2024年05月02日( 木 )

施工不良で視界不良になった東亜建設工業の行く末(中)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

創業100年以上の老舗

airport 1908年、浅野財閥の総帥・浅野総一郎が、神奈川県横浜市鶴見区の河口から東京湾に注ぐ鶴見川の河口に広がる海面約150万坪の埋立事業計画を神奈川県庁に提出。そのために12年、鶴見埋立組合を設立したのが東亜建設工業(株)の始まり。14年、同組合の事業を引き継ぐ鶴見埋築(株)が発足。最初に埋立工事に着手した第7区(現・神奈川県鶴見区末広町)の7万坪の工事は15年末に完了し、そのうち2万5,000坪が旭硝子(株)に売却された。これは同埋立地進出の第1号案件となった。

 20年に東京湾埋立(株)が設立され、鶴見埋築を吸収合併し事業を継承。23年に関東大震災が発生したが被害は軽く、東京方面から京浜地区へ進出する工場が増えた。だが、27年に金融恐慌、30年の金解禁による不況が重なり、設備投資の減退、埋立地売却の急減から経営危機に見舞われた。
 32年に請負工事部門を分離し港湾工業(株)を設立。33年に入ると人絹工場の増設ブームが訪れ、瀬戸内沿岸の人絹工場用地造成工事の受注が増加した。44年、東京湾埋立と港湾工業は合併し、新たに東亜港湾工業(株)として発足。第二次世界大戦後の45年9月、連合軍による羽田飛行場A滑走路の復旧や拡張の命令が下る。以後、運輸省の新潟港浚渫工事や三井鉱山(株)の福岡県大牟田市の三池鉱業所埋立工事を受注するなど、戦後復興の波に乗り実績を重ねた。

 72年には田中角栄内閣が「日本列島改造論」を掲げるなか、同社は港湾関係以外に一般土木とくに道路、橋梁、建築基礎、沈埋トンネルおよび内陸と海面を含めた宅地造成工事、海洋開発の一部へ進出。73年には総合建設業に向けて一歩を踏み出し、社名も現在の東亜建設工業(株)に変更。76年には、当時日本の建設業が受注した海外工事で最大規模となる、シンガポールのチャンギ国際空港の造成工事を298億9,500万円で受注した。
 だが、海外で不採算工事が相次ぎ、81年3月期決算で多額の当期損失を計上。同年、海外の赤字工事の早期完成を基本方針とした3カ年計画がスタートし、何とか83年3月期決算において前倒しで回復した。

 そんななか、政府は87年に総額6兆円の緊急経済対策を打ち、思い切った内需拡大策に転じた。これにより建設業界も潤ったが、間もなくバブル経済がはじけ平成不況が長期にわたる。同社はそれまでの国内の公共土木工事依存体質から脱却し、民間主体の建築事業、東南アジアを中心とした海外事業を拡大。2008年に創業100周年を迎えて現在に至る。

堅調な決算とは裏腹に

 同社の最近の決算状況を見てみよう【図2】。国内の建設市場は国土強靭化計画に基づく防災・減災などの分野を中心に公共投資が堅調に推移。民間投資も増えてはきたが、高止まりの状況が続く資材価格や労働者不足による労務費上昇という経営課題もある。

 そんななか、16年3月期連結決算は売上高2,002億8,200万円(前期比0.7%増)、営業利益は海外工事の採算性の改善などにより117億8,900万円余(同107%増)、経常利益は106億600万円(同99.8%増)。親会社株主に帰属する当期純利益は、事業用土地など遊休資産の減損損失14億3,800万円を特別損失として計上したが、60億3,800万円(同190.2%増)を確保した。

 セグメント別に見ると、国内土木事業は海上土木分野をコア事業とし、東日本大震災の被災地復興やインフラ整備に継続的に取り組み、売上高999億3,700万円(前期比11.1%増)、営業利益は71億7,800万円(同1.0%減)とだった。
 国内建築事業については、特命案件、企画提案案件、設計施工案件の受注拡大と工事原価の厳正なチェックで利益確保を図り、売上高は419億2500万円(同23.4%減)、不採算工事の減少で営業利益は15億5,900万円(同111.4%増)を確保した。
 海外事業は東南アジアを中心に南太平洋地域などにおいて海上土木工事や火力発電所プラント工事などに注力。売上高は487億3,600万円(同19.7%増)、営業利益は52億5,600万円(前期は16億5,300万円の損失)となった。

 一方、貸借対照表に目を転じると、借入は長短合わせて299億400万円でそれほど重くない。純資産は長い業歴のなかで711億4,300万円(自己資本比率36%)まで積み上げており、数字上の倒産リスクは低いようにみられる。

 そんななか、冒頭に紹介した東京国際空港ほかの地盤改良工事における施工不良および虚偽報告の事件が起きた。補修工事は同社が自己負担することになりそうだが、損失額は未知数で本稿執筆の8月4日時点で今期の業績予想が出せていない状況だ。さらに営業停止などの行政処分も検討されている。何より信頼が地に落ちた。数字だけでは計れないリスクを抱えている。

図2 損益計算書と貸借対照表 図2 損益計算書と貸借対照表

(つづく)
【大根田 康介】

<COMPANY INFORMATION>
東亜建設工業(株)
代 表:秋山 優樹
所在地:東京都新宿区西新宿3-7-1
創 業:1908年
設 立:1920年1月
資本金:189億7,665万円
売上高:(16/3連結)2,002億8,200万円

 
(前)
(後)

関連記事