清水建設「耐震欠陥マンションでも『安全』」は本当か?(2)揺らぐ「安全」の根拠、計算法をめぐる重大疑義

AMT一級建築士事務所代表
都甲栄充 氏

 杜の都の仙台でスーパーゼネコンの清水建設が事業主(施主)・設計・施工・工事監理・販売を担った「オール清水」のマンションで耐震上の重大な欠陥が見つかった問題(詳細は、第1弾:2024年8月3日から4回掲載第2弾:25年6月14日から4回掲載)は、清水建設が法的責任を抜きに全面的な修繕を実施したことで、一件落着したかに見えた。だが、その根拠ともなる建築基準法12条5項に基づき清水建設が仙台市に提出した「報告書」に専門家や他ゼネコンの実務者らから異論が噴出する。全面修繕は清水建設の「善意」だったのか、ただの「パフォーマンス」だったのか。地震から建物を守る構造(耐震)スリットがほぼ皆無で施工されたにもかかわらず、安全が保たれていたと結論づけた報告書を、(株)AMT一級建築士事務所の都甲栄充代表が、合理的に読み解いた。

時空をまたいで

図解 1

 清水建設が耐震上の安全性を再評価した報告書は、時空をまたぐところから始まる。マンションの設計当時に使った「保有水平耐力計算法」で建物の安全性を再評価するのではなく、その後に制定された「限界耐力計算法」を使ったのだ。

 保有水平耐力計算法が地震による建物の「耐力」に主眼を置く一方で、限界耐力計算法は建物がどれだけ揺れ、それに耐えられる限界である「変形」に主眼を置く。限界耐力計算は建物の変形性能と設計用地震力をバランス良く設定することが主旨であり、限界耐力計算で求められる地震力は保有水平耐力計算での地震力と比べ、ラーメン方向では小さくなるが、耐力壁方向では大きくなることが多い。また、方向別に保有耐力計算と限界耐力計算を使い分けることはできない。

 限界耐力計算法は、保有水平耐力計算法に比べ、より現実に近い地震力を算出することができる上、設計地震力を小さくできるという特徴がある。

 どちらの手法も法的には認められており、限界耐力計算法を使ったからといって、それだけで特段の問題になることはない。例えるならば、胃がん検診で、バリウムを飲むか、胃カメラを使うかのようなものである。問題は、どちらを使うにしても、正しい使い方をしなければならないということだ。

【写真3】「2001年版 限界耐力計算法の計算例とその解説」
【写真3】「2001年版 限界耐力計算法の計算例とその解説」

 限界耐力計算法は、問題のマンションの竣工後の2000年6月に制定された検証方法だ。「2001年版 限界耐力計算法の計算例とその解説」(編集 国土交通省住宅局建築指導課、同建築研究所、(財)日本建築センター、(社)建築研究振興協会)によると、手法は①建設場所の地盤特性と建物の振動特性から建物が地震時にどのくらい変形するか②建物の柱やはりなどの部材がその変形に耐えうる変形性能があるか、を大きな2本柱に評価する。

【写真4】「コンクリート造建物の靱性保証型 耐震設計指針・同解説(日本建築学会著)」
【写真4】「コンクリート造建物の靱性保証型
耐震設計指針・同解説(日本建築学会著)」

前提条件が整わない

 耐震スリットの入っていない建物を限界耐力計算法で計算しようとすると、前提条件から壁に突き当たってしまう。建物の鉄筋コンクリート部分の「変形」を求めるには「鉄筋コンクリート造建物の靱性保証型耐震設計指針・同解説」(日本建築学会著)を用いた算出が必要になる。

 しかし、この指針は、建物に耐震スリットが入っていることが前提になっているため、問題のマンションに当てはめようにも「変形性能」を算出できない。

 清水建設がどういう仕組み、考え方で変形性能を算出したか、報告書からは読み取ることはできなかった。

 百歩譲って、何らかの手法で変形性能を算出したとしても、次はそれに対して部材の「変形量に応じたせん断強度」を算出しなければならない。建物が変形する際に柱やはりがどれくらいの力でちぎれてしまうのか、具体的数値で示さなければ、それに対する安全対策が十分とはいえないからだ。ところが、清水建設の報告書に、その記述を見つけられなかった。



【写真5】(報告書・センターが遵法性調査の指摘している部分)
【写真5】(報告書・センターが遵法性調査の指摘している部分)

再び時空を超えて

 清水建設の報告書の妥当性は(財)日本建築センターが審査した。センターは問題点を指摘する一方で、建築基準法に適合していることを確認している。この矛盾するかのような判断がなされた理由は不明だ。センターは民間の検査機関で、前述の「2001年版 限界耐力計算法の計算例とその解説」の編集者でもある。簡単に間違いを見逃すとも思えないが、センターにとって清水建設は検査料や審査料をもらう「お客様」でもある。

 センターの指摘事項と清水建設の回答を精査してみよう。

 センターは清水建設が限界耐力計算法に必要な変形性能の検証をしていない点を指摘する。「【遵法性調査】申請書等の補正又は追加説明書を求める事項」という文書で「RC終局耐力の柱、梁せん断力について主筋の上限強度を考慮した靭性指針式による検討について説明してください。(限界耐力計算に求められる確認事項)」と回答を求めた。

【写真6】(「2001年版 限界耐力計算法の計算例とその解説」の冒頭部分)
【写真6】(「2001年版 限界耐力計算法の計算例とその解説」の冒頭部分)

 指摘事項を分かりやすく説明すると、限界耐力計算法を使う際の指針となる「2001年版 限界耐力計算法の計算例とその解説」(日本建築センターなど編集)の冒頭の1ページの1の1にある確認事項を満たすように説明してください、と求めたのである。どの説明書でも冒頭の1の1が「キホンのキ」であることは一般的である。

どこが限界耐力計算法か

 日本建築センターの指摘に対する清水建設の回答は、こうだ。

 「本建物の竣工は限界耐力計算法制定前(原文では竣工年を明記※マンションの匿名維持のため)であるため竣工時の法規の規定によることを確認しています。必要安全限界時の全部材のせん断耐力余裕度が1.00以上あることを確認しています」

 清水建設は当時の法規に倣った保有水平耐力計算法を使わずに、限界耐力計算法を使うことを選択していたのにもかかわらず、ここにきて限界耐力計算法を放り出した格好だ。

 「当時の法規を満足していれば問題なし」というのならば、当時の保有水平耐力計算法に統一しなければ、安全性は確認のしようがない。都合の良い部分に合わせ立場を変えることは、まるでイソップ童話で「鳥」と「獣」を使い分ける「コウモリ」のようですらある。

 計算方式が違うので言葉の意味も変わってくる。当時の法規を満足している「せん断耐力の計算」は、荒川式を指しており、これは限界耐力計算法で算出が必要な「限界変形角」に関係なく計算される「せん断耐力」を使用していることになる。つまり、同じ言葉でも意味も示す強度も違うのだ。ここで結局限界耐力計算法を放棄しているのである。

 時空を行ったり来たりすることを繰り返し、時には言葉の定義すら入れ替えて作成されたかのように見える報告書を受け取った仙台市から、清水建設に直接的な指導があった形跡はない。私の分析、解釈に落ち度はなかったのか。次回は、専門家の意見と清水建設の見解を紹介する。

(つづく)

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