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2019年10月01日 14:59

現実の資本主義経済より、もっと人間的な血の通ったシステムを模索!(前)

 現在の世界・日本は古いタイプの「保守派の経済政策」、古い「革新系の経済政策」「新自由主義」「第三の道」などすべての経済路線が行き詰り閉塞状況にある。そして、今その謎を解く松尾匡・立命館大学経済学部教授の2冊の著書『ケインズの逆襲 ハイエクの慧眼』と『自由のジレンマを解く』(ともにPHP新書)が再び注目されている。それはなぜか。京都から講演で上京された機会を狙ってインタビューを敢行した。読者とともに、現実の資本主義経済より、もっと人間的な血の通ったシステムを模索したい。

立命館大学経済学部教授 松尾 匡 氏

自国中心的な経済路線に世界の未来があるはずなどない

 ――まずは、経済学者の立場から今の世界・日本をどのようにご覧になられているのかを教えていただけますか。

 松尾 匡氏(以下、松尾) 1980年頃からイギリスのサッチャー政権、アメリカのレーガン政権、日本の中曽根康弘政権などで始まった「新自由主義」という流れは、現在も続いています。なるべく、お金を使わないで、民間人のやることに規制もかけない。もっとスリムな政府をスローガンに、世界中でいろいろな政権が追求してきました。

 日本の小泉純一郎政権でも、民営化とか、規制緩和とか、財政削減とかの新自由主義路線がとられました。その結果、格差は拡大、地方は荒廃、福祉も教育もボロボロとなり、失業者もいっぱい出て、犯罪も増え散々でした。世の中の格差が大きくなって、世界を股にかけて活躍する企業、それを支配している人たちはさらに大金持ちになる一方、これまでであれば、真面目に働いていれば、いわゆる中流並みの生活ができていた人たちが没落していきました。

 その状況を打開するために、90年代半ばからのイギリスのブレア政権、アメリカのクリントン政権以来、日本の民主党政権に至るまで、「第三の道」などと言われて、新自由主義を多少手直してマイルドにしたような経済政策路線がとられます。

 しかし、「なるべく財政を節約しましょう」という緊縮路線は変わらなかったため、格差はなくならず、多くの人の福祉ニーズも満たされませんでした。そもそも、需要が少ない状況では、溢れた失業者は、いつ他人と取り替えられるかビクビクしながら、どんなものでもありついた仕事にしがみつくことしかできませんから、この路線も「ブラック企業」をはびこらせるだけに終わりました。

 このような閉塞状況のなかで、今、世界のあちこちで、排他主義的な、極右政党が躍進しています。強面で拳を振り回すタイプのリーダーが強権的にお金を使い、彼らなりに景気を良くしていこうとしています。日本の安倍政権も世界的に見ればその一環です。しかし、今日私たちの暮らしは世界中の人たちによって支えられています。ちょっと輸出が減れば、たちまち国中に失業者が溢れ、ちょっと輸入ができなくなれば、たちまち暮らしが苦しくなります。世界中の経済の流れが少し滞ると、世界中で何の罪もない人々が路頭に迷うのが現実です。自国中心的な経済路線に世界の未来があるはずなどありません。

ケインズとハイエクにはある共通する視角が見い出される

 ――先生の理論的背景でもある著書『ケインズの逆襲 ハイエクの慧眼』(PHP新書 )についておうかがいしたいと思います。まずは本書を書かれた動機、そしてエッセンスを簡単に教えていただけますか。

 松尾 ケインズというのは自由競争の資本主義では失業者がたくさん出てよくない、政府が介入して、財政出動をたくさんすることによって、景気を良くし、失業者をなくしましょうという「大きな政府」を提唱しました。一方、ハイエクというのは、資本主義というのは、市場に任せてほっておけば、うまくいくものであって、それに対して政府が介入してはなりませんと言い「小さな政府」を提唱しました。すなわち、それぞれ正反対のことを言っているように思えます。

 私が本書を書いた動機は、「これらの2人の経済学者の主張には、実はある共通する視角が見い出される」ことがわかったからです。そして、そのことが先にお話した私たちが現在直面している手詰まりを解消し、あるべき経済政策を提示してくれると思えたからです。

 それは一言でいえば「リスク・決定・責任の一致が必要だ」ということです。この視角を導入すれば、さまざまな経済システムや経済政策路線がうまくいかなった、行き詰まった理由が説明可能になります。また、この先、どうすればいいのかもわかります。

 さらにいえば、この先、政権与党が新たな経済政策を打ち出した際にも、その政策が真に私たちを幸福にするものなのか、矛盾をはらんだものではないのかが、見抜けるようになります。現実の資本主義のあり方に憤りを感じ、もっと人間的な血の通ったシステムを望んでいる人にとって、この視角は大きな示唆になります。

ベクトルの方向を「小さな政府」へと解釈してしまったこと

 ――先生は本書で、30年間もの長い間、世界中でみんなが「大きな誤解」していたと言われています。それはどういう意味でしょうか。

 松尾 誤解というのは何かというと「小さな政府」というスローガンのことです。なるべく、お金を使わないで民間人のやることに規制もかけない、もっとスリムな政府を!とこの30年間、世界中でいろいろな政権が追求してきました。もちろん、最初は大きな企業が自由にお金儲けをできるようにしよう、もっと競争を激しくしようということで、「小さな政府」路線、すなわち「新自由主義」政策が進められました。しかし、それに反発してできた「第三の道」でも、結局財政支出を抑えようとか、規制緩和をしようという点では新自由主義と似たようなものだったといえます。

 そもそも、政府が経済のことに裁量的に管理介入してくる70年代までのやり方に反発し、脱却を目指す動きが世界中で起こったことが始まりです。私が「誤解」と申し上げたのは、この時、ベクトルの方向を「小さな政府」へと解釈してしまったことについてなのです。すなわち、「新自由主義」路線においても、「第三の道」など新しい路線をとるにしても、「小さな政府」的なものは、土建国家や福祉国家が崩壊していく歴史の流れのなかで「必然」と考えてしまったことです。

(つづく)
【金木 亮憲】

【注】ケインズ(John Maynard Keynes)
(1883~1946)英国の経済学者。有効需要論・乗数理論・流動性選好説を柱とする主著「雇傭・利子および貨幣の一般理論」により、失業と不況の原因を明らかにして完全雇用達成の理論を提示し、後にケインズ革命とよばれる近代経済学の変革をもたらした。この理論を基礎として、自由放任主義の経済にかわって政府による経済への積極的介入を主張、修正資本主義の理論を展開して今日の経済政策に大きな影響をおよぼした。著書はほかに「平和の経済的帰結」「貨幣改革論」「貨幣論」など。

【注】ハイエク(Friedrich August von Hayek)
(1899~1992)ウィーン生れの経済学者。オーストリア学派の後継者。ロンドン、シカゴ、フライブルク各大学の教授を歴任。貨幣的景気理論を展開、資本理論を純化させ、また自由主義経済政策を主張。著書《法、立法、自由》《価格と生産》など。1974年景気変動理論の業績と経済制度の分析への貢献でノーベル経済学賞。

<プロフィール>
松尾 匡(まつお・ただす)

 1964年、石川県生まれ。87年金沢大学卒業。92年、神戸大学大学院経済研究科博士後期課程修了。久留米大学経済学部教授を経て、2008年より立命館大学経済学部教授。専門は理論経済学。07年論文「商人道!」により、第3回「河上肇賞奨励賞」を受賞。主な著書に『ケインズの逆襲、ハイエクの慧眼』(PHP新書)、『商人道ノスゝメ』(藤原書店)、『図解雑学 マルクス経済学』(ナツメ社)、『新しい左翼入門』(講談社現代新書)、『この経済政策が民主主義を救う』(大月書店)、『自由のジレンマを解く』(PHP新書)など多数。

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