• このエントリーをはてなブックマークに追加
2019年06月06日 12:07

【訪韓レポート】文在寅政権と歴史認識~歪曲は放置せず、個別具体的に反論せよ

 5月下旬から10日間ほど訪韓した。今回も痛感したのが、韓国政権の歴史認識をめぐる意図的な操作である。その端的な例が、3月1日に行われた文在寅大統領の「独立運動100周年記念式典」での演説だ。その一方で、私がかつて批判記事を書いた案件について、改善がみられるケースもあった。ソウルの最新事情を報告する。

 文在寅氏は、学問的誠実さからも、逸脱しているというしかない。3月1日の大統領演説について、案の定というか、その問題点に気づいた韓国民は少なかった。

 同運動での死者数について、大統領は「約7,500人」と言った。しかし韓国の最新学説は、そうではないのだ。国史編纂委員会が100周年を控えて研究の末、2月下旬に発表した推計は725〜934人だ。同委員会は国家機関であり、構成員は国家公務員である。ところが大統領は、この数字を採用しなかった。

 7,500人というのは事件の1年後(今から99年前)に、伝聞に基づき上海で刊行された「韓国独立運動之血史」にある数字である。どちらが正確であるかいうまでもない。(そのほかにも、大統領演説には問題点が少なくないが、ここでは言及しない)

 私が訪韓中に取材したところによると、大統領演説には国史編纂委員会の内部からも、不満の声があがった。自らの調査結果が無視されたのだから無理もない。問題はこういった事実関係が報道されず、国政の重要事項(史実に基づいた歴史認識)が文在寅政権では等閑にされているということだ。

 ある在韓日本人研究者と、この演説について話した。その人物は演説も読んでおらず、問題点にも気づいていなかった。 病状はかなり深刻である。

 「こういうのばかり、なぜ増えるのか」

 歩道を一緒に歩いていた韓国人の友人が呟いた。鍾閣交差点。1894年に起きた農民反乱の主導者の巨大な坐像が、新たに設置されていた。ここには戦前、監獄があったという。「それを120年後の今頃になって…」というのが、友人の感慨である。

 光化門広場のセウォル号記念館、日本大使館前の慰安婦、そして徴用工像。共通するのは「歴史の犠牲者」という設定である。だからといって、社会全体から敬愛されているとは感じられない。奇妙な光景が出現している。

 現代韓国人の歴史認識が、21世紀に入ってから、対日攻撃に向いているのはどうしてだろうか。少なくとも金大中時代までは、1945年以降の日本を高く評価する大統領がいたのである。

 韓国の歴史教科書は、昭和天皇や支那派遣軍司令官に爆弾を投げたり、伊藤博文を殺害したテロリストを「愛国義士」として宣揚する。しかし韓国光復軍が一発の銃弾を撃ち込むことなく、連合軍の攻撃によって日本軍の降伏を迎えた事実を明記しない。

 解放後の韓国民に最大の災厄をもたらしたのは、南侵戦争を起こした金日成であり、大韓航空機爆破事件などの首謀者である。しかし彼らに対する韓国人の「愛国義士」が登場したとの話は聞かない。

 日本のメディアでは、金大中拉致事件が映画化された。しかし朴正煕大統領夫人を殺害し、「朴正煕の悲劇」「朴槿恵の悲劇」の遠因となった文世光事件については、まともな著作がない。映画もない。これは一体どういう理由によるものなのか。そういうことに自分なりの解答を書くべく、私も自分自身を叱咤激励しなければならない。

 だが必ずしも、落胆するばかりでもなかった。かつて批判記事を書いた歴史的事件の展示について、その後、改善されていたことも確認できたからである。

 1932年、支那派遣軍司令官らを殺害負傷させた尹奉吉の記念館は、地下鉄「良才市民の森」駅から徒歩数分の場所にある。以前、私はここを取材して死傷者の無残な写真を大量に展示している無神経ぶりを、雑誌「正論」で批判した。韓国歴史研究機関の理事長を務めた歴史学者には、この件を指摘し抗議した。彼も私の報告に驚いた様子だった。

 今回、約3年半ぶりに同記念館を訪問した。内部施設が大幅に改造されているのが、すぐにわかった。写真資料が極端に減り、アニメやARなどの最新視聴覚機を使った展示が増えていた。故障中も目立つが、テロの戦果を誇るような残酷な写真展示はなかった。

 受付の女性に聞くと、昨年、展示内容が変更されたのだという。ソウルの高齢者グループがきた。上記のような点を話したうえで、テロ被害者がどのような人物だったか説明がない点を指摘した。死者には上海在住の日本人医師も含まれていたのである。

 右脚が吹き飛んだ重光葵(のちの外相)は、それでも、何ら韓国人を非難しなかった(重光「隻脚記」)。男性たちは「和解が大事だ」と言った。僕は「この10年間ほどの韓国政権は、和解に逆行している」と持論を述べた。反論はなかった。

 史実を隠蔽したり史実に反する民族主義的な言辞には、個別具体的に反論すべきである。僕の雑誌記事や苦言が、どう反映されたのか分からない。しかし、私は「やればできるのだ」と実感した。

<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)

 1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)。最新作は『日本統治下の朝鮮シネマ群像~戦争と近代の同時代史』(弦書房)。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

     

トップニュース

NHK抜本改革が必要不可欠であるという真実NEW!

 「NHKから国民を守る党」の立花孝志氏が参議院議員に当選し、同党が政党要件を獲得したことを契機にして、NHK問題に対する主権者の関心が高まっている。NHKが「公共放...

2019年08月19日 15:40

マツキヨHD、ココカラファインと経営統合の協議開始NEW!

 (株)マツモトキヨシホールディングス(本社:千葉県松戸市、松本清雄社長)と(株)ココカラファイン(本社:神奈川県横浜市、塚本厚志社長)が経営統合に向けた協議開始に関...

2019年08月19日 15:06

西日本新聞の柴田建哉社長殿、貴方は社を復活させる覚悟がありますか?(1)NEW!

 まずは弊社が発刊するI・Bの2019夏季特集号の巻頭文「『人口減』の先に待ち受ける、激変時代 企業の命運は朽ちるのか、あるいはいかに発展させるのか」を参照されたし。

2019年08月19日 14:51

フージャース、大分で99戸新築マンションNEW!

 大分市中島町2丁目で、まもなくマンション新築工事が始まる。物件名は「デュオヒルズ大分中島」で、地上15階建の総戸数99戸のマンション。建築主は(株)フージャースコー...

2019年08月19日 14:40

『脊振の自然に魅せられて』「夏だ! 沢登りの季節がやってきた」NEW!

 今年の夏は例年より暑さを感じます(加齢のせいもあり)。こんな時期の山旅は沢に限ります。福岡市早良区飯場に福岡市で唯一の大型渓谷「野河内渓谷」があります。この渓谷は井...

2019年08月19日 14:22

ライオンズクラブ337-A地区 明るい未来をつくるために(1)NEW!

 世界最大級の奉仕団体として知られるライオンズクラブ。同クラブは、『We serve』─「ライオンズクラブを通じて、ボランティアに社会奉仕の手段を与え、人道的ニーズを...

2019年08月19日 13:00

人間に死を選ぶ自由は存在しないのだろうか(前)NEW!

 NHKスペシャル「彼女は安楽死を選んだ」(2019年6月2日放送)を見た。ある女性が全身の身体の機能が奪われる「多系統萎縮症」という回復の見込みのない難病と宣告され...

2019年08月19日 11:26

日韓の経済力格差は?(前)

 筆者は1981年に日本に留学する機会を得た。日本は1954年から1973年までの19年間、実質GDP成長率が9.3%という驚くべき成長を記録し、いわゆる高度成長を経...

2019年08月19日 10:50

海洋資源大国・日本の生きる道:海底に眠るレアアース泥でエネルギー革命を!(後編)

 「水を制するものは、世界を制す」。これが21世紀の資源争奪戦の現実である。狭い国土に人が密集しているが、石油などエネルギー資源の乏しい国。必要なエネルギー源の9割を...

2019年08月19日 10:39

【政界インサイダー情報】カジノ管理委員会の人事等、設立の準備が進む

 政府は今秋の臨時国会において、内閣府大臣官房の指揮下、カジノ管理委員会設立に向けた人事案を提出するとのことで、来年度の具体的な実行に向け、着々と準備が整っている。全...

pagetop