2024年05月03日( 金 )

超大国を目指す中国と接近するロシア

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」から、一部を抜粋して紹介する。今回は、12月1日付の記事を紹介する。


 当然のことながら、今後急成長が期待できる東南アジアや南アジアに対しても、陸のみならず海上輸送路の整備が望まれる。南シナ海での岩礁の埋め立てについても、中国の秘めた狙いである「海洋シーレーンを牛耳ろうとする思惑」が透けて見える。グローバルな輸送市場の急展開を想定し、中国とロシアが連携を図りつつ、インフラ整備や安全保障体制の確立に向けてチームワークを組み始めていることは注目に値しよう。

 東南アジアや南アジア諸国にとっては、中国の軍事的な動きは懸念材料となってはいるものの、中国が得意とする「札束外交」とも揶揄される経済援助や、世界最大の人口を抱える市場の潜在的魅力にはあらがうことができない。軍事的衝突を繰り返したベトナムですら、中国との政治、経済的対話の道を慎重に模索しているのも、そのためであろう。フィリピンのドゥテルテ大統領がアメリカを見限り、中国との関係強化に舵を切ったのも、「チャイナ・マネー」の威力のなせるワザに他ならない。

 互いに国際的な非難を浴びることがあるものの、それゆえにこそ、中国とロシアは、かつてないほど強力に依存関係を深めつつあるわけだ。習主席とプーチン大統領の相互依存関係は資源開発やテロ対策を主眼とする「上海協力機構」に止まらない。中央アジアのインフラ整備に始まり、エジプトの首都移転計画やアフリカ、中東地域においても同様の動きが進んでいる。サウジとカタールの対立が進んでいるが、両方に食い込もうと中国は水面下で働きかけを強めている模様だ。

 また、プーチンは「ロシアと変貌する世界」と題する論文のなかで、「中国との連携を軸にシリア情勢、イランや北朝鮮の核問題など、欧米とは一線を画す」姿勢を鮮明に打ち出している。

 要は、プーチン大統領は、崩壊した旧ソビエト連邦を自らの手で蘇らせたい、との歴史的野望を秘めているのである。「ソ連崩壊は20世紀最悪の地政学的な悲劇だった」と主張して止まないプーチン。「ユーラシア同盟」の名の下で旧ソ連の復活を模索している。「中国の夢」と称して、4000年、時には5000年の歴史を背景に、中華思想を実現しようとする習近平の路線と共通する部分が多いのも当然であろう。

 実際、上海協力機構においては、中国とロシアが旧ソ連邦の中央アジア諸国を含め、テロ対策や安全保障の面から地域の安全と発展を進める動きに加え、ユーラシア同盟との連携も視野に入ってきている。インドやベトナム、モンゴルなども組み込み、合同の軍事演習や資源開発、インフラ整備プロジェクトが相次いで始まりだした。残念ながら、こうした動きに日本はまったくといっていいほど食い込むことができない。それだけロシアや中国の動きに疎いのが日本なのである。

 日本とすれば、世界の力関係の変化を冷静に把握し、アメリカの力も生かしながら、中国やロシアとの関係深化を目指す必要がある。その際、大切な視点は指導者の人間力を見極めることだ。強みと弱みはどこか。卑近な例だが、娘思いのプーチンの弱みを見抜き、中国はプーチンの娘を少林寺に招いた。その結果はどうなったか。それまで父親の影響で柔道に励んでいた娘が少林寺拳法に鞍替えしたのである。

 一事が万事。外交も国際関係もトップの個人的関心が大きく左右する。中ロ関係を理解するには、こうした面での情報収集と分析も重要だ。とはいえ、これは決して中ロ関係に限って当てはまることではない。政治やビジネスの現場においても同様で、交渉を有利に展開し成功を勝ち取るうえでは欠かせない視点であろう。常に相手の関心の向かう先を先回りし、ともにウィンウィンの関係となるよう道筋を明らかにすること。短く、パンチある言葉で、時には共通の課題や敵の存在に目を向けさせることも有効な手段となるに違いない。

※続きは12月1日のメルマガ版「世界最新トレンドとビジネスチャンス」第90回「中国の進める現代版シルクロード「一帯一路」に欠ける防災教育(後編)」で。


著者:浜田和幸
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