2024年05月08日( 水 )

「わろてんか」の吉本興業の、笑うに笑えない騒動史(前)

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 吉本新喜劇はドタバタが売りだが、お笑い芸人と経営者の涙々の謝罪会見という茶番劇にシラけた向きが多かったろう。創業家と完全に決別して10年。反社が共演する騒動の演目は、ちっとも変わっていない。吉本興業の笑うに笑えない騒動史を振り返ってみよう。

在京5社、在阪5社のテレビ局が吉本の大株主

 「僕がすごく不信に思ったのが『在京5社、在阪5社のテレビ局は吉本の株主だから大丈夫やから』言われました」

 7月20日、反社のパーティーに出席した“闇営業”問題で記者会見した、お笑い芸人の田村亮が、吉本興業の岡本昭彦社長と面談した際、こう言われたと告白した。

7月22日の岡本社長の記者会見では、この件について、同社の法務担当者が答えた。「亮さんから生中継したいという話があったが、テレビ各局が「株主さま」であり、生中継するにしても放送時間など配慮しないといけないという意図だった」とした。

 吉本興業がテレビ局の意向を忖度して、会社の意思決定をしていることがわかる。

 吉本興業の持株会社、吉本興業ホールディングスは、在京5社(フジテレビ、日本テレビ、TBS、テレビ朝日、テレビ東京)、在阪5社(朝日放送、関西テレビ、読売テレビ、テレビ大阪、毎日放送)のテレビ局の共同出資。ほかに電通なども出資している。筆頭株主は、フジテレビの持株会社フジメディア・ホールディングスの12.13%。

 吉本騒動の一連の報道で、筆頭株主のフジテレビのワイドショーは、あまりに露骨な“吉本擁護”が目に余ると非難された。お笑い芸人の暴露は、はからずも、吉本興業とテレビ局の持ちつ持たれつの関係をあぶりだした。

「女今太閤」と称された吉本せい

 2017年度下半期放送のNHKテレビ小説『わろてんか』は、吉本興業の創立者、吉本せいをモデルにしたドラマで、高視聴率をあげた。

 吉本せいは、極道と共存共栄する興行界で、一癖も二癖もある男たちと渡り合い、女興行師として、たぐいまれな成功をおさめた。大阪のシンボル通天閣を買収し、「女今太閤」と称されたため、後世、男まさりの女傑というイメージばかりが1人歩きした。しかし、家庭的には不運な人だった。夫、吉本泰三を若くして亡くした。

 せいは泰三が他界する前の年に生まれ、唯一残された男児・穎右(えいすけ)を溺愛した。穎右への期待は大きく、せいが一生かけてつくり上げた吉本興業のすべてをこの子に托すつもりで育てた。

 穎右は、せいの意にそぐわぬ恋をする。相手は、戦後、“ブギの女王”として一世を風靡した歌手の笠置シヅ子。笠置シヅ子のまねをして「東京ブギウギ」を歌い、一躍、名をあげた少女が、美空ひばりである。

 この恋は、息子を溺愛していたせいにとって、裏切り以外の何物でもなかった。笠置シズ子が身ごもっても、結婚を頑として認めなかった。妻にすることを許されぬまま、穎右は24歳の若さで病死した。せいは、息子の後を追うように3年後の1950年、60年の生涯を閉じた。女興行師として名をあげた吉本せいは、家庭的にはあまりにも薄幸な人生だった。

=敬称略

(つづく)
【森村 和男】  

(後)

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