2024年05月08日( 水 )

日本庭園からエクステリアまで手がけ豊かなまちづくりに貢献

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(株)別府梢風園

国際花と緑の博覧会 優秀賞を受賞

(株)別府梢風園 別府 壽信 社長

 日本庭園は、西欧などで見られる人工的につくり出された美とは違い、植物や石、砂、苔など自然の素材を使って、限られた空間に自然の美しさを再現する。無駄を省き、研ぎ澄まされた美しさのなかに精神性の高さを感じる人も多い。まさに、日本の美意識を昇華させた芸術でもある。日本庭園の芸術性や精神性に魅了される外国人も多い。海外でも友好都市締結の一環などで、日本庭園をつくる都市も増えた。

 世界で2番目に小さな国でありながら、世界中から富裕層を集める都市国家モナコ公国。ここにも、一際目を引く日本庭園がある。先代のモナコ大公・レーニエ3世が、日本庭園をモナコにつくりたいという思いを抱きながら、不慮の事故で亡くなったグレース妃の願いをかたちにしたものだ。埋め立てた土地に8,000m2の日本庭園をつくる国家プロジェクトを託され、見事成功させたのは、福岡市東区の(株)別府梢風園(別府壽信社長)である。

 きっかけは、1990年に大阪で開催された「国際花と緑の博覧会」だった。「花の万博」などとも呼ばれ、日本を含む83の国と55の国際機関、200以上の企業・団体が参加し、期間中に2,300万人余が来場するなど、国際的にも高い関心を集めた。同社は、「自然とのコミュニケーション」をテーマに青森県の奥入瀬(おいらせ)渓谷の美しい姿を表現した日本庭園を出品し、名誉賞を受賞した。その庭を見たモナコ公国の建設大臣から、建設省を通じて庭園の設計・施工を依頼されたのだ。

モナコ公国に作庭した「欧州初の本格的日本庭園」

モナコ公国で手がけた欧州初の日本庭園、「モナコ公国日本庭園」

 同社にとっては、海外でつくる初めての日本庭園である。日本と異なる気候風土のなかで、現地職人の指導や材料の調達などいくつもの難題を抱えながらも、1つひとつの課題に真摯に向き合い、モナコ公国の全面的な協力の下、4年後の94年に開園をはたした。「庭園はヨーロッパの周りの景色と日本庭園が調和するように心がけた」と、別府社長は当時を振り返る。

 完成したモナコ公国日本庭園は、池とその周りをめぐる路を設け、回遊しながら庭を楽しむことができる池泉廻遊式庭園という様式を基本とし、一部枯山水を取り入れ、茶室などの日本式建築物を建てた本格的な日本庭園だった。池泉廻遊式庭園は国内では桂離宮や金沢兼六園などが有名だが、同社がつくった日本庭園もモナコ公国から「欧州初の本格的な日本庭園」と非常に高い評価を得た。今では、モナコでも人気の名所として、連日多くの来園者で賑わっている。

 現在、モナコ公国は、沿岸部を6万m2埋め立て、新たに高級住宅やマンションの建設を進めている。その計画に併せて、日本庭園も拡張されることになった。完成すれば、さらに多くの市民や観光客が集う場となるだろう。

 モナコ公国の庭園がきっかけとなり、フランスでも日本庭園を手がけることになった。ベルサイユ宮殿近くで、パリから30分ほど南西に位置するラ・セル=サン=クルー城につくった日本庭園だ。フランス大使館を通じて依頼されたものだったが、モナコ公国の日本庭園がフランスと同社の縁をつないだのだ。この庭園づくりでも、石や植物など材料集めで苦労し、準備だけで1年を要したという。完成した庭園は、城のなかに残っていた17~18世紀に流行したロカイユという石像をうまく生かしながら、京都龍安寺の石庭をイメージした枯山水の庭園をつくった。他にアメリカや中国でも日本庭園をつくり、高い評価を得ている。

エクステリア分野を拡大

 同社は65年に創業し、太宰府天満宮の誠心館や竈門神社、浮殿などの本格的な日本庭園を始め、官公庁や企業、公園、個人の庭園などさまざまな庭を手がけて培ってきた技と知恵を蓄積してきた。より高い次元への成長を目指し、社屋の一角に茶室「梢風庵」も設けた。茶会を通して、社員が茶道を理解し茶庭の設計・施工に生かす力を付ける教育にも力を入れている。こうした長年の企業努力が同社を匠集団として世界の舞台に押し上げたのであろう。

 近年は、庭園づくりに加えて、家の回りの玄関や塀などの外構全体を設計・施工するエクステリア分野へも事業を拡大している。本格的な和風の数寄屋門から開放的な洋風アプローチまで、お客のさまざまなニーズに対応できる体制を構築した。たとえば、最新のCADを導入し完成時のイメージパースを取入れたわかりやすい図面を提示するなど、提案の方法にも工夫を凝らす。

 2006年には本社近くにガーデン・エクステリアの設計・施工を行う『千年翠』のオフィスとカフェ『Nanの木』をオープン。オフィスとカフェを囲むように、雑木の庭を配置し、カフェの窓越しから見える回遊庭園・坪庭など、さまざまな種類のモデルガーデンを楽しめる。また、自由に散策して庭づくりや庭のリフォームの参考にしてもらえるような環境も整えた。美しさを追求するのはもちろん、安全性や耐久性、利便性、快適性などまで総合的に提供し、顧客からの信頼を得て、確実に実績を上げ、同社を支える事業に成長させてきた。今後さらに成長が期待できる分野でもある。

 家の庭や外構の美しさは日々の生活に潤いや豊かさを与え、その集積が魅力的な町をつくり出す。緑のある空間は、町中にこそ必要であり、これからのまちづくりにおいて、緑がはたす役割はますます大きくなる。ヒートアイランド現象が懸念される都市部では屋上緑化も進むだろう。日本の美を追求した庭づくりとエクステリアで培ってきた技とノウハウが、まちづくりに発揮される機会が、今後はさらに増えるものと期待される。

【宇野 秀史】

 

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