2024年03月29日( 金 )

2019年の注目経営者、日産自動車の西川廣人社長兼最高経営責任者(CEO)~「ゴーン・チルドレン」は修羅場を切り抜けることができるか?(後)

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マクロン大統領の誕生が、「ゴーン事件」の発火点

 2017年5月、エマニュエル・マクロン大統領が誕生した。これが、今回の「ゴーン事件」の発火点になった。マクロン大統領は経済相当時、「フロランジュ法」を強行し、ゴーン氏と敵対関係にあった。

 ゴーン氏の“天敵”ともいえるマクロン大統領の誕生で、ゴーン氏は窮地に立たされた。筆頭株主である仏政府の発言力は絶大だ。ゴーン氏がルノーのCEOを更迭されると取り沙汰された。ところが、2018年2月、ゴーン氏のルノーCEOの続投が決まった。ゴーンCEOとマクロン大統領が手打ちしたからだ。

 やがて、両者の取引の内容が明らかになる。ルノーが株式交換方式で日産を買収するというものだ。マクロン大統領は、ルノーが買収する日産を仏企業にして、フランスに日産の自動車工場を建設して雇用をつくり出すことが目的である。ゴーン氏は日産を買収して、仏政府に献上することを決断した。

ゴーン追放を仕掛けた中心人物は川口均・専務執行役員

 「ルノーが日産を呑み込む」。これに日産側は猛反発した。『週刊文春』(2018年12月6日号)は「日産『極秘チーム』 ゴーン追放『一年戦記』」で、ゴーン逮捕の舞台裏を報じた。ゴーン追放のために集まった「極秘チーム」が、水面下でゴーンの不正行為に関する証拠固めを行い、東京地検特捜部に資料を提供。ゴーン逮捕に結びつけた。

 同誌によると、ゴーン追放を仕掛けた中心人物は、川口均・専務執行役員だった。これまた「ゴーン・チルドレン」の1人だ。一橋大学経済学部卒業。1990年代には欧州日産の出向管理職となり、1998年にはフランス日産自動車社長。ゴーン体制下の2001年に欧州日産のSVP(上級副社長)に就いた。 
 2004年1月、日産の「CEOオフィス」主管。CEOオフィスとは、日本のことをほとんど知らないゴーン氏の仕事をサポートするチームだ。ゴーン氏の意図を社内に伝達する橋渡しをするのが役目。秘書室は別にあり、それとは性格が異なる。ゴーン氏が会社のカネを流用し、各国に豪邸を構えていることが暴露されたが、それらを手配していたのがCEOオフィス。日産の裏権力となっていた。

 川口氏は日産フィナンシャルサービス社長を経て、2005年4月、日産本体の常務執行役員。2014年4月から専務執行役員。現在、CSO(最高戦略責任者)としてグローバル渉外、日本広報を担当。政界工作を引き受け、菅義偉官房長官との関係が深いことで知られる。

 「文春」によると、極秘チームの調査結果が、西川社長のもとへもたらされたのは2018年8月頃という。東京地検特捜部へ告発してから、社長に報告したことになる。ゴーン追い落としの主役は、社長・西川廣人氏ではなく、専務執行役員・川口均氏だった。

西川解任を事前に察知して、クーデターで仕留める

 その一方で、ゴーン会長による西川社長解任計画が進んでいた。ルノーによる日産を買収するには、統合反対を公言している西川社長を解任して、統合賛成派を日産のトップを替える必要がある。

 ゴーン氏が逮捕前に、西川廣人社長兼CEOの更迭を計画していた、と米紙ウォール・ストリートジャーナルが12月9日に報じた。〈周囲には11月下旬に予定されていた取締役会で社長交代を提案する意向を示していた〉。ところが、ゴーン氏は11月19日逮捕された。

 解任計画を事前に察知した西川社長は、自らの社長の地位を守るために、検察の力を借りて、ゴーン会長を追放するクーデターを起こした。

 クーデターに決起した面々が、「ゴーン・チルドレン」たちであることを、ゴーン前会長は拘置所で初めて知ったと報じられた。今回のクーデター劇を“本能寺の変”にたとえるなら、西川社長はさしずめ明智光秀。ゴーン氏は信長のように「是非に及ばず」(仕方がない)と嘯くだろうか。「飼い犬に手を噛まれた」と怒り狂うに違いない。復讐の鬼と化したゴーン前会長による「ゴーン・チルドレン」西川廣人社長兼CEOに対する逆襲が始まる。

 社内では、ゴーン前会長の会社の私物化に手を貸した「ゴーン・チルドレン」たちも同罪という声が挙がっており、「ゴーン・チルドレン」は2019年6月の定時株主総会で最大の正念場を迎えることになるだろう。

(了)
【森村 和男】

(中)

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