「もうつくれない」昭和初期の建築物・九段会館を保存再生(前)
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緑色の瓦屋根とジャイアントオーダーの向こうに武道館を仰ぎ見る、長らく九段下で親しまれてきた景色が、このたび九段会館テラスとして再生された。再生されたのは1930年代に建設された国の登録有形文化財である「九段会館」。帝冠様式のファサードはそのままに、牛ヶ淵沿いでは地上17階建ての高層ビルとして生まれ変わった。九段会館テラスの再生を手がけた鹿島建設(株)開発責任者の梅田慎介氏と施工責任者の神山良知氏に、話を聞くことができた。九段会館の歴史を振り返りつつ、足掛け5年以上におよんだ保存プロジェクトについて紹介する。
日本独自の意匠「帝冠様式」とは
九段会館は、「軍人會館」として建設計画がスタートした。昭和天皇の即位礼(1928年)を記念する「昭和御大礼記念事業」の一環だった。軍人會館は、軍人の教育や相互扶助を目的とした(財)在郷軍人会が計画を主導し、同会主催のコンペで選ばれた設計案を基に実施設計を経て1932(昭和7)年に起工。2年余りの歳月を費やして完成した。
「帝冠様式」(※)とは、当時の建築界において日本独自の意匠を模索するなかで生まれた建築様式を指す。コンクリート造の建物に天守閣風の瓦葺き勾配屋根を冠したもので、大正期から昭和初期の公共建築によく用いられた。軍人會館の立地は、皇居のほとりで靖国神社を目の前にすることから、日本の独自性がより強く意識されたものと思われる。コンペの「設計心得」には下記のようにある。建築計画の意図に関わるものも抜粋する。
(※)帝冠様式の建築物には日本生命館(現・高島屋日本橋店)、大礼記念京都美術館(現・京都市京セラ美術館)、東京帝室博物館(現・東京国立博物館本館)、神奈川県庁舎、名古屋市庁舎、愛知県庁舎、静岡県庁舎、海外では満州国司法部(当時)、高雄駅(当時)、樺太庁博物館(当時)、満州国首都警察庁(当時)などがある。
「五、會館ノ講堂大玄関ハ北々西ニ正面セシメ敷地東南側ニ自動車ノ通路ヲ存シ西北側(九段坂寄)ハ庭園トシ銅像敷地及會館敷地間ヨリ大玄関ニ通スル道路ヲ附ス又西南側ノ濠岸ハ工事中ト難モ地形ヲ變更スルコトヲ得ス。」「六、建築ノ様式ハ随意ナルモ容姿ハ国粋ノ気品ヲ備へ荘厳雄大ノ特色ヲ表現スルコト」「七、構造ハ鉄骨、鉄筋コンクリート構造トシ、建築材料ハ己ムヲ得サルモノ、外日本産ヲ使用スルコト 敷地地盤ハ砂質粘土ニシテ地耐力一平方尺ニツキ約〇.五噸ナルヲ以テ基礎ハ杭打チ必要トス 會館ハ将来平面的ニ拡張ノ企画ナキモ構造ニ就テ別館上階ニ若干増築シ得ル様考慮スルコト」「一二、屋上ニハ神殿及権殿(靖國神社臨時奉安所ヲ設クヘキ空地)ヲ設ケ周囲ハ庭園トスルコト」
【永上 隼人】
参考
・洪洋社編集部編「軍人会館競技設計図集」洪洋社 1931年
・日本建築協会編「日本趣味を基調とせる最近建築懸賞図集」 1931年
・帝國在郷軍人會本部「帝國在郷軍人會概要」 1932年
・近江栄『建築設計競技 コンペティションの系譜と展望』鹿島出版会 1986年
・藤岡洋保「軍人会館 (現・九段会館)─「帝冠様式」は軍国主義の象徴か?」、『コア東京』2020年7月号、(一社)東京都建築士事務所協会- 1
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