2024年03月29日( 金 )

元「鉄人」衣笠氏が斬る!~日本シリーズ開幕!

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 2016年のプロ野球日本シリーズは、お互いに同じような長所を持った2つのチームの戦いが見られると思っている。中身を見ると違いがかなりあるのだが、表から見ると近いところのある両チームの戦いは、広島ファン、日本ハムファンのみならず、日本のプロ野球ファンの関心を集めることになるカードだと思っている。

 とくに今年の場合、日本ハムに「大谷選手」という今まで見たこともないような活躍の仕方をしている選手が出てきて、今年は投打でチームの中心になる働きを見せている。その結果、パ・リーグは「ソフトバンクが強い」というファンの見方を覆しての優勝を勝ち取っての、日本シリーズ出場である。
 では、今年2位になったソフトバンクが悪かったのか?そんなことはないと思う。勝ち星を見れば、十分に優勝してもおかしくない83勝54敗6分の成績だから、ソフトバンクが悪かったとは言えない。それ以上に日本ハムが頑張ったということを褒めたいシーズンであると思う。

 そのパ・リーグのチャンピオンと、セ・リーグでダントツの強さを発揮して、17.5ゲーム差をつけて優勝した広島。今年はどちらが強いのだろうか?

baseball 交流戦の戦いなどを見ながら、セ・パのファンでは見方が分かれたことと思うが、この両チームの特徴は「スピード感」。この部分に共通する点が見られて、「若さを感じさせてくれる」楽しいチーム同士の対戦だと思う。
 それだけに、第1戦から大いに盛り上がり、第1戦の広島ではチケットがなかなか手に入らないというファンの声が多く聞かれてくるほどの盛り上がりを見せての開幕だ。

 大方の予想では「交流戦」のパ・リーグの強さがイメージとして強く、あの強いソフトバンクを倒して出てきた日本ハムが広島を一気に倒すのではないだろうかという空気が強かったはずだが、野球というゲームの難しさは多くあり、そのなかのいくつかが重なった第1戦ではなかったか?というのが私の見方である。

 第1に、雨が朝から降り止まず、「今日の試合はどうかな?」というお天気だったこと。選手というものは朝から良い天気で青空がのぞいていると「今日も頑張らなくてはいけない」と長年の習慣で自然と思うものだが、空に雲が厚く、雨が降ってくると「今日は中止かな」と勝手に思うものである。試合からのプレッシャーから逃げたいという本能が出てくるものである。それが日本シリーズなら、なおさらあっても不思議ではないだろう。ただ、広島の選手はこのような天気には慣れている。シーズン中に何度も経験しているから、このくらいの雨ならば今日はあるだろうという心構えが、シーズン中にできている。ところが、ドーム球場を本拠地としている日本ハムの選手には、このようなことに対する経験はそんなに多くないだろうという点。ここが少し、広島に有利に働いている。

 第2点目が、パ・リーグでのCS最後の試合で、大谷選手が抑えの場面に登板して165キロという日本最速のスピードボールを投げてしまったこと。
 この話題が大きく報道されすぎて「165キロは打てないだろう」「日本シリーズの第1戦は大谷投手で日本ハムが勝つものだ」ということを予想する空気が周りに大きく出てしまい、試合前から22歳の若い投手に大きなプレッシャーをかけた点だ。とくに終盤の投手マーティン投手が故障ということで不安があるだけに、自分が長いイニングを投げなければいけないという気持ちが強く、立ち上がりから抑え気味の投球が続き、いつもの迫力を広島打線に与えることができなかった。この点は広島からすると、付け入る隙をもらったと見えただろう。
 それが2回の鈴木選手の死球から始まった安倍選手とのダブルスチィールによる先制点につながり、4回の松山選手、エルドレッド選手の本塁打に現れていると思う。とくに速球に強い、過去にも本塁打を記録されている松山選手にスライダー、ストレート、と2球ボール球を投げて仕方なくカウントを取りに行ったストレートを本塁打にされたところは、投手、捕手ともに1点の怖さを忘れた配球であった。そして、エルドレッド選手にもストレートを打たれている点は、捕手の若さが出ているとしか見えない。試合の勢いをこれで完全に広島に握られたことになり、我慢の投球を続けていたジョンソン投手を助ける結果になってしまった。

 第3点目の「チームの勢い」。これを4回の松山選手、エルドレッド選手の本塁打で広島に与えてしまったということ、もう1つは、日本ハムは大谷投手で「勝てる」と思っていただけに、反対に大きなショックを受けなければならないことになり、第2戦に暗い影を残してしまう立ち上がりの第1戦となってしまった。

 この試合、日本ハムからすれば立ち上がりから「今日は勝てるだろう」という感じがあったのではないだろうか?
 1回の西川選手の3塁に内野安打、中島選手の送りバント、岡選手の打った打球が3塁手の前の芝生の切れ目に当たり、打球が跳ねてレフト前ヒットで1塁3塁のチャンスが出来た時点で、「何点取られるかな?」という不安と緊張が広島には出て、日本ハムには隙ができたということかもしれない。ここで4番、5番が必死に点を取りに行っていれば、試合の流れは変わったと思う。「今日は大谷だから勝てる」との油断が大振りを誘い、連続三振という結果につながったように私には見えた。ここでジョンソン投手を潰しておけば、この試合は日本ハムの勝利になっていただろう。
 不運に見舞われたが、投げずに辛抱強い投球したジョンソンを褒めるべきだが、私にはそのように見えたシーンだった。

 とにかく第1戦、大谷投手で負けたというショックからどのようにして気持ちを切り替えるか?ここが、第2戦の大きなポイントだっただろう。

 第2戦の先発投手の増井投手は、チームのムードメーカーの大谷投手で敗戦という重苦しい雰囲気のなかでの先発である。大変だと思うが、パ・リーグの投手らしく、若い投手らしい思い切り投げるというタイプで、コントロールを神経質に考えるタイプではない。その投手の立ち上がりの1回に、昨日打てなかった菊池選手が2塁打を記録して揺さぶり、2回にエルドレッド選手の安打、このシリーズ初先発の小窪選手が2塁打で1点先制、昨日の勢いを思い出させる展開に、4回相手エラーで同点になるが、6回に若さが出たエラー、犠飛、安打で決定的な4点を取られて、試合の流れが広島に完全に傾いた。
 この試合のこれで「やられた」と思わせるシーンが、エルドレッド選手の本塁打で、昨日も打たれている打者に対して、簡単に追い込んだ後に高めに外すはずの1球をレフトに運ばれてしまう。シーズン中のビデオを見ていないのだろうか?そんなことを考える1球であった。
 この打者の打てるところは決まっているのだから、そこに投げなければいいのである。投手は完全にボールをコントロールすることはできないことは知っているが、投げていけないところには投げないことはできるはずである。このあたり、経験が浅いということになるのだろうか。たしかに、4年ぶりの日本ハムのシリーズ出場だが、投手陣はみんな若い投手に変わってきているから、このあたりを考えると鍵谷投手にも言えるかな?

 前日は10安打記録した打線も、この日は4安打と、昨日以上に淡白さを感じた打線に見えたが、調子が悪いのか?研究が足りないのか?やる気がないはずはないのだから、何が足りないのか、移動日にゆっくりと考えて練習してほしい。このままでは、あまりにも寂しいシリーズになりそうである。

 対する広島だが、球場全体が味方の広島の球場から、今度は全体が日本ハムファンの球場に移動しての第3戦。そこに、先日引退を発表した「黒田投手」の登場である。「力むな!!」と言っても無理だろう。チームのみんなが、黒田投手にどれほどの思い入れを持ってここまで来たかを考えると仕方がないところだが、広島でつけた「勢い」を大切にしたい。そして、眠っている相手中軸打者を起こさないようにしたい。打線を比べると1番から3番までは広島が上だと思うが、4番から7番を見ると日本ハムは怖い打線である。ここを起こさないように気をつけたい。

 ここまでの2戦は、捕手の石原選手がすばらしい研究成果を見せてくれている。しっかりと相手を研究、観察してのリードは、見事の一言に尽きる。だから大切な試合には経験豊かな捕手がほしいのだということが実感できる、リードだと思う。

 広島での2試合は、地元の広島の良いところばかりが目立った試合展開だったが、1日置いて地元が変わり、札幌の日本ハムファンの前で、交流戦で広島相手に見事な投球を見せた有原投手がどんな投球を見せるか。日本ハムの選手たちがどんなプレーをするか。一気に広島が逃げるか、それとも日本ハムが待ったをかけるか?
 話題の黒田投手とともに、日本ハム打線の頑張りも見てみたい。

2016年10月25日
衣笠 祥雄

 

関連記事