2024年05月09日( 木 )

九州の観光産業を考える(18)CO2を飲み込み蓄えるSDGs未来都市(後)

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カーボン・ネガティブ(つづき)

 大気中のCO2を一網打尽に回収・除去する、ドラえもん装置のような発明は今すぐに到底できそうにないが、有効かつ堅実な策が手近に芽吹きつつある。本誌vol.60(23年5月末発刊)で紹介した九大景観研究室の木製ガードレールの実証試験が、昨年末に熊本県南阿蘇村にある熊本地震 震災ミュージアムKIOKUで行われ、その結果がこのほどまとまったので、簡単に紹介したい。

 地域景観への貢献評価が高く、シーニックバイウェイにもってこいなのはアンケート結果を待つまでもないのだが、検証結果(※写真キャプション)をもってして、道路通行の安全措置としての問題点は特段見つからない。計算上は十分な強度を見込めるものの、一般公道に設置するには、車を実際に衝突させるテストを経て国の認証を得る必要があり、これについては予算の手当てができず、今後の課題として残る。

木製は鉄板性よりやや重いが、
取りつけ取り外しの手間、時間に大差はない

ブランド化よりブレンド化

 SDGs未来都市としての地歩確立は、抑制ある地場資源の掛け合わせと手抜かりのない環境運用によるのだと思う。競合他地域を圧倒し抜け出そうとする経済資本主義的地域ブランディング戦略を超越し、主にはCO2削減の仕組みを他地域へ敷衍し、協働して目標達成へ向かうことが、内閣府の制度建てつけ趣旨に適う。

 そうした観点から、南阿蘇村発の木製ガードレールは日本の山間部の諸課題を包括的にブレンドし、そうかと言って、地域の個性を薄めはしない新たな主張を発する礎になりそうに思える。

 観光施策において硬軟両面のSDGs視点を欠いては、欧州インバウンドからの支持は得られなくなる気配が濃厚だ。目に見えてわかりやすいシンボリックな姿、かたち、すなわち「炭素隔離=杉の大径木を活用する木製ガードレール」の図式が、南阿蘇村の自治体SDGsモデル事業に採用され進展することを期待したい。

熊本地震 震災ミュージアムKIOKUでの
デカスギガードレール設置試験

 日焼けにより無垢の木材が変色し視認性が落ちるのではないかと見る向きもあるが、設置基準には色に関する規定はなく、「黒い鉄製ガードレール」がすでに景観地区へ敷設されている事例がある。

 木肌のガードレールが観光地の風景に望ましいとするのが、観光客の大多数の意見としてあり、長年の耐用を確保する防腐処理を施す際に、茶褐色への適切な変色過程をたどる技術追加を期待したい。地元の資源がCO2を地域風景として固着させる取り組みは、来訪客を得心させるはずだ。

 この設置実験では、既存の支柱やボルト留めを流用したが、木材、金具とも歪みは生じておらず、木製ガードレールの荷重に耐えられる見通しが立った。

(※注意:実験期間終了後は原状に復し、元の鉄製ガードレールとなっている)

 

(了)


<プロフィール>
國谷 恵太
(くにたに・けいた)
1955年、鳥取県米子市出身。(株)オリエンタルランドTDL開発本部・地域開発部勤務の後、経営情報誌「月刊レジャー産業資料」の編集を通じ多様な業種業態を見聞。以降、地域振興事業の基本構想立案、博覧会イベントの企画・制作、観光まちづくり系シンクタンク客員研究員、国交省リゾート整備アドバイザー、地域組織マネジメントなどに携わる。日本スポーツかくれんぼ協会代表。

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