中井東京科学大特命教授に加えて5人のパネリストで
パネルディスカッションが行われた
国土交通省による3回に渡る連続シンポジウム「予見されてきた《大転換》が本格化する時代」の最終回が9月7日、東京・秋葉原の会場とオンラインで行われた。今回は「市街地・まちづくり視点から」をテーマに、これからの建物・土地の規制の在り方や官民の役割見直し、まちづくりに携わる「ひと」の重要性について意見が交わされた。今回の連続シンポジウムで得られた知見は、2027年2月に国交省でまとめる予定の「建築分野の中長期的なビジョン(仮称)」にも反映させる方針だ。
地域の財産へ捉え直し
過去2回は、住宅や建築物そのものの議論をしてきた。最終回で冒頭あいさつした国土交通省住宅局の豊嶋太朗(もとあき)大臣官房審議官は、「住宅・建築物の集合体としての市街地やまちづくりについて議論していただく」とした。
国土交通省の豊嶋太朗(もとあき)住宅局大臣官房審議官
人口・世帯減少や担い手不足、技術革新など、これまで予見されてきた変化が本格化していると改めて指摘。住宅分野では、26年3月に閣議決定された住生活基本計画に基づき、ストック活用や少子高齢化、担い手不足への対応を進めるとともに、維持管理や流通、残価設定ローンなどを視野に入れた新たな仕組みづくりを進めていると説明した。まちづくりについても、既成市街地を生かす段階への転換が必要とした。狭隘道路や空き家など、建替えを前提とした従来手法だけでは対応が難しい課題が増えており、地域に蓄積されたインフラや建築物を財産として捉え直し、2050年に向けて活用していくことが重要だと話した。
建てない場所も対象に
東京科学大学特命教授・名誉教授の中井検裕氏は、「市街地を豊かな空間、豊かな時間で満たすために~2050年の市街地環境~」をテーマに基調講演を行った。中井氏が示した最大のメッセージは、これからの市街地環境を考える際、「建物を建てるところ」だけでなく「建物を建てないところ(ボイド)」を計画対象として捉える必要があるという点だ。従来の都市計画や建築基準法の集団規定は、用途地域などによって区域を区分し、個々の敷地に規制をかけて市街地環境を形成してきた。しかし、この仕組みは旺盛な建築需要が前提で、人口減少によって建築・開発需要が縮小する地域では十分に機能しにくいと指摘。空き家や空き地、耕作放棄地の増加によって、「建てれば使い続けられる」という前提も崩れているとした。
中井氏は、こうした空き家・空き店舗、民間の空き地、公共の空き地などを「ボイド」と捉え、今後の計画対象に組み込む必要性を指摘した。緑地や農地についても、単に保全するだけでなく、グリーンインフラなど地域の価値を高める資源として活用する視点が重要となる。
具体例として、長野県小布施町の「おぶせオープンガーデン」、千葉県柏市の「カシニワ」、山形県鶴岡市の「つるおかランドバンク」、東京都江戸川区篠崎の小規模な区画整理、東京都中野区弥生町の種地を活用した市街地整備などを紹介。大阪駅前の「グラングリーン大阪」についても、緑地や公開空地によって周辺の不動産価値を高める取り組みとして評価した。
これらの事例に共通するのは、ボイドを地域の共有資産(コモンズ)と捉え、地域全体の価値向上に向けてマネジメントする仕組みだと指摘。中井氏は建築専門家に対しても、ボイドや市街地全体の環境整備へ関与することを呼び掛けた。
主役は「ひと」に
中井氏による基調講演を受け、パネルディスカッションでは、行政、民間、金融、都市計画など異なる立場の実践者が、地域全体の価値を高めるための具体的な方策について議論を行った。モデレーターを務めた筑波大学システム情報系社会工学域教授の有田智一氏は、これまでの集団規定が敷地単位の建築行為を中心に構築されてきたのに対し、ストック活用時代には、建物だけでなく、そこで行われる活動や周辺の空間まで含めてエリア全体を捉える必要があると指摘した。
元大津市長で三浦法律事務所弁護士の越直美氏は、人口減少、社会保障費の増加、公共施設の老朽化という地方自治体の「三重苦」を指摘した。そのうえで、大津市の競輪場跡地を民間事業者が解体し、公園と商業施設を整備した規制緩和の事例を紹介。人口減少時代には、行政が自ら施設を整備するだけでなく、既存の土地や建物を市民や民間事業者に開放していくのが役割でありリーダーシップだと述べた。
(株)リノベリングの代表取締役・清水義次氏は、空き物件など地域に眠る資源を活用する「リノベーションまちづくり」を紹介した。実際の空き店舗を題材に、住民や行政、民間事業者が新たな使い方を考える「リノベーションスクール」を各地で展開してきた経験から、「敷地に価値なし、エリアに価値あり」と強調。まちづくりの「主役はひとであるというのが結論」だとした。
三井住友銀行法人戦略部ダイレクターの杉山ひろみ氏は、地域価値を生み出すには金融の役割も重要で、現地で問題点などを発見するのに最も大切なのは「ひと」だと指摘。不動産単体の収益性だけでなく、歴史や文化など地域が持つ価値を踏まえて投資を考える必要があるとし、事業段階に応じて公的資金と民間金融をつなぐ仕組みの必要性を示した。
慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授のホルヘ・アルマザン氏は、トップダウンとボトムアップを対立させるのではなく、「規制の最適化」によって両者のバランスを取ることが重要と指摘。都市再生機構理事の中山靖史氏も、中小ビル街区の再生には「情熱・思想」「ノウハウ」「長期資金」の3つが必要だとし、多様な主体が連携する仕組みの重要性を指摘した。
最後に中井氏は、まちづくりには異なる専門分野をつなぐ「マルチリンガルな人材」が必要だと指摘。さらに、地方自治体には、民間だけでは整備が難しい不動産情報の基盤を整える役割があると強調した。
<プロフィール>
桑島良紀(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。

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