2024年05月03日( 金 )

建設業に必要なのは「公正な価格競争と賃金の価格転嫁」(後)

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(一社)建設産業専門団体連合会 会長 岩田  正吾  氏

    国土交通省は今年8月、担い手確保や生産性向上等の従前からの建設業における課題や、昨今の建設資材の急激な価格変動等の建設業を取り巻く環境の変化を踏まえ、将来にわたって建設業を持続可能なものとするために必要な施策の方向性についての検討を行うため、「持続可能な建設業に向けた環境整備検討会」を設置した。このことについて、健全な建設産業を目指し、担い手の確保・育成に向けた取り組みを進める(一社)建設産業専門団体連合会会長・岩田正吾氏に話を聞いた。

(聞き手:(株)データ・マックス取締役 児玉 崇)

    岩田 建専連では、建設キャリアアップシステム(以下、CSUS)評価基準に合わせて、10団体が建設技能者向けに4段階の最低年収を公表しました。最低年収を基に、生産性を加味すると現場ごとの請負単価に反映できるため、発注者は請負単価が安すぎないかを知ることができます。強制力はありませんが、業界のルールとすることでダンピングを防ぎ、最低年収を担保できる請負単価を発注者に納得してもらうことが重要ではないでしょうか。

 また、建設産業は重層構造になっており、元請が受注単価を上げても職人の賃金に回らないという構造的な問題を抱えています。産業構造の重層化は、施工の品質を確保するうえで必要な面もありますが、不必要な下請は減らす必要があると考え、元請と協力した対応が求められます。これらの問題は、公共工事設計労務単価相当額(以下、労務単価)が技能労働者(職人)に流れる仕組みも含めて、国土交通省の「持続可能な建設業に向けた環境整備委員会」(以下、委員会)で有識者による議論がなされています。

 建設業界では、一人親方の労務や社会保険制度を正しく理解していない人も多く、なかには経費節減のため脱法的に利用している人もいます。これらの問題に正しくメスを入れないと、社会保険未加入の職人に依頼して受注単価を下げるといった不公平な価格競争は改善されないでしょう。違法的な社会保険未加入者や一人親方には、建専連の取り組みとともに行政の監督指導も必要です。委員会では、「持続可能性」が注目されるなか、「労働法等の法令を遵守していない者に建物をつくらせていいのか」と世間の目が向けられる可能性にも言及されています。

 若手の人材採用では、「自分の家族を建設業界に送り出したいか?」という視点にこそ解決の糸口があるように思います。職人の技術を受け継ぐためにも、最低年収や受注価格を標準化して世間一般に伝え、就業時間や拘束時間に関しては働き手目線で議論して法律に順応することが必要です。これが1つ目の、次世代の担い手の確保似必要なことだと思います。

 2つ目の取り組みとして外国人材の活用を挙げたのは、日本の若者人口が減っているため、次世代の担い手を確保しても建設需要に対して人材が足りないという肌感覚があるためです。特定技能制度では、(一社)建設技能人材機構が一元管理しているため、日本人並みの賃金で外国人を雇用していますが、外国人技能実習制度では最低賃金水準で雇用していることが問題とされています。100の市場規模に対して150の職人がいると、人件費である請負単価は下がります。四国では昨年、技能実習生を多数雇用する下請業者が相場の半値に近い単価で仕事を受注するという事象が発生しました。外国人材を低賃金で雇用する企業は価格競争で有利になりますが、外国人実習生の処遇がこのままで良いのか、一方できちんと同等の労務管理をしている企業が厳しい状況に陥らないよう、外国人の雇用を管理する法律による枠組みも必要だと思います。

資材高騰による影響

    ──資材高騰の影響は、いかがでしょうか。

 岩田 私は(公社)全国鉄筋工事業協会の会長も務めていますが、鉄筋工事業に関しては、資材費を元請が負担しているため影響は出ていません。しかし、他の専門工事業者から聞く話では、資材高騰による影響を元請に多少負担してもらう交渉をしている企業が多いようです。また、国交省の「令和3年度資材や原油の価格高騰による影響確認に係るモニタリング調査」結果によると、受発注者間契約では「請負契約に物価等の変動に基づく契約変更条項が含まれていない」が15%、「物価等の変動に基づく請負金額の変更の申出を受け入れてもらえた」のは59%となっており、4割が価格転嫁できていないようです。

労務単価の現状

 ──専門工事業を含む建設業界の課題である労務単価や労働環境について、現状を聞かせてください。

 岩田 建設業界では、労務単価は上がっています。まずは官製で価格転嫁をして、日本の賃金を上げて商品の価値を上げていこうという空気をつくることが必要です。また、働き方改革は進めるべきですが、政府は労働時間の上限規制を定めるよりも、残業の扱いを明確にして、人件費を価格転嫁して労務単価を上げられる仕組みをつくるべきでしょう。人材採用は「売り手」市場ですから、若者が建設業で働きたいと思える環境をつくることが大事だと考えています。

 ──職人不足の問題により、賃上げの議論が盛んになっています。ゼネコンは賃上げを許容する考え方に変わってきていますか。

 岩田 現状は建設現場が多いため、ある程度の賃上げをしないと職人を確保できません。しかし、ゼネコンは目下、資材高騰を価格転嫁することに必死な状況ですから、賃上げは限定的というのが実情です。ですから、(一社)日本建設業連合会や(一社)全国建設業協会には、資材価格が下がったら労務単価の割合を増やしてほしいと伝えています。元請、下請、労働組合の共通した思いは、賃上げによる価格転嫁を法律でできるようにしたいということです。民間発注者に対して、受発注の中身をある程度「ガラス張り」にしながらも、請負の良い部分を残し、リスクを負担できるセーフティネットづくりを目指して動いています。これは法律の問題として、委員会で議論が始まっています。

 今後1年から1年半で環境整備委員会の方向性が定まる見通しですが、具体的な運用方法を決めるまでは、まだ時間がかかるでしょう。職人不足問題は建設業界にとって、大きな課題です。次世代の担い手を確保できるよう、業界を挙げて整備を進めていきます。

(了)

【石井 ゆかり】


<プロフィール>
岩田 正吾
(いわた・しょうご)
1964年10月生まれ。大阪府枚方市出身。2002年、正栄工業(株)代表取締役社長の就任を経て、関西鉄筋工業協同組合理事長、(一社)大阪府建団連副会長、(公社)全国鉄筋工事業協会会長、(一社)建設業振興基金理事、職業訓練法人全国建設産業教育訓練協会理事、(一社)建設技能人材機構理事、(一社)建設産業専門団体連合会会長、中央建設審議会委員、優秀施工者国土交通大臣顕彰審査委員会委員、勤労者退職金共済機構運営委員を現任。

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