2024年04月19日( 金 )

『競争と情報』~未来予測力と危機管理力の強化~(7)

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日本ビジネスインテリジェンス協会会長
日本大学大学院グローバル・ビジネス研究科講師
東京経済大学経営学部・大学院経営学研究科元教授

中川 十郎 氏

新ビジネス創出と情報活用

ネットワーク イメージ 世界金融・経済危機下、激化しつつある国内外の競争に対処するためにビジネスインテリジェンス(高度経済・経営情報)を新ビジネス創出にいかに活用すべきか、理論と実例を参照しながら論じる。

 ビジネス開拓のためには高付加価値情報のビジネスインテリジェンスをどのように分析・活用するか。それには日頃から内外の関連情報に対する感度を研ぎ澄まし、情報収集のためのアンテナを張りめぐらし、入手した情報を迅速に効果的に活用することである。

 以下、情報の質を高めるためのインテリジェンスサイクルの手法を紹介する。(1)まず情報収集の戦略目標を定める。(2)戦略・戦術策定に必要な政府、産業、先端技術、競争相手の情報を収集する。(3)収集した情報を評価、加工、編集する。(4)これらの過程を経て情報の価値を高めたインテリジェンスを徹底的に分析する。(5)この付加価値を付けた高度経済・経営情報・ビジネスインテリジェンスの分析の成果を戦略決定者に迅速に伝達する。以上の5段階をサイクルさせることによりインテリジェンスの有効性と効果を増大させる。

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元総合商社駐在員・中川十郎氏の履歴書・ニューヨーク編(1)

 情報は(1)公開情報(Open Information)(新聞、テレビ, インターネット、書籍、資料など)(2)私的・人的情報(Human Information)(3)秘密情報(Secret Information)の3つに分類される。このうちビジネスにおいては(1)と(2)を活用する。(3)の機密情報には決して手を染めてはならない。企業倫理上もコンプライアンス、企業の社会的責任(CSR)上も企業機密を盗むことは厳禁すべきである。

 筆者の30数年の商社時代の経験を基に公開情報と人的情報活用で新規ビジネス開拓に成功した事例を以下参考までに例示したい。

1:インドに駐在時代、現地の英字新聞『HindustanTimes』紙上でこれまでの主要供給先のソ連からの医薬品原料輸入が困難となり、インドでの製薬に支障を来たし、保健衛生上も由々しき事態に遭遇しているとの情報を入手した。日曜日であったが、直ちに東京本社化学品部に連絡。他社に先駆け、ペニシリン、ストレプトマイシン、ビタミンAの原料を現地輸入公団にオファー。日本製医薬品原料のインド向け大量初輸出に成功した。このビジネスはその後、長期にわたり継続した。上記の情報活用のケースは現地新聞の公開情報を活用して成功した事例である。何気ない日々の新聞情報も、鋭敏に収集し、迅速に活用すれば大きな商権に成長する好例である。

2:ブラジル駐在時代、チリで近く乗用車輸入が解禁されるとの情報を得意先が持ち込んだ。直ちにこの情報を本社自動車部に通報。1年の交渉後、4万台という日本車初の南米向け大量成約に結びついた。このケースは私的・人的情報を迅速に本社に通報。得意先情報を有効に活用した事例である。このような人的情報を得るためには日頃から、人脈をマメに開拓。有効情報の入手に努力することが大切である。

3:パナマ運河鉄道修復工事プロジェクト情報がパナマに関係する人脈から提供があった。日本の運輸コンサルタントと現地出張し、長期間ワークしたが、残念ながら、予想に反して、英国企業がコンサルタントフィーを無償提供したため、残念ながらこの商談では英国に敗れた。たまたま現地の日本レストランで教育テレビ放送施設建設プロジェクトで出張してきているコンサルタントに遭遇した。このプロジェクト情報を本社ODA担当課に流し、1年の努力の後、南米向け初のテレビ放送設備の輸出に成功した。この縁で、その後、さらに、がんセンター向け医療機器のODA商談にも成功した。このケースは日本料理屋での偶然な出会いにより収集した情報から大きなビジネス商権が確立できた好例である。

 上記の各事例のように新規ビジネスの開拓に特別な秘策があるわけではない。日頃から、地味にこつこつと人脈を構築すること。また新聞、テレビなどからもビジネス関連情報を集めること。情報を迅速にビジネスにつなげる感性と意欲が大切だということを物語っている。

(つづく)


<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 東京外国語大学イタリア学科国際関係専修課程卒後、ニチメン(現・双日)入社。海外8カ国に20年駐在。業務本部米州部長補佐、開発企画担当部長、米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部・大学院教授などを経て、現在、名古屋市立大学特任教授、大連外国語大学客員教授。日本ビジネスインテリジェンス協会理事長、国際アジア共同体学会顧問、中国競争情報協会国際顧問など。著書・訳書『CIA流戦略情報読本』(ダイヤモンド社)、『成功企業のIT戦略』(日経BP)、『知識情報戦略』(税務経理協会)、『国際経営戦略』(同文館)など多数。

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