九州の観光産業を考える(46)長崎スタジアムシティはメセナを超えて

世界標準へ名乗り上げ

 欧州主要リーグで活躍する日本人選手の日本代表戦への招集や所属先チームの移籍、オフシーズンなどとの兼ね合い、そして日本国内でプレーする選手やチームへの考慮から、我が国のJリーグは世界標準に合わせ、本年から26-27シーズンカレンダーを夏に開始する。ワールドカップ(W杯)北米大会2026で優勝を目指した日本代表にとって、チームづくりに適う最良の措置だ。サッカーに限らず、ベースボール、バスケットボール、バレーボールでも日本人選手の海外リーグ進出は常態化し、そうした優秀な選手の代表チーム招集に適切な仕組みが1つ整ったのは、歓迎すべきことだ。

 世界標準への順化は、競技が展開されるスポーツスタジアムにおいても起きてきた。かつて多目的陸上競技場の周回トラック内側のフィールドは、秋になると茶色く枯れて荒れた日本芝で、サッカー観戦の興を削ぐものだった。ゴール横の芝は狭く、シュート体勢で身を投げ出す選手の果敢なプレーを躊躇わせた。

 Jリーグ発足に合わせサッカー専用スタジアムが建設されるようになって、ようやく年中緑色の西洋芝が敷設され、そのフィールドへ近接感を高める急傾斜の観客席、好プレーを直後に再現して見せる巨大ヴィジョン等々、世界仕様が整うようになった。そして今日、遅ればせながら、観戦客の滞在体験を丸ごともてなそうとするコンセプトの「ボールパーク」が登場し始めた。

昂揚への助走路

 そこで開業2年目、街中にあってまちづくりへの浸潤をはたしつつある長崎スタジアムシティ(以下、NSC)を観察する。ディズニー流のテーマパークの基本構図から透かし見れば、メインショーとしてのライブのスポーツゲームがあり、プレショー/ポストショーとして飲食、物販、その他サービスがある。対戦するどちらのチームサポーターにとっても、プレショー(ゲーム前)は“昂揚感ウォームアップ機能”を果たそうとするものであり、ポストショー(ゲーム後)は“歓喜の反芻・増幅機能”である。あるいは敗戦の場合、“落胆解消機能”を担う。

NSCのコア「PEACE STADIUM」をゲームのない日に寛ぎながら見学滞在できるのは、CSR(Corporate Social Responsibility/企業の社会的責任)を超える太っ腹。そうした地域社会への貢献活動の一側面を特筆する表現を「メセナ」という
NSCのコア「PEACE STADIUM」をゲームのない日に寛ぎながら見学滞在できるのは、CSR(Corporate Social Responsibility/企業の社会的責任)を超える太っ腹。そうした地域社会への貢献活動の一側面を特筆する表現を「メセナ」という

 併設ホテルは、コンセプトホテルとして見れば理解しやすい。スタジアムViewの客室はホームチームを盛り立てるもので、什器備品、インテリアはチームカラーを前面に打ち出す。単に宿泊のための居室を超え、NSCが包括する施設やサービス群を加味すると、イベント連動のショーアップホテルといえそうだ。ホテル滞在は、主力商品であるスポーツ観戦を目玉“旅程”とするオーシャンクルーズの道具立てに近い気がする。

 総体としてNSCは、もはや「球場」「体育施設」ではなく、“Beyond Sports-Complex”“Leisure-Complex”を指向する。同事業の推進主体である(株)ジャパネットホールディングスが、近接する街区や通販顧客をも巻き込んで進めるファン確保のCRM(Customer Relationship Management)というと大袈裟か。市民の、家庭でも学校でも職場でもない気ままな居場所「Third Place」として、地域に気に入られ受け入れられていく中途なのかもしれない。

ひとっ飛びのワームホール

 SF作品に登場する“Wormhole”は、宇宙の離れた2つの点をつなぐ時空に開いたチューブ状の抜け道だ。ちなみに、ファルコン号はこの歪みを通って何度もWarp航法し、瞬時に長距離を移動し危機を脱し、栄光を手にした。

 “NSC号”は、W杯2026現地へWarpできたろうか?従来通りのパブリックビューイングで、ダラスやモンテレイ、ヒューストンからの日本戦を大画面で受け取るにとどまったようだ。結んだ2拠点を往来体感する共時性と、インタラクティブ性をともなって相互に作用し合う交歓プログラムを独自に組み、二次元映像に熱く肉付けする工夫はできなかったろうか。ハイドレーションブレイク(飲水タイム)やハーフタイム、あるいはテールゲートパーティを活用し、たとえばスーベニア(記念品)交換を含む対戦国サポーターとのエール交換とか、両国の代表的スタジアムグルメを食べ比べるとか、自前の応援メークアップ自慢とか。「特派交流員」とでも銘打ち、スマホ中継できる観戦者を現地のスタジアムなりパブリックビューイング会場なりに確保し、公式映像とは別建ての双方向媒体を通せば、NSCの“Complex”を生かす演出を「シティ」の名の下にできたように思う。

 FIFA(国際サッカー連盟)の権益保護や機会利用の制約のなかでも、サッカー専用スタジアムを有す街として、民間の知恵や行政の品格を総動員し、商いやシティプロモーションの機会創出に勘付いた2026年であればよい。

 NSCは、観光地として土地に由来するソフトやハードを長年運用してきた街のど真ん中にある。W杯に類する機会に、世界へぽっかり開く“ワームホール”を発生させ得れば、界隈にスポーツをもっと共振させられる可能性は高い。NSCの意図ある設置の店舗・施設・サービス群、すなわち「筋書きのあるドラマ」と、フィールド上における選手の躍動、すなわち「筋書きのないドラマ」とを、巧みに掛け合わせるプロジェクト推進へ大いに期待したい。

勝利ゲームの後に浴びる美酒は、スタジアム内でクラフトビールか、それとも界隈にある長崎新地中華街で老酒か
勝利ゲームの後に浴びる美酒は、
スタジアム内でクラフトビールか、
それとも界隈にある長崎新地中華街で老酒か

<プロフィール>
國谷恵太
(くにたに・けいた)
1955年、鳥取県米子市出身。(株)オリエンタルランドTDL開発本部・地域開発部勤務の後、経営情報誌「月刊レジャー産業資料」の編集を通じ多様な業種業態を見聞。以降、地域振興事業の基本構想立案、博覧会イベントの企画・制作、観光まちづくり系シンクタンク客員研究員、国交省リゾート整備アドバイザー、地域組織マネジメントなどに携わる。日本スポーツかくれんぼ協会代表。

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