2024年04月29日( 月 )

医学部入試の「抜け道」、いまや王道?(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 医学部入試では、たとえば東北の高校生が九州の医学部を受験する、あるいは逆のケースが多々ある。私立大学と比べて大幅に安価(約6分の1~20分の1)な国公立大学医学部の貴重なイス5,780個を全国の優秀な高校生たちで奪い合うため、戦いのフィールドがどんどん広がっているのだ。
 しかし、国立大学医学部には所在する地域医療を充実させるという大きな使命があるため、たとえば大分大学で医師免許はとったものの、「出身は東京なので、卒業したら帰ります」といった学生が続出してはちょっとまずい。研修医が自由に研修先を選べるようになったこともあり、地域で生まれ育った学生に少し下駄を履かせてでも入学させたいという地域枠の設置は、いってみれば苦肉の策ともいえる。

 前編で述べたように、すでに医学部の2割近い定員が地域枠入学者だ。この地域枠制度を裏技的に使えば、普通なら医学部に届かない実力であっても一発逆転が可能だ。たとえば、都市圏にある有名高校で中位程度の成績を取る実力があるのなら、へき地にある公立高校でトップを維持すれば地域枠で合格できる。本気で地域医療を支えたいと希望する中学生なら、無理して難しい高校に入る必要はなく、むしろ「地元志向」こそ有利になる。それが医学部入試の新しい潮流だ。

 国は、「2024年には約1万人の地域枠卒業生が地域医療に従事する」と予測する。しかし、入学時に地域医療への思いを熱く語っていたうぶな高校生たちも、研修先を決め始めるころにはまなざしが変わってくるという。「老人の脈をとって、毎日同じ話を何度も聞く生活は、期間が限定されているとはいえ耐えられない。医師としての腕も落ちてしまう」と、ある意味医師らしい冷徹な目で現実を分析する者も一定数出てくるのだ(新専門医制度も関係する問題だが、ここでは置く)。

 若者たちの「地域医療を守りたい」という熱い思いは本物だ。その思いに応え、どうやって伸ばしてあげるのか。試されているのはむしろ大人たちなのだろう。

(了)

 
(前)

関連記事