2024年04月27日( 土 )

高いブランド人気と人口減少のジレンマ、地方創生に向けた糸島市の取り組み(中)

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糸島市長 月形祐二氏

雇用の場がなく進む人口減少、「住みたいまち」から「住み続けたいまちへ」

 ――一方、2015年の国勢調査で糸島市の人口は9万8,435人と、5年前に比べマイナス1.9%と減少していました。

 月形 最大の原因は市内に雇用の場が少ないことです。20代から30代前半の若年層が市外に流出しているのが現状。しかし35歳以上については転入者が多く、社会増が見られます。つまり、学生が卒業すると雇用の場を求めて糸島市から離れ、家庭を持つようになるとふるさとに回帰しているということではないかと分析しています。昼夜間人口の大きな差は、その傾向を顕著に表しています。

 もう一つの要因としては、少子化が進み、自然減の数値が大きくなっていることが挙げられます。他の福岡都市圏は人口が増えているにも関わらず、糸島市が減少している理由がここにあります。糸島市の有配偶率は周辺自治体と比べて低い。これは市内に働く場がないことに結びついており、必然的に出生率も下がる。この問題をいかに克服するかが課題となっています。

 市としても人口増加の努力をしており、2015年度には77人の社会増がありました。しかし、自然減は267人と社会増の数を上回っています。

 ――市としてはこの現状をどのようにとらえていますか。

 月形 人口減に強い危機感を抱いています。3年前には某情報誌の特集「住みたい街ランキング」で福岡市の天神地区をおさえて1位になりました。しかし市民満足度調査の結果を見ると、80%以上の人が「糸島が好き」と回答される一方で、「住み続けたい」回答された方は68%程度にとどまっています。この意識のかい離に課題があると捉えています。

九州大学の知的資源、活力を生かした地域づくり

 ――人口減少問題を打開する方策を考える上で、九州大学が移転してきたことの意義はどのように考えていますか。

kyudai 月形 市としては九州大学に期待していますし、伊都キャンパスがあることは強みだと考えています。九州大学関係者の市内居住は、2020年で2,200人を見込んでいますが、人口減少問題を打開する上で九州大学に期待するのは、関係者の定住だけではありません。

 知の拠点として九州大学が市内に存在することは、定住を進める上で欠かせない要素です。例えば、九州大学が持つ知識は、産業の活性化にも生かされています。農業分野では、新品種の作物の研究を共同で進めており、水産業についても「獲る漁業」から「育てる漁業」への転換などに、九州大学と協力して取り組んでいます。

 また、九州大学は新エネルギーとして注目されている「水素」の研究においても世界最先端にあり、糸島市内には水素エネルギー製品研究試験センター(HyTReC)が設置されています。この試験センターは世界でも唯一の規模を誇り、国内外を問わず、水素エネルギーを活用する製品の試験が数多く持ち込まれています。

 産業の発展や水素研究開発関連機関、事業所などの進出は、雇用機会の創出にもつながります。

 ――九州大学とは具体的にどのような連携を図っていますか。

 月形 九州大学とは現在、連携協定を結び、本市の課題解決を目指した110を超える研究事業を行ってきました。

 また、子どもたちの教育面でも関係を深めています。九州大学の学生に協力してもらい、夏休みの中学生向けに「伊都塾」という取り組みを始めました。午前中は大学生が中学生の勉強を指導し、午後から大学での研究を披露します。中学生が大学に直接触れれば、勉強に対する考え方も変わるでしょう。さらに「九大寺子屋」と題し、対象を小学生まで広げました。これは子育て支援の一環でもあります。九州大学をまちづくりにどう生かすか。そのためにはウィンウィンの関係を築くことが重要です。

 ――地元の大学と産学官連携を進める地方自治体はありますが、糸島市と九州大学のそれは全国的にも密接に見えます。

 月形 九州大学規模の大学が移転するということは、まず滅多にありません。このチャンスを生かすというのは、当然の選択でした。産学官連携にもさまざまやり方はありますが、糸島市は産と学を結びつけるコーディネーターを担おうとしています。

 たとえば糸島市と九州大学、住友理工株式会社で三者協定を締結し、今年4月から高齢者向けの補助器具の研究実用化を目指す研究施設「九州大学ヘルスケアシステムLABO」を開所しました。九州大学が素材を研究し、その成果を基に住友理工で器具を開発する。それを仲立ちするのが糸島市の役割です。

 こうした取り組みの積み重ねは、糸島市がさらに発展する可能性を広げていると言えるでしょう。

(つづく)
【文・構成:平古場 豪】

 
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