計を担当した日建設計は、日本で最も大きな設計事務所です。多くの公共建築物や重要な建物を設計しています。それら、日建設計の過去の設計物件に対する不安を取り除くためにも、日建設計として、真実を説明すべきだと思います。日建設計が説明責任を果たさなければ、建築界における日建設計の名声が失墜してしまうことを肝に銘じていただきたいと思います。

 地下空間の異様な深さについて、「将来的に土壌汚染が発生した場合に建設重機を入れる目的での深さ」という説明や、「モニタリング空間」という説明が出てきていますが、そのような目的であったのなら、設計主旨として明言すればいいだけのことであり、問題が発覚してからあわてて言い訳するようなことではありません。将来的に地下空間に土を入れるということは、構造体の基礎が存在している地中を掘り返すことは事実上不可能なことであり、都の説明は後付けの苦しい言い訳に他なりません。

 盛土により汚染を防止するということが土壌汚染対策の基本として決定していたので、盛土を取り止める代わりに、別の土壌汚染対策を講じなければならないのは当然です。しかし、東京都から土壌汚染対策の代替案に関する説明はなく、単なる言い訳や論点のすり替えに過ぎません。

 この不条理な都関係者の意見を押し通した背景には、何らかの「天の声」の影響が存在しているのではないかと解釈するのが自然です。行政主導の建築物(いわゆる箱物)に関して、このような「天の声」は、一般的な設計作業においても、往々にして聞こえてきます。これは東京都に限らず、全国的な事象です。「天の声」の主を守るためには、苦しい言い訳や論点のすり替えが必要であり、それは即ち、都の担当職員の立場の保全のために必要不可欠なことなのでしょう。

 豊洲に関しては、地下空間構築という結論ありきで、特殊な背景・環境を人質に取り、時間的にも物理的にも後戻りできない状態にしたうえで、今後の諸設備のメンテナンス費用などの関連費用を稼ぐための「打ち出の小槌」をつくりたかっただけだと思います。
 豊洲の建設工事には、スーパーゼネコンが名を連ねています。これらのゼネコンは、当然、天下りの受け入れ先になっていることも事実です。役人は建築に関する実務経験がなく、技術的には素人に近いので、役人たちを言い包めることも容易なことです。“魑魅魍魎”が巣食う“伏魔殿”を破壊しなければ、今後、東京五輪関連施設の工事においても、魑魅魍魎たちは、巨額の利益を吸い上げ続けることでしょう。

 盛土方式と地下空間構築、どちらの費用が少ないかということは、建築技術以前の簡単なことです。土壌汚染対策などはさて置き、それ以前の結論ありきの方針だったのです。要するに、すべて、「お金=税金」の分捕り合戦だけなのです。
 なぜ、この簡単なことを、マスコミに登場している評論家や建築士の方が発言しないのでしょうか――。否、現役の関係者は、立場上、発言できないのです。

(了)

 
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