2024年05月09日( 木 )

福岡市の入札不調が増加、深刻な人手不足と廉価発注(前)

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増え続ける福岡市の入札不調件数

 福岡市が2019~23年(23年は1月18日まで)にかけて発注した建設工事の入札状況をまとめた結果、19~22年にかけて、入札不調(以下、不調)の件数が増加傾向にあることがわかった。

 不調とは、応札者がゼロ、または1社のみとなり、公共工事の落札者が決まらない状態を指す。近年、福岡市に限らず、高知県や高槻市(大阪府)など、全国の自治体で不調は増加傾向にある。理由は各地域によってさまざまだが、福岡市においては概ね2つに大別される。それは、「人手不足」と「予定価格の低さ」だ。

 福岡市における19~22年にかけての不調件数を見ると、最多は22年。不調発生率は約7%で1割未満に抑えられてはいるものの、前年比で入札件数が減ったのに対して、不調件数が増えていることから、公共工事の施工をめぐる環境は厳しさを増しているといえる。

 とくに不調件数が多いのが、土木工事と建築工事。市が22年に発注した土木工事と建築工事は、どちらも1割超が不調となった。この状況は20年から続いており、土木工事に関しては21~22年にかけて不調発生率が2ポイント超も上昇している。

 土木工事は発注件数が多いため、不調件数も比例して多くなるという言い分は通るが、重要なのは不調件数が増加している理由だ。筆者が実態把握のために、市内の土木工事業者を対象に行ったアンケートの結果では、入札辞退の理由として最も多かったのは技術者や作業員の不足だった。本誌内で連載中の「建設業界 職人不足問題への提言」でもたびたび言及しているが、建設業界では団塊の世代が大量退職を迎える、いわゆる「2025年問題」への対応が課題となっており、人手不足による不調は、今後も増加傾向で推移するものと考えられる。

 人手不足に次いで入札辞退の理由として多かったのが、市の提示する予定価格が安すぎるというもの。アンケートのなかには「現場をよく確認したうえで、設計~発注に至ってほしい」との声もあり、市と事業者間で、適正価格に対する認識に齟齬が生じている様子がうかがえる。22年には「アイランドシティ地区小学校校舎棟新築工事(予定価格:18億6,296万円)」といった大型案件も不調に終わっている(2回目で落札)。

 市では不調が発生した場合、対象企業に入札辞退の理由のヒアリングを行っている。市側も、地元企業が直面している人手不足の深刻さと予定価格に対する指摘は承知しているはずではあるが、不調発生率の改善には、こうした現状を考慮したうえでの対応が不可欠となっている。

「予定価格=標準価格」から脱却を

 予定価格には過去の工事で実際に支払った労務単価や資材価格などの、実態調査の結果が反映される。予算決算と会計令第80条の2でも「取引の実例価格、需給の状況、履行の難易、数量の多寡、履行期間の長短等を考慮して適正に定めなければならない」と規定されている。正確には、実態調査の結果から平均値・最頻値を算出して、その値を反映することで、工事にかかる標準的な価格として定められたものが予定価格である。

 しかし、予定価格=一般的な工事業者が標準的な工法で施工した場合に必要となる工事費用、としてしまうと、予定価格が安すぎて、その価格では工事ができない業者と、それでも採算がとれる業者や、受注実績を得るために赤字覚悟で入札する業者という、「できる業者」と「できない業者」の二極化を招いてしまう恐れがある。

 受注可能な業者が限定されるということは、公共工事に求められる競争性・公正性が確保できなくなるという問題につながる。営業所や支店を全国展開している大手による地方公共工事の独占、ひいては地域の守り手である地元企業の衰退も引き起こしかねない。実際に、糸島市発注の新庁舎建設工事は、総事業費約65億円という市発足以来最大規模のプロジェクトだったにも関わらず、応札者に地元企業の名前はなく、落札したのは大阪本社の村本建設(株)九州支店という結果に終わった。

 労務単価は地域や資格の有無、熟練度によって、資材価格は取引業者間の関係性や交渉によって、それぞれ変動する。また、建築工事におけるおおよその工事費の算出は、工事費概算書を作成する設計事務所によるところが大きく、仮にインターネットで検索して一番安い資材価格が採用されれば、実情と大きくかけ離れた概算費用ができあがってしまう。

 不調が増加傾向にある福岡市において、予定価格の見直しは必要不可欠だ。22年春ごろからは、入札辞退の理由に「資材調達困難」を挙げる企業も増えてきている。鋼材価格の高止まりに加えて、23年4月以降、福岡では生コン価格が1万9,000円~/m3に値上がりする。予定価格は、市況に応じて柔軟に変動し続けることが理想的だ。

 地方自治体の動きが鈍いなか、国土交通省では公共建築工事共通積算基準や品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)を定め、可能な限り標準化を図ろうとしている。とくに品確法は、建設関係団体などから国交省に寄せられた意見を基に改正され、発注者に対して設計書にある金額からの歩切りの撤廃、予定価格の適正な設定などを求めている。

(つづく)

【代 源太朗】

(後)

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