2024年04月20日( 土 )

香港、マカオ、深圳 視察報告 「世界一港湾都市」奪取計画の現在地(中)

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ファーウェイの技術力に自信を示す深圳市民

ファーウェイグループ用のシャトルバス停
敷地に入るファーウェイシャトルバス

 中国のシリコンバレーと呼ばれる深圳市にはファーウェイ、テンセント、ドローン製造のDJIなど技術系企業が集積する。ファーウェイ本部の広さは約60万坪。ヤフオクドーム28個分の敷地に経営管理本部や10棟3,000室からなる社員寮などをシャトルバスがつないでいる。

 ファーウェイが標的となっている米中貿易戦争だが、中国では愛国心が高まりiPhoneの売上が激減したという報道があった。これについてある深圳市民は自身のiPhoneを示し「まったく関係ない」と一笑に付す。「以前なら政府が国産メーカー品の使用を奨励したでしょうが、今は消費者の選択に委ねられています」(同)。そのうえで「国民はいずれ技術力で中国が勝利すると思っています」と断言する。自身がiPhoneを使うのは「使い慣れているだけ」とし、また世代が下がるほど国産の比率が上がるという。

 4つの経済特区のなかで最も成功したのが深圳だ。鄧小平の肝いりで1980年に経済特区に指定され、外資を含めた工業都市として開発を進めた。その後、IT(情報技術)の街に変貌。工場群は別の街に移っていった。日系や韓国系企業も拠点を構えていたが現在はファーウェイなど地場ベンチャーの本拠地に変わった。チャイナドリームを求める人たちが流入する平均年齢38歳の若い街だ。現在、8路線の地下鉄が通っているが、来年一気に16路線に拡大する。スピード感に慣れた中国人でさえ深圳の勢いについて「40歳を超えた人たちにはついていくのが大変」とため息をつくほどだ。

I電気自動車のタクシーの列

 深圳は電気自動車メーカーBYD Auto(以下、BYD)の本拠地でもある。BYDはもともと電池メーカーだったが自動車製造に参入。政策の後ろ盾もあり業績を伸ばし、深圳のバスはすべて電気自動車となり、タクシーも9割が電気自動車にシフトした。ただし、いわゆる自家用車はまだガソリン車が多く残り、しかも外国製高級車が多い。現時点では歴史の浅い電気自動車については耐久性などに懸念をもつ消費者は少なくない。

 ある市民はガソリン車が欲しかったが、数カ月おきに実施されるガソリン車販売の抽選にことごとくはずれた。抽選の当選倍率は1,000分の1の体感。ナンバープレートのオークションに至っては縁起の良いナンバーであれば日本円で数百万円に跳ね上がる。同氏は1年ほどでガソリン車購入をあきらめBYD製の電気自動車を購入した。ガソリン車購入には車体と別にナンバープレート費用が必要だが、電気自動車購入にあたっては補助金が出る。そのため、自家用車でも急速に電気自動車の普及が進んでおり、電気自動車を意味する緑色のナンバープレートを多数確認できた。ただ、滞在中に見かけた電気自動車ではアメリカ・テスラ車製は2台だけ。BYDと3倍の価格差がネックとなっているようだ。充電スタンドが街の至るところに設置されており、1時間ほどでフル充電が可能で、約400kmを走行でき、料金は日本円で1,000円程度。充電スタンドでは軽食レストランを併営している。電気自動車普及で排気ガス問題はないものの、深圳でも渋滞は深刻な問題だ。

 朝夕の通勤時間はナンバープレートで車輛を制限する。退勤のタイミングを失した多くの市民は夜9時ごろまで時間を潰すという。若者の街ながらクラクションの騒音や無理な割り込みはあまり見られず成熟した街という印象だ。人口は約1,300万人とされるが戸籍のない人が約1,000万人いると推察される。4大都市のなかで最も人口が少ないが、約1,952km2と街の面積がほかの大都市より小さい。

テンセント本部・黒い部分はフロアすべてスポーツクラブ

 IT企業による小売革命が進んでいる。深圳本拠のテンセントは食品スーパー「超級物種」で小売業に参入したが拡大に時間を要している。IT系スーパーで成功しているアリババ系の「盒馬鮮生」は急速に店舗網を拡大している。“売り”は30分以内で配達するネットスーパーという点だ。

タブレットで受注を確認する従業員
アリババ系スーパーの店内ベルトコンベア

 商業施設地下に入居する店舗で目を引くのは青色のTシャツを着た従業員の多さだ。ほとんどがタブレット端末を見つめている。彼らはインターネットで発注された商品をバッグに入れ、店内をめぐるベルトコンベアーに引っ掛ける。上層階を経てバックヤードにわたり、そこから電動自転車で従業員が30分以内に配達する。利用者は時間超過したため涙を流すスタッフを見かけたことがあるという。

従業員が30分以内で宅配

 「盒馬鮮生」はマーケティングにより30分内で届けられる富裕層居住地区を調べ上げる。このため、従来の食品スーパーの立地条件とは異なる場所に出店することもある。生鮮食品をネット注文することにある種の怖さを感じるが、鮮魚コーナーではカニ、エビを含む多様な魚類が生け簀で量り売りされている。イートインコーナーでは有料で調理してくれるので、鮮度や味をたしかめることができる。

支払いはアリペイ

 配達エリア30分といえば消費者が気軽に来店して品質をたしかめることが可能な商圏でもあるのだが、「盒馬鮮生」全体のネット売上比率は来店客を超えたという。アリババ系スーパーのため支払いは「アリペイ」のみ。テンセントの「WeChatPey」やクレジットカードは使用できない。開業当初は現金も使用できなかったが、既存店で高齢者が使用できなかったことが問題となり現金用のカウンターも設置されている。

 先述したある市民はスーパーだけでなくほとんどの支払いを「WeChatPey」で行いクレジットカードもほとんど使用しない。とりわけ「アリペイ」をあまり使用しないのは「アリババ」で流通していた商品にブランド品の偽物が多い印象があるためだ。

 同氏は1年以上にわたり現金を使用していない。3年ほど前から急速にスマートフォンアプリによる決済が普及したこともあり、もはや「現金はもちたくない」というのが本音だ。そのため、スマートフォンは必需品である。街中の至るところに有料・無料の充電サービスがありバッテリー切れの懸念はない。セキュリティ進化を信頼し、ハッキングによる盗難を懸念していない。高齢者が使いこなせるかどうかは疑問だが、「最初は戸惑うかもしれないが慣れれば便利なだけに積極的に取り入れている」という。

 いまだ発展途上の深圳は都心のすぐそばに手付かずの緑が見られるところもあり、開発余地は残されている。今後も若者を吸収していくとみられ、生活様式やビジネス環境など日本をさらに引き離し進化していきそうな気配だ。今後、10年、20年と経過し、平均年齢が上がった際には成熟していくであろうが、さらに年月が経過し、高齢化が加速した際にどういう街をつくるかということも注目される。

建築ラッシュの中緑も残る

(つづく)
【鹿島 譲二】

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