2024年05月08日( 水 )

福岡市の入札不調が増加、深刻な人手不足と廉価発注(後)

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第1種電気工事技士が足りない

 土木、建築工事以外で目立つのが、電気工事における不調件数の増加だ。19~21年までは片手で数えられる程度の件数だったが、22年に急増。両手では足りない規模まで膨らんでいる。入札辞退の理由として多いのは、やはり人手不足だ。

 公共施設はもちろん、マンションやビル、工場などで配線や電気設備の設置工事などを行う第1種電気工事士。業務独占資格でもあり、無資格者が同様の作業を行うことは法律で禁じられているため、第1種電気工事士の供給不足は、官民双方で関連する開発計画の停滞を招くことになる。

 経済産業省が公表している「電気保安人材の中長期的な確保に向けた課題と対応の方向性について」によれば、16年時点での第1種電気工事士の数は約19.9万人で、必要数の約20.4万人を下回っている。高齢者層の退職などによって、30年には想定需要約18.3万人に対して約15.7万人と、数万人規模の人手不足が生じることが想定されている。

 こうした状況を受け、全日本電気工事業工業組合連合会(全日電工連)が自民党電気工事議員連盟に、第1種電気工事士の免状申請要件の緩和について陳情を行い、21年4月以降、必要とされていた実務経験の年数が5年から3年に短縮された。しかし、即効性に期待できるものではないほか、工業高校の数が減少を続けるなど、労働力の供給体制の脆弱化も進む。福岡市発注の電気工事においてもこの先、不調件数が増加していくことは想像に難くない。早期の新規入職者の増加が望めない以上、当面は既存人材の定着、リスキリング促進に注力すべきだろう。

 不調件数の増加は、見積もりの取り直し、当初予定されていた工期の変更、職人の再手配など、事業者の時間と労力を奪う。市職員も再入札にともなう事務作業や事業者との再交渉を余儀なくされるため、税金の無駄遣いにつながる。不調件数の減少に取り組むことは、結果として、市と事業者の双方にとって有益となるはずだ。

官民連携で次世代の担い手確保を

 建設業界における最大の懸案事項である人手不足。大阪万博開催に向けたインフラ整備、品川~名古屋駅間のリニア中央新幹線開通プロジェクト、九州でも熊本のTSMC工場建設に、宮崎の国スポ開催に向けた準備と、多くの人手を要する工事が全国各地で同時進行している。人手不足、とくに施工管理技士の不足は、ゼネコンにとって死活問題だ。JVを組んで人手を融通し合うことで、現状は何とか需要に応えてはいるが、開発計画が“絵に描いた餅”で終わる可能性は、日々高まり続けている。

 また、人手不足は各作業員の負担増加、ひいては事故発生リスクを高めることにもつながる。不幸な事故を減らすためにも、十分な人手と余裕ある工期設定が求められる。実現には発注者の理解、協力が肝要となる。市には地場の建設業者が事業を継続できるように、中間前払金の支払い条件の緩和や、予定価格への現状(労務単価の向上・資材価格の高騰)の反映といった、さらなる支援強化が求められる。

 次代を担う若い人材が業界入りし、定着するためにも、まずは待遇改善が必要であり、そのためにも適正価格の実現が求められる。ダンピング受注の防止はもちろん、労務単価のさらなる向上、常態化している早出・残業ありきの工期設定の解消など、官民一丸となって環境整備に取り組むことで、「給料が高い」「休日が多い」「希望がもてる」の“新3K”を提示することは可能なはずだ。

(了)

【代 源太朗】

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