(株)chaintope
代表取締役CEO 正田英樹 氏
建設業界が推進する、より安全で働きやすい環境づくりに、ブロックチェーンとAIという異分野の技術で挑む(株)chaintope。同社が開発し、中村工業(株)で先行導入された「Greeners」は、職人の安全行動を資産に変える“気づき”アプリだ。同社代表取締役CEO・正田英樹氏に現場と人を支えるテクノロジーの可能性について話を聞いた。
異業種から着想、建設現場へ
代表取締役CEO 正田英樹 氏
──中村工業(株)との提携のきっかけについて、教えてください。
正田 2016年、総合メディカル(株)の小山田相談役が塾長を務め、その下に福岡を代表するリーダーたちが集う異業種勉強会「三接塾」が結成されました。勉強会を重ねるなかで、講師として登壇された中村工業(株)の中村隆元社長とお会いしたのが始まりでした。中村社長は、建設業界が直面する人手不足や、それにともなう現場の負担増加といった課題に対して強い危機感をもたれていました。「いかに社員を守り、生きがいをもって働いてもらうか」を真摯に模索されており、その「人を大切にする経営」への熱意に、強い感銘を受けたのです。そして、当社が海運業向けに開発していた安全共有アプリの構想が、建設業にも応用できると直感しました。
──そこで生まれたのが「気づきアプリ(Greeners)」ですね。
正田 私たちはもともと、船員向けに「気づき・ヒヤリハット」を収集・分析する仕組みを開発していました。海運業界には、他社の船が通った航路の危険情報を共有し、事故を未然に防ぐ「共有の文化」が根付いています。一方で、従来の建設現場における「ヒヤリハット報告」は事後報告になりがちで、現場の若手からは声が挙がりにくいという課題がありました。そこで中村社長の「日々のコミュニケーションが事故防止につながる」というお考えと、当社が海運業向けアプリで培った「小さな気づきをプラスの貢献として可視化する」というロジックが合致したのです。事故が起こる前の些細な気づきを気軽に共有できる仕組みをつくれば、安全確保と同時に、現場のモチベーションを変えられると考えました。
現場に根づく工夫と仕組み
──アプリの具体的な機能と、現場の負担を減らすための工夫をお聞かせください。
正田 現場の職人さんは、常に時間に追われています。そのため、正式名称「Greeners(グリナーズ)」、現場で「気づきアプリ」と呼ばれるこのツールは、シンプルさを最優先に設計しており、操作画面や手順を必要最小限に留めました。「いつ」「作業内容」「防げた事故」「危険度」など、入力項目を5項目に絞り込み、スマホで手軽に完了する設計にしています。現場での撮影許可を気にすることなく、まずはテキストと選択肢のみのシンプルな操作に特化させることが、毎日の継続につながると判断したためです。
──「コイン制度」と「AI犬キャラクター(アイディ)」が現場に与えたインパクトはいかかでしょうか。
正田 本アプリでは、貢献を「見える化」するだけでなく、現実的なインセンティブとして運用できる設計にしました。中村工業さまの場合、獲得したコインの量に応じて、賞金として還元が受けられる仕組みを導入されています。1日1回の投稿で5コイン、他者へのリアクションで1コイン(1日5回まで)といった、現場で楽しみながら「ポチポチ」と続けられるルールが功を奏しました。また、投稿に対してアイディが、即座にフィードバックを返します。このキャラクターは中村工業さまの管理者の方々の発案でつくられたものですが、この「認められている」という即時性が心理的安全性を高め、導入から月間100件以上の投稿が継続する原動力の1つになっていると考えています。
──外国人技能実習生の反応が、非常に良いと聞きましたが
正田 はい、投稿の約4割を彼らが占めています。自動翻訳機能の実装により、ミャンマー、インドネシア、ベトナム語などの言葉の壁が大きく下がりました。興味深いのは、彼らが日本人以上に「インセンティブ」に対して、敏感に反応している点です。この熱量が日本人社員にも伝播し、お互いの気づきに関心を持ち合うなど、アプリを起点とした新しい交流につながっていく可能性を感じています。こうした積み重ねが現場の疎外感を解消し、離職防止という経営課題の解決に寄与していくことを期待しています。中村工業さまには、社員の頑張りを正当に評価し還元する文化があり、本アプリでも貯まるコインを現金やお米などの現物と交換できる仕組みにされています。25年5月の導入以来、現在は約90人の社員にご登録いただき、1,300件以上の投稿があり、定着が進んでいます。今後は、建設業界をはじめに、その後は海運、医療、防災などの他分野にも応用していく考えです。
人と社会をつなぐ技術へ
──なぜこのアプリに、ブロックチェーン技術「Tapyrus(タピルス)」が必要だったのですか?
正田 管理者であっても、後からデータを書き換えられない「改ざん不可能」な特性が不可欠だからです。仮に社員の評価やコイン履歴が誰かの匙加減で操作されるようでは、現場の信頼は崩れてしまいます。Tapyrusに記録されることによって、安全に対する貢献や“気づき”が、組織を超えたキャリア資産として証明され続けます。つまり、永続的に残る「無形の実績」になるのです。
──ブロックチェーンの社会インフラとしての役割については、どうお考えでしょうか。
正田 私はブロックチェーンを「神経系統」と捉えています。AIが“脳”として思考・判断し、それを正確に社会に伝える「神経」がブロックチェーンです。とくに、AIが契約や決済を自動で行う未来においては、この「改ざん不可能な関所」としての役割が欠かせません。これが整備されて初めて、信頼に基づくデジタル社会が成立するのです。
──欧州などで進むDPP(デジタル製品パスポート)への対応にも活用されていますね。
正田 2029年に施行されるEUのリサイクル義務化など、製品履歴の証明が必須になる時代が迫っています。私たちは、ブロックチェーンで製品の製造から廃棄までの履歴を透明化し、企業が「環境負荷の少ないものづくり」に取り組んだ証拠をDPPとして記録しています。今年3月、私たちは九州経済産業局長賞(日本ものづくり大賞)を受賞しましたが、これはこうした取り組みが製造業の新しい信頼インフラとして機能している証だと捉えています。
──最後に、これからのデジタル社会の展望をお願いします。
正田 テクノロジーは人間を効率化する道具ではなく、「人間の営みをどう尊重するか」を証明する装置であるべきです。私たちの役割は、汗をかく現場、気づく現場を正しく評価する仕組みを提供すること。AIとブロックチェーンは、そのためにこそ使われるべきだと信じています。
“データ社会に信頼を”という理念の下、私たちはこれからも地域から世界へ、信頼のインフラを築いていきたいと思います。
【内山義之】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:正田英樹
所在地:福岡県飯塚市幸袋530-25
設 立:2016年12月
資本金:4,999万円
URL:https://www.chaintope.com

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