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2016年08月16日 16:02

交通事故が激減、年間死傷者は2ケタに!(前)

日本大学 理工学部 交通システム工学科 准教授 安井 一彦 氏

 1964年東京五輪のレガシーは、「環状7号線」と「首都高速道路」と「新幹線」であった。さて、2020年東京五輪では、どんなレガシーが残るのだろうか。今、空港がらみの鉄道計画、都心と臨海副都心を結ぶBRT(バス高速輸送システム)など、いろいろな話が持ち上がっている。いずれにしても、2020年はその後の25年、30年、45年の東京交通システムのショーケースとなる。総合的な交通戦略が練られており、2030年を目標に品川や臨海部には新しい鉄道もできる。次世代の東京交通システムは、どのように進化・変容していくのだろうか。日本大学理工学部交通システム工学科の安井一彦准教授に、話を聞いた。
 なお、同学科の前身である「交通工学科」は、1964年東京五輪に向けて61年に創設されている。

首都圏3環状道路の整備で渋滞解消

 ――本日は2020年東京五輪を境に進化・変容を遂げる東京の交通システムについて、いろいろとお聞きしたいと思います。今、ご専門の分野では、どのような議論が展開されていますか。

日本大学 理工学部 交通システム工学科 安井 一彦 准教授<

日本大学 理工学部 交通システム工学科
安井 一彦 准教授

 安井一彦氏(以下、安井) 2020年東京五輪に向けた国土交通省の取り組みのなかに、道路のインフラ整備が挙がっています。そこでは、東京の渋滞緩和策の一環として、首都圏3環状道路の整備を急ピッチで進めるとしています。
 3環状道路とは、都心から半径8kmの首都高速中央環状線、半径約15kmの東京外郭環状道路(外環道)、半径40~60kmの首都圏中央連絡自動車道(圏央道)の3本の道路のことで、1963年に「3環状9放射」の道路ネットワークとして計画されました。その後は放射方向の道路整備が順調に進んだのに対し、環状道路の整備は大幅に遅れています。しかし、これがすべて完成すれば、東京は生まれ変わると言われています。

 同じ道路のインフラ整備の一環として、環状第2号線の延長(江東区有明2丁目~千代田区佐久間町間の14km)の整備も進んでいます。2020年東京五輪における選手村へのアクセス道路としての活用が予定されています。

 東京の未来道路を考える際に忘れてならないのは、1964年東京五輪に合わせて建設が始まった、首都高速道路の老朽化の問題です。今では、1日の平均利用交通量は100万台に上り、都心の移動の大動脈となっています。2020年東京五輪に向けて、急ピッチで大規模改修を開始しています。

全自動ではなく半自動で十分である

 私は、都市計画や道路計画が専門ではなく、「交通管理」が専門です。交通工学を専門とする研究者のなかでは、先に述べたように2020年東京五輪に向けて道路が整備されていくなかで、乗用車はどのように進化していくのかが話題になっています。
 たとえば、多くの車に追突防止機能、車間調整機能、車線逸脱防止機能などの現在実用化されている半自動機能が備わるだけで、交通事故が激減するからです。今、自動車メーカー各社は、2020年東京五輪を世界に向けてのショーケースと考え、自動運転の開発に拍車をかけています。

 現在、日本の交通事故の死傷者は約4,000人です。日本政府は2020年までに死傷者を半分の2,000人に減らすことを目標にしています。専門家の間でも、20年は厳しいかもしれないが、25年までに2,000人を切るのは間違いないとされています。しかもその後も加速度的に死傷者は減ることが予測されており、年間死傷者が2ケタになる日もそれほど遠くないと言われています。

単純計算で現在の交通容量の半分に

 ――AIの取材では、「全自動運転」達成か否かの二者択一で捉えることがほとんどでした。半自動運転が可能になるだけで、これほど大きな成果があるとは驚きです。

 安井 AI研究の先生方は、技術を極めるということで、「全自動運転」を目指されるのは当然で技術の発展を考えるとそれは正しいと思います。しかし、私たち交通管理を専門とする研究者はより実用的な面を重視します。

 たとえば、高速道路を時速100kmで走行する場合は、車間距離を100m保ちなさいと教習所で教わったと思います。しかし現実には、100mの車間を保っている車は少なく、保っても50mぐらいだと思います。それは車間というものを、ドライバーは、目の前の車だけでなく、その何台も先の車の動きも観察し、またそのときの交通量や交通の流れで総合的に判断しているからです。
 しかし、これを人間がまったく介在しない全自動運転にしたらどうでしょう。AIで全自動運転が可能になった場合でも、現在の技術ではそのときの交通量や交通の流れをAIが判断することはできません。そうすると、安全を保つためには、高速道路を時速100kmで走行する場合は、少なくとも100mの車間が絶対に必要になります。その結果、高速道路では単純計算で、現在の交通容量の半分になってしまうのです。これは非現実的で、実用的ではありません。

一般道の場合は、さらに難解

 ――なるほど、交通容量が半分になってしまうのは、由々しき問題ですね。

 安井 今は、AIによる全自動運転車開発の方にかなり熱が入っているため、このような交通容量の問題とか、全体の交通システムとの兼ね合い的な要素が、議論に欠如しています。しかし、冷静に考えてみれば、国民にとってはむしろこのような考え方の方が大切です。先に、高速道路走行のお話を申し上げましたが、一般道でもまったく同じことが言えます。否、一般道の場合は、さらにいろいろな条件が重なって、むしろ難解なのです。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
yasui_pr安井 一彦(やすい・かずひこ)
 日本大学理工学部工学部交通システム工学科 准教授。
 1959年生まれ。81年3月、日本大学理工学部交通工学科卒業後。同年4月に同大学理工学部交通工学科副手。85年4月に同大学理工学部交通工学科助手、97年10月に博士(工学)取得。99年4月、同大学理工学部社会交通工学科専任講師、99年4月~2005年3月、(財)日本交通管理技術協会参与(非常勤)を経て、現職。

 
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