玄海町、10億円超のローカル5G事業を中止 「ヴルーヴ問題」は検証されるのか
ローカル5G事業、日高町長が中止を表明
玄海町のローカル5G整備事業(高度化通信網構築事業)が、事実上終了する。
9月10日に開かれた玄海町議会定例会9月会議の一般質問で、日高大助町長は「興味を示している事業者はあるものの、町が新たな負担をして事業を進めるのは極めて難しいと思っている」としたうえで、「高度化通信網構築事業(ローカル5G)を中止する」と明言した。
事業を担っていたヴルーヴ(株)(東京都品川区)が2025年7月に破産した後、町が支出した約10億4,800万円の補助金の回収は難しく、整備された通信設備も利用できない状態となっていたが、前町長・脇山伸太郎氏は、ローカル5G設備を新たな事業者に引き継ぎ、事業継続を模索する姿勢を示していた。
しかし、今年7月の町長選で新人の日高氏は、ローカル5G問題をはじめとする前町政の事業の進め方を疑問視し、財政の透明化を掲げていた。日高氏1,800票、脇山氏1,281票と519票差がついた町長選を経て、町政は事業継続から中止へと大きく方向転換した。
わずか1週間の公募で約10億円を託したヴルーヴ
そもそも「ヴルーヴ問題」とは何だったのか。
当社は昨年、公文書公開請求で得られた資料などを基に、5回にわたって問題を報じてきた。
シリーズ『玄海町ヴルーヴ破産問題』
玄海町は23年10月、町内にローカル5Gなどの高度通信網を整備し、それを企業誘致や産業振興などにつなげる高度化通信網構築事業を開始した。補助金の上限額は23年度6億4,000万円、24年度5億6,000万円の計12億円という巨額事業だった。
ところが事業者を選ぶ公募型プロポーザルの日程は異例だった。
町が公募を公告したのは23年10月11日。参加申請書などの提出期限はわずか7日後の18日、企画提案書の提出期限は20日だった。10億円を超える規模の事業でありながら、公募開始からわずか9日間で企画書まで提出しなければならない日程で、応募したのはヴルーヴ1社だけだった。
ヴルーヴは22年5月設立で、応募時点では設立から1年半にも満たない企業だった。それにもかかわらず、公募に際して町が提出を求めた書類には、貸借対照表など事業者の財務状況を確認する資料すら含まれていなかった。
さらにヴルーヴが提出した類似事業の実績額は合計約1億8,200万円で、構築・保守の実績はあったものの、事業の根幹となる通信網の「運用」の実績は示されていなかった。審査でも業務実績の評価は10点満点中0点。それでも総合得点は平均62.57点となり、合格基準の60点をわずかに上回って事業実施候補者に選定された。7人の審査委員のうち1人は100点満点で16点という極端に低い評価を付けていた。
結果論だけで事業者選定を批判することは適切ではない。しかし、約10億円もの公費を投入する事業であれば、事業者が長期間にわたって設備を保有・運営できる財務力や実績を確認することは、本来もっとも基本的な審査事項だったはずだ。
さらに計画面でも大きな疑問がある。補助金10億円かけてローカル5G施設を完成させた後、維持費としてヴルーヴが町に示していた見積もりでは、ライセンス費約7,200万円、保守費約3,700万円、回線費約1,700万円など、人件費を除いても年間約1億2,600万円に上っていた。当面は補助金によって事業を維持し、数年後には企業誘致によって採算が取れるとの収支計画が示されていたが、現実性に疑問が残るなかで、巨額の補助金交付だけが先行した。
町議会も問題点を指摘するが、政策そのものの検証は不十分
昨年の問題発生後、玄海町議会は「高度化通信網構築事業調査特別委員会」を立ち上げ、12月に第1回調査経過報告書をとりまとめた。報告書では、事業者の選定、信用調査、補助金の支払い方法、議会への説明、事業者との情報共有など、行政側の意思決定やチェック体制に複数の問題があったと指摘した。
しかし、同報告書には重要な空白もあった。
報告書は事業者選定や町長らの対応については厳しく批判したものの、そもそも人口5,000人に満たない玄海町が10億円を超える公費を投入してローカル5G網を構築する政策自体にどこまで合理性があったのか、需要や採算性をどのように検証したのかという根本的な政策評価には、十分踏み込んでいない。
外部から見えにくい玄海町行政
本件の顛末を十分に検証するには情報公開が必要だが、ここで問題となるのが、玄海町行政の閉鎖性である。
玄海町の情報公開条例では、公文書公開を請求できる者を町内の居住者、事業者、勤務者、在学者や町の事務・事業に具体的な利害関係をもつ者などに限定しており、誰でも自由に情報公開請求できる制度にはなっていない。
玄海町は九州電力玄海原発を抱え、人口規模に比して大きな財政を動かす自治体である。また、原子力政策を通じて、町の意思決定が周辺自治体や住民にも影響をおよぼし得る。その意味でも、玄海町の行政運営は町内だけで完結する問題ではない。外部からも行政の意思決定を検証できる環境を整えることは、町政への不当な介入ではなく、行政への信頼を確保するために必要な仕組みだろう。
そして、ローカル5G事業は中止を決めれば終わる問題ではない。なぜこの事業が企画され、なぜ設立間もない企業に10億円を超える公費を託すことになったのか。事業者選定や補助金交付、事業計画の妥当性、議会のチェック機能を含め、事業開始から破綻に至る過程を改めて検証する必要がある。
日高町長は、ローカル5G問題など前町政の事業の進め方を批判し、財政の透明化を掲げて当選した。事業中止の決断は、その第一歩にすぎない。10億円を超える公費を投じた事業がなぜ失敗したのかを明らかにし、その結果を町民だけでなく広く公開できるのか。事業を終わらせることはできても、十分な成果を残せないまま頓挫した経緯まで、なかったことにはできない。日高町政が掲げた「透明化」の真価が問われるのは、むしろこれからだ。
【寺村朋輝】









