2024年04月26日( 金 )

日本電産・永守会長 巨額の寄付に込めた思い

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 次々と教育機関への寄付を発表する、モーター大手・日本電産(株)の永守重信会長兼社長。その寄付にはどんな意図があるのだろうか。

 4月7日、日本電産と京都大学は、同大学の大学院工学研究科にモーターなどを研究する寄付講座を設立したと発表した。日本電算は2022年3月末までの5年間に、計2億1,100万円を研究費用を寄付する。資金だけでなく、研究機器や試験設備の提供や研究面でも協力するという。講座を担当する教授は「ひも付きではなく、我々のやりたいことをやれと言ってもらえたので、基礎的な原理からじっくりと研究する」と語った。

 3月30日には、京都学園大学の工学部新設を支援するため、個人として100億円以上を寄付すると発表した。永守氏の人生の夢である工科大学設立と大学側の構想が合致、18年春には永守氏自身が京都学園大学の理事長に就任し、学校経営に乗り出すなど、大学を通じた人材育成に強い意欲を見せる。
記者会見で永守氏は、「大学を作るのが夢だった。他国と比べて日本の大学は即戦力を出せていない。企業や社会が求める人材を育てる。金も口も出すよ」と語り、「税金はどう使われるかわからんが、寄付なら使い道がはっきりする。全部使ってあの世に行くということや。教育が一番良い」と明確なメッセージを発した。

 過去には、14年に京都府立医科大学の敷地内に、がん治療のための陽子線施設を新設し、医療機器とともに府に寄付すると発表している。このときの寄付額は個人資産約70億円といわれている。また、同年には私財を投じて「永守財団」を設立。モーター開発を支援する「永守賞」を創設した。

 一見すると、老齢に差し掛かった経営者が教育関係に次々と多額の寄付を行っているという美談だが、発言や寄付の内容を見ていくと、そこには永守氏ならではの一貫した哲学が垣間見える。

 永守氏といえば、1日16時間働くともいわれるハードワーカーぶり、日本電産の経営哲学である「情熱、熱意、執念」「知的ハードワーキング」「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」など、仕事に対する情熱、意気込みの強さで有名である。
 しかし、その一方でたった4人で創業した会社を大きくする過程では、人材獲得に苦労をしてきた。設立したばかりの零細企業に集まるのは残念な人材ばかり。しかし、その人材を鍛えぬき、日本電産の成長の柱に育てていったのである。

 永守氏は経営不振に陥った企業を買収し再建させることでも有名であるが、このとき個人で筆頭株主になり、会長に就任して直接再建に取り組むことが氏の特徴だ。これはまさに記者会見で語った、「金も口も出す」やり方だと言えよう。
 そして、買収後、永守氏は何よりも社員の意識を変えることに注力する。氏の経営改善のための手法は「3Q6S」といい、「Quality Worker(良い社員)」「Quality Company(良い会社)」「 Quality Products(良い製品)」の3つのQを実現するために「整理」「整頓」「清潔」「清掃」「作法」「躾」の6つのSを実行するというものだ。事実、氏は買収後にリストラを一切行わず、元からいた社員の意識を自ら率先して改革することで、数々の再建に成功してきた。
 単なる投資ではなく、自分でリスクを負い、買収した以上は必ず再建させるという永守氏の決意に、社員は感化されていくのだろう。

 また、15年には「永守経営塾」、16年には「グローバル経営大学校」を日本電産内に開校。それ以前から語学スクールや専門能力養成プログラムなどを導入するなど、永守氏は自身がハードワークを行う以上に、人材育成へ力を注いできたのだ。

 永守氏の一連の寄付行為は、これまで社内に向いていた人材育成への情熱が、発言にある「日本の大学は即戦力を出せていない」という思いによって日本電産という枠を飛び越え、行動となって表れたものなのだろう。
 名経営者・永守氏による、日本の研究者・技術者の育成という「日本の未来への投資」に他ならないのである。

 とあるインタビューで氏はこう発言している。「財産は確かに作りましたが、おカネには興味ありません。これまでのように医療施設などに寄付を続けていきたいですし、若い研究者は資金がないので、そういうものに助成もしていきたいですね。私自身には車1台と、住む家が1軒あれば充分ですよ」。
 永守社長の資産は「日本長者番付2017」(フォーブスジャパン)によると推定3,890億円。上記の発言や、今回の「全部使ってあの世に行くということや。教育が一番良い」という発言からも、永守社長の教育への寄付という名の「投資」はまだまだ続きそうである。

【犬童 範亮】

 

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