2024年04月26日( 金 )

三越伊勢丹HD、大西洋社長突然のクビのワケ(後)

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連結営業利益500億円の達成時期を先送り

 社外取締役たちが大西氏に見切りをつけたのは、いたってシンプルな理由だ。中期経営計画が未達だったからだ。11月8日の決算会見の席上、大西氏は、中計で掲げた連結営業利益500億円の達成時期を、19年3月期から21年3月期に先送りした。

 17年3月期の営業利益計画は前期比12%増の370億円としていたが、実績は計画を大幅に割り込んだ。連結売上高は前期比3%減の1兆2,534億円、連結営業利益は239億円と、前期の331億円から28%減った。

 中国政府の関税引き上げなどをきっかけに、訪日外国人(インバウンド)が高額品を買い控えた。三越伊勢丹は免税売上高の規模が500億円前後と他の大手百貨店より大きく、影響が大きかった。

 なによりも国内百貨店事業が低迷した。中核百貨店の(株)三越伊勢丹が落ち込み、郊外店や地方店も不振だった。百貨店事業全体の17年3月期の売上高は1兆1,151億円で、セグメント利益(営業利益)は110億円。これは“爆買い”特需で沸き立っていた14年3月期の売上高1兆2,010億円、セグメント利益232億円と比べると、それぞれ7%、52%の減だ。

 不振が際立っているのが三越伊勢丹である。売上高は6,601億円、営業利益は159億円。前期と比べて、売上高は189億円、営業利益は84億円減った。これまで三越伊勢丹の稼ぎで、地方店の低迷を補ってきたが、その本体の足元が揺らいだ。

 かつて中国人の“爆買い”が殺到した三越銀座店の売上は前年から5%の減だ。16年1月、三越銀座店に市中免税店を華々しくオープンしたが、いまでは閑古鳥が鳴く。大西社長の責任を問う声が高まるのは避けられなかった。

 ちなみに、系列の地方百貨店で規模が最も大きいのは、福岡市が本拠の(株)岩田屋三越だ。売上高は1,148億円、営業利益は4.6億円。それでも前期に比べ売上高は24億円、営業利益は3.1億円の減。他は推して知るべしだ。

百貨店に過度に依存した経営体質

 三越伊勢丹HDが苦況に陥ったのは、百貨店事業に過度に依存した経営体質にあるからだ。同社の連結売上高に占める百貨店事業の構成比率は17年3月期で89%。“脱百貨店”を進めているライバルのJ.フロントリテイリング(株)の63%(17年2月期)と比べて高く、その分、訪日外国人による“爆買い”鈍化の影響をもろに受けた。

 J.フロントは、早くから百貨店に依存しない事業モデルを構築してきた。その1つが不動産事業だ。今年4月には森ビル(株)などと組み、松坂屋銀座店跡に商業施設「GINZA SIX」を開業した。同施設はテナントからの家賃収入を主体とし、初年度から利益貢献する見通しだ。(株)高島屋はショッピングセンターなどの不動産開発を収益源に育ててきた。

 J.フロントと高島屋は時間をかけて脱百貨店に取り組んできた。三越伊勢丹HDは「百貨店一本足打法」から脱却できるか。ビジネスモデル転換の最後のチャンスだ。

(了)
【森村 和男】

 

(前)

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