2024年04月27日( 土 )

三越伊勢丹HD、大西洋社長突然のクビのワケ(前)

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 異例の社長退場劇だった。(株)三越伊勢丹ホールディングス(HD)は3月7日、大西洋社長が退任し、後任の社長として杉江俊彦取締役専務執行役員が4月1日付で昇格すると発表した。大西氏と杉江氏は共に(株)伊勢丹出身。大西氏は6月21日開催の株主総会まで取締役を続けるが、(株)三越出身の石塚邦雄会長とともに総会で退任する。
 前日に大西社長の引責辞任が報じられた。後任が決まらないうちに社長退任が表面化する異常さが憶測を呼んだ。店舗閉鎖をめぐる、旧三越と旧伊勢丹の対立とみられたが、実際は、“反大西派”によるクーデターだった。

4店舗リストラの勇み足発言

 3月4日午後、伊勢丹新宿本店近くの三越伊勢丹HD本社の一室で、大西社長は石塚会長から「構造改革の混乱の責任をとって、辞めてもらいたい」と辞表提出を求められた。

 三越伊勢丹HDは7日午前、本社で社外取締役を中心とする指名報酬委員会を開いた。結論は、大西社長の辞任と杉江専務の社長就任。委員会の協議を踏まえ、その後の取締役会で正式に人事案を決議した。辞任というかたちをとっているが、事実上の解任、クビである。

 三越伊勢丹内部では、かなり以前から大西氏への不満が高まっていたが、“反大西派”がクーデターを仕掛けるきっかけになったのは、大西氏の不用意な発言、はっきりいえば失言だ。

 2016年11月8日に開かれた決算発表の席上でのこと。苦戦する地方・郊外店についての改善策を問われた際、大西氏は伊勢丹松戸店(千葉県松戸市)、伊勢丹府中店(東京都府中市)、広島三越店(広島市)、松山三越店(愛媛県松山市)の4店を具体的に挙げ、百貨店部分の縮小やテナントの誘致など抜本的を講ずる方針を示した。

 実はこの時点で4店の改革について、取締役会で正式に決定したものではなかった。それ以外にも、新潟と札幌の重複店舗の整理、正月営業など、大西氏の口から次から次へと重要事項が伝えられた。マスコミは、三越伊勢丹の店舗リストラを大々的に報じた。

 まだ正式に決まっていないことを、大西氏がマスコミに公表したのだ。大西氏は、テレビや雑誌に頻繁に登場して、メディアの評判はよかった。決算の数字がよくなかったので、建て直しに意欲を見せるために店舗改革をぶち上げたのかもしれないが、これは明らかにフライング。役員たちは驚き、激怒した。

 大西発言に猛反発したのが労働組合だ。以前から、マスコミに流して物事を既成事実にしていく大西氏のやり方に不満が高まっていたが、これが決定打となった。労組は「各種メディアを通じ、これまで名前が挙がっていなかった店舗の構造改革や100億円の人件費削減など断片的な情報が流され、職場が混乱した」と経営陣に抗議した。

 社内の不満を背に、“反大西派”は大西社長追い落しのクーデターを決行した。大西氏は伊勢丹出身だが、傍流の紳士服畑で、本流の婦人服畑に足場はなかった。旧伊勢丹出身者たちは、大西氏の擁護に動かなかった。四面楚歌のなかクビを切られた。

(つづく)
【森村 和男】

 

(後)

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