2024年04月29日( 月 )

地方スーパーの生き残り策(5)

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 ホールフーズはその店舗数が400に近づくころからアイテムと取扱商品を従来型から大きく変化させた「365 by Whole foods」という小型店をつくり始めたのだ。
 従来の有機、高質、多アイテムから、その内容と価格を一変した店である。若いミレニアム層をターゲットにしたこの店は店舗面積840坪、7,000アイテム、PB40%、精肉鮮魚はプリパッケージという従来型とはまったく違う店舗である。たしかに新たな試みは必要だが、同社のイメージが高質で固定されていることを考えると、この展開にはいささかの疑問が残る。このレベルの分野なら、既存大型チェーンに一日の長があるのは確実である。さらにディスカウントとなるとアルディーやウォルマート、さらに新参のリドルなどが競争相手になる。いずれもその分野では強敵だ。
 そのホールフーズだが、アマゾン傘下になった直後、お客が激増した。生鮮食品を中心にその価格を大幅に引き下げたからだ。しかし、短期間で35%台の粗利率が33%になり、利益の改善にはつながらなかった。
 アマゾンがホールフーズに手を出した理由は生鮮の宅配の充実だ。彼らはこの10年来、アマゾンフレッシュという生鮮宅配システムを実験してきた。しかし、生鮮の宅配は時間と質との勝負になる。高質な生鮮を正確に短時間で配送するというのは顧客満足の面でも時間、コストの面でも容易ではない。ノンストアで成長してきた彼らがリアル店舗に進出したのはそれを利用して宅配の充実を図ろうとしているというのが大方の見方である。しかし、それが正しいかどうかはやってみなければわからないという表現が妥当である。なぜなら、ホールフーズという店はリアルの楽しさと有機やアニマルウェルフェアといった付加価値で顧客の評価を得た企業である。いうなればホールフーズ族といった特別なこだわり客が中心だったはずである。その点、アマゾンとは対極をなす。

 では、なぜホールフーズはここにきて業績停滞をきたしたかということである。ホールフーズの経費率は28%台。一般のスーパーマーケットに比べると大幅に高い。しかも1店舗あたりの売上が日本円で35億円前後の高効率企業である。高粗利、高売上にはある条件がある。それはそれに見合う商圏の存在である。これは洋の東西を問わない。
 それは関東でも、ここ福岡の地でも同じである。高質といわれる企業条件は高所得者が一定以上居住する商圏が存在することである。食品粗利率28%以上。ヤオコーでもボンラパスでも同じだが、その成立立地は限られている。つまり、粗利益率30%を必要とするスーパーマーケットはアメリカでも福岡でも多出店はできないのである。

新たな試みと情熱

 福岡の高質店でいえば、ボンラパスの親会社ハローデイがある。ハローデイはトップの情熱とこだわりで一般SMとは異質の路線をとっているが、かといって30%に近い粗利をとっているわけではない。その粗利率は、むしろマックスバリューとほとんど変わりないのである。
 ハローデイは付加価値の高さに加えて、全体平均でマックスバリューと変わりない粗利率にすることにより、その1.5倍以上の店舗売上を叩き出している。そうすることで経費率を下げているのである。経費率が同じということは経費の額が同じということではない。より高い経費をかけながら、生鮮を中心とした質の向上と、生鮮以外の安さを武器に高い坪効率を得ているということである。この構造はホールフーズに似ている。
 一方、ルミエールは低い値入による安売りで集客する。この企業も基本的な構造は同じである。価格による集客と買上単価が通常のスーパーに比べてはるかに高い。結果として坪効率が上がり、経費の率が下がるのである。そしてその経費率は10%を割る。
 ルミエールの数値は、かのコストコに似ている。コストコの真骨頂はここ10数年来、10%台の粗利益率と8%台の経費率が不変ということである。しかし、1店舗あたりの売上は毎年伸び続けている。小型スーパーの半分にも満たないアイテムで、その10数倍の売上を上げるこの企業の坪効率も以上に高い。もちろん、コストコの生鮮を含むペリシャブルフーズ(日配および生鮮)の構成比は12%程度とスーパーの一部門程度に過ぎない。彼らの特徴を一言でいえば「販売商品の独自性」である。コストコで売っている大半の商品はコストコに行かなければ買えない。彼らが志向するのは違いを手にするための集中と選択である。いわゆる「Make a difference」である。だから時には100キロ先からでもお客がやってくる。
 前出した特殊型の企業だが、もし、彼らがその戦略を常識的なレベルの変えたとしたらどうだろう。売り上げはすぐに通常のスーパーマーケットと同じくらいなる。顧客にとって「わざわざの店」でなくなるからである。そしてその結果はいうまでもない。

(つづく)

<プロフィール>
101104_kanbe神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

 
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