2024年05月01日( 水 )

若い人材は褒めて伸ばす~“最良の会社づくり”のコツ(後)

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新入社員を褒める、叱る

 ――なるほど。それでは迎える企業側は、どのような点に気をつけるべきでしょう。

 永江 まず、若い人たちの捉え方です。以前は、当然のようにある程度の苦労をしてきて、怒られることも多々ありました。学校で先生に殴られるのが当たり前だった時代です。近所の人に叱りつけられることも珍しくありませんでした。

 けれども、今の時代はそうではない。教師が親の顔色をうかがう時代です。親からも叱られることはない。たとえばマナー1つとっても、何が良くて何が悪いかさえわからない。ですが、教えさえすれば、すぐにできるのが今の若い世代です。理解力も高く、発想も豊か。1つの失敗やうまくできない点をとって、「この子はダメだ、厳しく指導しなければ―」となれば、自分はダメだと自信をなくして辞めてしまうわけです。

 ――どのようにして若い人たちを指導し、教えていけばいいのでしょうか。

女性社員魅力学研修の様子<

女性社員魅力学研修の様子

 永江 私はIAAを創立してこれまでの33年間、多くの若者とその夢を育ててきました。若い人たちへの接し方や教育に関しては、プロであると自負しています。ですが、特別なことは何もしていません。とにかく、「褒める」ことです。
 IAAには沖縄から北海道まで、全国各地からさまざまな若者たちが集まっています。そのなかには、メイクやお洒落に無頓着な子もいれば、マナーとは無縁の環境で育った子もいます。できていない点を指摘しようと思えば、いくらでもあります。そこから始めるのではなく、まずはしっかりと基礎から丁寧に教えて、良いところを見つけて褒める。「今日のお化粧、とても綺麗ね」「その髪型、素敵ね」と褒めて伸ばしていくのです。そうするとたった1カ月半で彼女たちはメイク、ヘアを整えて、制服を完璧に着こなし、ハイヒールで格好良く歩く“淑女”に育ちます。
 若い人たちは、あくまでもできなくて当然だということを前提に接することで、指導を受ける側にも心の余裕が生まれる。間違ったこと、できていないことは教える。正しくできていれば必ず褒める。それを繰り返すなかで、若い人は自分に自信を持ち、人間力の高い魅力ある人材に育っていくのです。

 ――叱るのではなく、褒めることが大事?

 永江 叱ってはいけないというのではなく、褒めることがより重要だということです。叱りっぱなしにして自信を奪い、若い芽を摘んでしまうことが多々あります。大事なのは叱った後に、必ず褒めること。マイナスの言葉の後には、プラスの言葉を持ってくる、「後良し言葉」。褒め言葉は後に持ってきましょう。私は「8:2」の割合、8褒めて2叱ってください、2叱った後はまた8褒めてくださいとお話ししています。
 ―叱るより、褒めることに慣れない人が多いように思います。
 永江 褒め方、叱り方も研修でお伝えしていますが、言葉に遠慮があって、叱りきれていないことがあります。中途半端な叱り方は、相手に通じない。優しく叱る必要はないのです。簡潔に的確に叱って、その後に褒めることが重要です。

 ――叱ることで教える、という考え方もあります。

 永江 社会のことを何も知らずに入社している若い人たちにとって大事なのはモチベーションを落とさないようにすること。いきなり叱っても、やる気や情熱を削ぐだけです。
 モチベーションには、挨拶、笑顔、身だしなみ、言葉遣い、態度…等々、多くのことが影響してきます。とくに女性は、心地良さと見た目に関して大変気をつかっています。社内のレイアウトひとつとってもそう。社員が心地良く働ける空間づくりができているかどうか。経営者の方には、「社員のために投資をしてください」とお話ししています。モチベーションが上がれば、業績も上がります。根本は社員のメンタル。社員が精神的に健康で、情熱に燃え、明るくあるために工夫が必要なのです。

成長への環境づくり メンターの存在

 ――新人だけでなく、社員全員に通じる話ですね。

 永江 ええ。それが社員で共有できていなければ、新入社員も当然できません。新入社員を迎える側はやる気や、情熱を持てる環境、明るく活力にあふれる環境、それらを1つひとつ考えていかなければなりません。
 これからAIの技術が発展するにつれ、人間の仕事はどんどん奪われていきます。ですが、五感に訴えるビジネスや企画、商品は、人間にしかできません。「1+1」を「2以上」のものにしていくこと―今後、企業が生き残っていくにはそれが不可欠になってきますが、その源泉は社員の精神的な充実感です。

 ――社員が成長するには、何が必要ですか。

 永江 夢を持つことのできる環境づくりです。頭ごなしに否定せずに、まずはチャレンジさせてみる。それは、若い人を委縮させない環境づくりでもあります。私は企画の提案を受けたら否定せず、責任を取るからやってみなさいと後押ししています。自分が立てた1つの企画を進めるうえで、学ぶことがたくさんある。チャレンジするなかで、人材は成長する。そのチャンスをいかに多く与えていくことができるか、目標や夢が設定できるか、そしてどれほどの目標や夢を描けるかで、成長のスピードや到達できるレベルも変わってきます。

 ――社員の成長は、企業の成長と直結するということですね。では、成功する経営者に共通することとは何でしょう。

 永江 ポジティブであることですね。成功している方々は「運が良かった」と皆さんおっしゃいますが、それは彼らが諦めなかったということにほかなりません。成功するまでやるから成功者になれるのです。そして「人間力」とも言うべき、人を惹きつける魅力がありますね。

 ――永江社長自身が考案された「魅力学」では、ポジティブシンキングが重要と位置付けられていますね。

 永江 「魅力学」では外面と内面両方を磨きますが、ポジティブシンキングで気持ちを上げることは、人が魅力的であることと強く結びつくものです。私たちはカウンセラーではなく「メンター」です。カウンセラーとの違いは、はっきりアドバイスをすること。「こうすべき」と、具体的に提案することです。多くの日本人には、そうしたメンター的存在がいないと言われています。
 人間は、気持ち1つで変わることができる。その変わるきっかけは本だったり、映画だったりと、さまざまありますが、魅力的なメンターとめぐり会えれば、それはきっと強力な味方としてサポートしてくれるに違いありません。

【吉井 陸人】

 厚生労働省が毎年実施する「新規学卒者の離職状況」では、2012年に入社した大卒の就職者の3年後の離職率が32.3%となっている。「新卒の3割が3年以内に辞める」とベストセラーやマスコミ報道の影響もあり、ゆとり教育などを引き合いに、近年の若年層の特徴を指しているかに見えるが、この傾向は最近始まったものではない。大卒新入社員の入社3年後の離職率の推移を見ると、調査の始まった1987年ですでに3割近く、その後は04年の36.6%をピークに減少傾向にある。3割の新卒が早期離職するのは長期的なトレンドだった。
 厚労省が不定期に実施する「若年者雇用実態調査」の13年によれば、大学卒の若年者の離職理由は、多い順に「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」が25.3%、続いて「賃金の条件がよくなかった」16.4%、「人間関係がよくなかった」15.5%と、企業と学生のミスマッチが主となっている。比較できる09年調査の結果もおおむね同じ傾向を示す。勤務した期間による分類でも同様の傾向が続くが、勤続期間が短いほど「人間関係がよくなかった」が占める割合が増え、勤続1年未満までの区分はトップの離職理由。以上から、労働条件を別にした企業と学生のミスマッチを防ぎ、若い人材の流出を防ぐには、教育体制や社内環境の整備が不可欠であることがわかる。

<COMPANY INFORMATION>
所在地:福岡市中央区天神3-4-5
設 立:1984年11月
TEL:092-771-3511
URL:http://www.iaa.co.jp/

 
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