唐津の玄関口は変わるか 虹の松原ホテル民間譲渡へ

上空から見た虹の松原 九州森林管理局HPより
上空から見た虹の松原 九州森林管理局HPより

“日本三大松原”内のホテル

 佐賀県唐津市の虹の松原は、唐津湾沿いに虹の弧のように連なる長さ約4.5km、幅約500mの松原で、肥前国唐津藩初代藩主・寺沢志摩守広高が、防風林として植えたのが始まりとされる。三保の松原(静岡市)、気比の松原(福井県)とともに“日本三大松原”に数えられ、国の特別名勝にも指定されている。

 1869(明治2)年以降は国有林として管理されており、唐津市が国から土地を借り受けるかたちで、1963年に国民宿舎・虹の松原ホテルが設置された(建物は市が保有)。当初、同ホテルは市の直営だったが、指定管理者制度が導入された2006年度以降は、管理・運営を民間事業者に委託。17年からは通信販売大手の(株)ディーエイチシー(以下、DHC)が管理・運営を手がけていたが、コロナ禍での休業や、その後新たな指定管理者を選定できなかったことによる休館を経て、23年に(株)VILLAGE INC(ヴィレッジインク、静岡県三島市)が管理・運営業者に選定され、同年12月から「虹の松原ホテルThe Beach」の名称で営業を再開している。なお、指定期間は27年3月31日までで、同社が提案した施設使用料は2,000万8,450円だった(市が提示した基準額は1,818万9,000円)。

虹の松原ホテル
虹の松原ホテル

虹の松原ホテル
所在地 :唐津市満島 満島虹ノ松原国有林126二林小班
住居表示:唐津市東唐津4-189
敷地面積:6,493m2(国有林野)
延床面積:4,068.883m2
構 造 :RC造・地上3階建
客室数 :58室(宿泊定員110名)、会議室、多目的ホール、レストラン、ゴミ置場あり

 契約期間の満了が迫るなか、市は今年8月、同ホテルの民間譲渡に向けた事業者公募に先立ち、サウンディング型市場調査を実施した(調査結果の報告は9月下旬頃を予定)。白砂青松の美しいロケーションが特徴の同ホテルだが、開設からすでに60年以上が経過。95年に一度全面改築を実施しているものの、老朽化への対応に加え、将来を見据えた維持管理や魅力向上のための大規模改修が不可欠な状況となっている。市としては、指定管理の継続により見込まれる多額の施設改修費などの負担を、民間譲渡によって抑制することができる。問題は、相応の投資金額が避けられない同ホテルの取得希望者が、現れるかどうかだ。

虹の松原ホテル隣接の東の浜海水浴場
虹の松原ホテル隣接の東の浜海水浴場

宿泊者数は回復傾向続く

 コロナ禍前の19年度に2万562人だった虹の松原ホテルの宿泊者数は、その後20年度に1万1,995人、21年度に8,518人と減少していき、22年度には2,000人を割り込んだ(市公表「指定管理者モニタリング評価シート」参照)。コロナ禍明けの23年度は、休館を経て指定管理者がヴィレッジインクに決まったばかりということもあり、23年10月から24年3月までの半年間の運営となった。23年度の宿泊者数は3,623人だったものの、翌24年度の宿泊者数は1万2,458人となり、収支も1,841万9,181円の赤字から、1,050万6,657円の黒字に転じた。なお、14~19年度については、DHCが指定管理を引き継いだ直後の17年度を除き、宿泊者数は毎年2万人を超え、飲食利用者数については6万人を超えていた(16年度)。

 なお、虹の松原ホテルの隣では、「唐津シーサイドホテル」という別のホテルが営業しており、DHCから事業移管を受けた(株)唐津シーサイドホテル(23年12月にシャトレーゼグループ傘下となった)が運営を行っている。唐津シーサイドホテルは、西館(地上7階建・44室)、東館(地上8階建・95室)の2棟からなる、総客室数139室のホテルだ。全室オーシャンビューで、唐津湾を臨む天然温泉、複数のレストランにラウンジ・バー、エステ、フィットネスなど、宿泊者をもてなすための施設が充実している。福岡空港から車で約1時間、福岡市地下鉄およびJR筑肥線の利用で約1時間半という立地にあり、同ホテルと虹の松原ホテルは、音楽とサーフカルチャーを楽しむ地元開催のイベント「KARATSU Drop FESTIVAL」にも、限定宿泊プランや市民・県民向けの割引チケットの販売などを通じて協力している。

唐津シーサイドホテル
唐津シーサイドホテル

残された最後の国民宿舎

 ここからは、これまでの経緯を振り返ってみよう。実は、虹の松原ホテルの民間譲渡という動きが現れたのは、今回が初めてではない。05年、唐津市は市町村合併の結果、市内に「虹の松原ホテル」「いろは島」「波戸岬」「呼子ロッジ」という4つの国民宿舎を抱え込むことになった。当時、4施設は市が民間事業者から施設使用料を徴収するかたちで指定管理が行われていた。3施設は黒字だったが、いずれも老朽化が進み、将来的に所有者である市の修繕費負担が増加することが懸念されたため、14年に、市は4施設の民間譲渡または廃止という方針を決定した。

 その後、虹の松原ホテルを除く3施設については民間譲渡の手続きが進められ、17年4月に経営を民間へ移譲。唯一、虹の松原ホテルだけ民間譲渡が実現しなかった理由は、同ホテルの敷地が玄海国定公園内にある国有地であり、民間譲渡後、事業者による国への許可申請が円滑に進まない事態が懸念されたためとされる。

 こうして民間企業が指定管理者として運営を続けることになった虹の松原ホテルだが、民間管理下で宿泊者数とレストラン利用者数はともに拡大を続けた(市公表「指定管理者モニタリング評価シート」参照)。10年度に1万5,102人だった宿泊者数はほぼ毎年増加を続け、16年度には2万3,672人となった。飲食利用者数は14年度(それ以前の記録はなし)に3万1,540人だったものが、16年度には6万2,829人まで増加。同ホテルでは年に複数回のクラシックコンサートが行われるなど、交流人口の創出に積極的に取り組んでいた。

隣のホテルを買収したDHC

 23年3月まで指定管理者だったDHCの創業者で、当時会長兼CEOを務めていた吉田嘉明氏は、唐津市出身。故郷に錦を飾ることに強い思い入れがあったとされ、市が主催する各種イベントの大口スポンサーなどにも名を連ねていた。DHCは、昭和グループから唐津シーサイドホテルの経営を譲り受けた後、さらに隣接する虹の松原ホテルの指定管理者となったことで、市を代表する景勝地で2つのホテル管理・運営に携わることになった。

 しかし、17年度からDHCが指定管理者となって以降、虹の松原ホテルの利用状況と営業実績は低迷した。16年度に2万3,672人だった宿泊者数は、17年度に1万4,988人(前年度比36.7%減)に、飲食利用者数も6万2,829人から3万7,713人(同40.0%減)に落ち込んだ。総収入は、16年度の2億5,281万1,967円から、17年度には1億5,838万9,525円(同37.3%減)となった。なかでも飲食等収入は、1億6,765万7,513円から8,173万6,064円へと半減。指定管理者が交代した1年間で、収入規模がほぼ1億円縮小したことになる。

 背景として、DHCが唐津シーサイドホテルの運営に手一杯で、虹の松原ホテルの運営にまで手が回らなかったといわれる。なお、同社が指定管理者になる前、16年度の約2.5億円にはおよばないものの、19年度には1億8,025万8,866円まで総収入が回復し、人件費を抑えることで収支は黒字へ転じている。

突然の撤退で一時運営終了

 少しずつ利用状況が改善し始めていた虹の松原ホテルだったが、そこにコロナ禍が直撃。宿泊者数は20年度の1万1,995人から21年度には8,518人まで落ち込み、飲食利用者数も20年度の1万8,416人から21年度には1万3,998人へ減少した。
 22年に入ると、ホテルの役割そのものが変わる。22年2月から同年末まで、新型コロナウイルスの療養ホテルとして使用されることになったためだ。22年度の宿泊者数はわずか1,331人、飲食利用者は24人だったが、療養施設としての補償もあり、利益は過去最大の6,000万円超に達した。

 コロナ禍では、運営会社DHC自体にも大きな転機が訪れた。22年11月、オリックス(株)が吉田氏からDHCの株式を取得することで合意。23年1月、オリックスはDHCを子会社化した。ただし、唐津シーサイドホテルなどのリゾートホテル事業はオリックスへの売却対象から切り離され、会社分割により23年1月1日付で同事業はDHCから新設された(株)唐津シーサイドホテルへと移管された。同社代表には吉田氏が就任し、引き続き同氏がホテル経営を担うことになった。これにより虹の松原ホテルの指定管理者も、23年1月1日から(株)唐津シーサイドホテルに変更された。

 ところが、同社は同年2月、突如として23年4月以降の指定管理について契約を更新しない旨を表明。市は新年度が始まる4月1日の時点で後継事業者を確保できず、同ホテルは23年3月末で営業をいったん終了することになった。

 後継事業者の選定を急いだ市は、23年3月に指定管理者の公募を決定し、4月下旬まで応募書類を受け付けた。このとき応募したのは、唐津市浜玉町出身の橋村和徳氏が代表を務めるVILLAGE INCの1社のみだった。その後、同社が23年10月1日から27年3月31日までの3年6カ月間、指定管理者としてホテル管理・運営を担うことになり、現在に至る。

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 虹の松原ホテルと隣接の唐津シーサイドホテルを巡るこれまでの動きは、以上の通りだ。隣り合う2つのホテルには、さらなる相乗効果の発揮が期待されるが、民営ホテルと市保有の公設民営ホテルの協業は、容易ではない。公の施設である虹の松原ホテルの指定管理者には、原則として住民の平等な利用の確保が義務付けられている。仮に特定の民営ホテルと協力して特別な宿泊プランを販売した場合、公の施設を使った特定企業の優遇と見なされかねない。意思決定の面で見ても、民間側は即断可能だが、指定管理側はその都度、市の承諾を得る必要がある。

 虹の松原ホテルの民間譲渡は、現在は困難な協業の可能性を高めるものだ。無論、民間譲渡が無事に進んだとしても、同ホテルと唐津シーサイドホテルはターゲット客層(オーシャンビュー・唐津観光など)が重複するため、協業した場合、どちらのホテルに便益が偏るかで利害が衝突することが予想される。両ホテルの管理・運営業者が同じであればその限りではないが、過去の経緯から、唐津シーサイドホテルに2つのホテルを同時に管理・運営する余力があるとは考え難い。民間譲渡によりさまざまな制約が取り払われる虹の松原ホテルだが、はたしてそのポテンシャルを生かすことのできる事業者は現れるのか、動向が注目される。

【代源太朗/寺村朋輝】

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