技術と管理力で選ばれる経営へ 型枠工事九州一に挑む

(株)中條工務店
代表取締役副社長 本間正浩 氏

(株)中條工務店 代表取締役副社長 本間正浩 氏

 2024年4月に東証スタンダード上場の(株)トーアミ(大阪府四條畷市)のグループ会社となった型枠工事業の(株)中條工務店が現在、事業再構築を進めている。建設業界が職人不足問題に直面するなか、現場出身の経歴をもつ代表取締役副社長・本間正浩氏に、同社の強みと職人不足への対応や今後の戦略などを聞いた。

付加価値重視へ転換

 ──トーアミグループ入りを経て現在、(株)中條工務店はどのような段階にありますか。

 本間 当社はかつて、福岡でのシェア獲得を重視するあまり、単価を下げてでも受注しようとする傾向がありました。その結果、薄利多売となり、赤字が続いていました。

 ただ、当社には九州全域をカバーできる施工力があります。トーアミグループが評価したのも、目先の数字ではなく、この施工力という潜在的な資産でした。今は、不採算体質から脱却し、適正な単価で受注し、職人に還元できる体制へと転換している段階です。

 トーアミは、資材供給に強みを持つ会社です。そこに当社の施工力が加わることで、資材供給と施工の両面から付加価値を高めることができます。型枠工事は、単に人を集めて現場に入れるだけの仕事ではありません。安全、品質、工程、原価を管理しながら、ゼネコンの要求に応える総合力が問われます。そうした意味で、当社はこれまでの「量を追う経営」から、「技術と管理力で選ばれる経営」へと転換しようとしているところです。

 ──本間副社長は、職人からキャリアを始められたとうかがいました。その経験は、現在の経営にどう生きていますか。

 本間 私は15歳で製造業に入り、21歳で型枠工事を手がける(株)渡部建設(静岡県浜松市)に職人として入社しました。重機操作から、型枠をつくり、鉄筋を組み、コンクリートを打設する。土木・建築の両面を、泥にまみれながら経験してきました。

 21年11月に渡部建設が北九州に九州営業所を開設したのですが、当初は拠点運営がなかなか軌道に乗らず、責任者の体調不良も重なっていました。21年4月には、渡部建設がトーアミグループに参入しました。そして4年前、私は「九州営業所の責任者が不在のため行ってくれないか」と打診され、縁もゆかりもない土地でしたが、社長や専務が近くにいない環境で、自分の力を試してみたいという思いがあり、赴任を決意しました。

 その後の24年4月に中條工務店はトーアミグループの一員となり、渡部建設の代表取締役社長・美和裕一郎が兼務するかたちで中條工務店の代表取締役社長に就任し、私も中條工務店の取締役となりました。そして今年3月から私が中條工務店の代表取締役副社長に就任したのですが、美和は静岡本社の渡部建設を拠点としているため、私が中間市本社の中條工務店の経営全般を実質的に任されているかたちです。

 私の一番の強みは、「現場」を知っていることです。さまざまな現場を経験してきましたので、職人のやりがいや辛さ、大変さなどがわかります。だからこそ、福利厚生や教育制度についても、机上の空論ではなく、現場が納得できるものに変えていけると思います。現場の実態を踏まえずに数字だけを追えば、結局は職人にしわ寄せがいってしまいます。逆に、現場の声だけを聞いていても、経営は成り立ちません。その両方をつなぐことが、今の私の役割だと考えています。

 建設業では、経営側と現場の風通しが悪いと、職人は会社に不信感をもちます。私は現場の代弁者として経営に関わることが、これからの職人不足時代における大きな強みになると考えています。

150人超の職人体制

(株)中條工務店 型枠工事 イメージ    ──中條工務店の強みは何でしょうか。

 本間 当社には、役員を除いて正社員が57名在籍しており、そのうち職人は38名、そのほか協力会社を含めて常時150名以上の職人を動かせる体制が強みの1つです。九州でもトップクラスの規模だと思います。ただ、本当の強みは職人の数ではなく、「質」にあります。国家資格である1級型枠技能士が19名在籍しており、技能水準の高さが強みとなっています。

 また、かつて就職氷河期に採用した大卒の社員たちが、今では各ゼネコンから表彰されるような優秀な職長に育っています。型枠工事は、ただ作業をするだけではありません。図面を読み、工程を管理し、職人をまとめ、現場全体を動かす力が必要です。そうした管理能力をもつ職長がいることが、難度の高い大型案件への対応力につながり、ゼネコンとの強固な信頼関係を築いています。

 数年前の実例では、当社の職長がYouTubeで情報発信しているのを見て、鹿児島から若い人財が入社してきました。昔ながらの職人像だけではなく、若者が憧れる新しい職人像をつくることも大切だと感じています。

 ──人手不足に対しては、どのような取り組みを進めていますか。

 本間 待遇改善は避けて通れません。まず、年間休日を84日から92日に増やしました。将来的には120日を目指しています。一方で、ベテラン職人のなかには「もっと働いて稼ぎたい」という人もいます。そのため、一律に休みを増やすだけでなく、本人の希望に応じて働き方を選べる仕組みも検討しています。

 大事なのは、会社が一方的に制度を押しつけるのではなく、職人1人ひとりの人生設計に合わせることです。若い世代には休みや生活の安定を重視する人も多い一方で、家族を支えるために収入を増やしたい人もいます。建設業は体力的に厳しい仕事ですが、だからこそ働き方の選択肢を広げなければ、人は残りません。

 外国人財についても、単なる労働力としてではなく、将来の職長候補として育てています。現在、バングラデシュ人技能実習生、特定技能が16名おり、教育用テキストをベンガル語に翻訳しています。日本人、外国人問わず、新入社員には配属前1カ月間の研修を行っています。座学では具体的な工具名や型枠制作の流れ、現場での動きなどを学んでもらい、実技では本社の敷地を使い、現場で行う作業と同様に型枠を組み立てることができます。

 日本語が完璧でなくても、図面の読み方や安全の基本、道具の扱い方を丁寧に教えれば、現場で十分に力を発揮できます。むしろ、真面目に学び、長く働きたいという意欲を持つ人も多い。国籍に関係なく、技術を身につけ、責任ある立場を任せられる人財に育てることが重要です。

 新たにトーアミグループに加わった(株)アラキヂ工務店(神奈川県横浜市戸塚区)にも、長年にわたる外国人財育成のノウハウがあります。そうした知見も取り入れながら、外国人財が図面を読み、現場を仕切れる自立した職人になれる体制を整えています。

 一方で、SNSなどで「関東はもっと給料が高い」と誘い、引き抜こうとする企業の存在は看過できません。これに対し、我々は賃金だけでなく「生活基盤の支援」で対抗しています。自社寮の整備を考えているほか、免許取得費用の補助、そして家族のようなコミュニケーションづくり。地方企業として、「ここで働けば技術が身につき、一生の生活が守られる」という安心感を提供することが、定着率向上への唯一の道だと考えています。

多能工化で変化に備える

(株)中條工務店 型枠工事 イメージ    ──建設業界や型枠工事業界の課題を、どう見ていますか。

 本間 まず、ゼネコンによって対応に差があり、大手ゼネコン、中堅ゼネコン、地場ゼネコンとそれぞれ違います。土日閉所を徹底している現場もあれば、まだ土日稼働を求める現場もあります。こうした差が、職人の働き方や収入に影響し、現場に混乱を生んでいます。

 また、3DプリンターやPC(プレキャスト)工法の普及によって、将来的には型枠工事の仕事そのものが減る可能性もあります。ただ、私はこれを脅威としてだけでなく、機会とも見ています。現場がPC化するなら、PC工場の製造工程に型枠職人の技能を生かせばいいからです。

 型枠職人の強みは、現場ごとに異なる条件を読み取り、その場で最適な納まりを考えられることです。これは、単純な作業ではありません。図面、工程、材料、人員、安全を総合的に判断する力が必要です。この力は、PC工場や製造現場でも必ず生かせます。

 私は以前から、職人をPC工場に送り込む取り組みを行ってきました。トーアミグループの資材セグメント部門とも連携し、現場だけでなく工場でも活躍できる多能工を育てていく。そうすることで、需要の変化に対応できる会社になります。

 これからの専門工事業者は、1つの仕事だけに依存していては生き残れません。型枠を軸にしながらも、土木、建築、PC、製造、施工管理へと人財の活躍領域を広げていく必要があります。それが、職人の雇用を守ることにもつながります。

九州一、そして日本一へ

(株)中條工務店 型枠工事 イメージ    ──今後の目標をお聞かせください。

 本間 当社単体では、現在20億円前後の売上高を、数年以内に30億円まで引き上げたいと考えています。そのためにも常時稼働可能な職人200名以上の体制を目指しています。単に規模を大きくすることが目的ではありません。適正な単価で受注し、その利益を職人の賃金や待遇にきちんと還元する。そうした健全な循環をつくることで、かつて型枠工事業者として九州一と評された地位を取り戻したいと考えています。

 さらに、グループ全体では、渡部建設、中條工務店、アラキヂ工務店の3社で、職人400名、売上高50億円超の専門工事業者集団となりました。この規模があれば、全国の大型案件や特殊案件にも対応できます。職人が誇りをもち、若い世代が憧れる建設業界をつくりたいのです。高い技能には、高い対価が支払われるべきです。その仕組みをつくることが、私の使命だと思っています。

【内山義之】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:美和裕一郎
所在地:福岡県中間市大字中底井野字砂堀1164-29
設 立:1971年10月
資本金:4,000万円
URL:http://www.nakajyo-k.com


<プロフィール>
本間正浩
(ほんま・まさひろ)
1991年2月27日生まれ、静岡県浜松市出身。15歳で製造業に従事。2012年、(株)渡部建設に入社。型枠工事を中心にさまざまな工種を経験し、2022年に渡部建設九州営業所へ赴任。24年4月、(株)中條工務店の取締役に就任し、26年3月、中條工務店の代表取締役福社長に就任した。26年4月、(株)アラキヂ工務店の取締役に就任。

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