• このエントリーをはてなブックマークに追加
2019年10月16日 17:02

【事件簿】広島中央署8,572万円盗難~ついに詐欺事件の裁判も混迷

 広島中央署の金庫から広域詐欺事件の証拠品である現金8,572万円が盗まれた事件は、発生から2年余りが過ぎてもなお未解決のままだ。捜査が迷走するなか、広域詐欺事件の被告が大胆な新主張を繰り出し、事態はいっそう混迷を深めている。

8572万円を盗まれた広島中央署
8572万円を盗まれた広島中央署

■盗まれた金の内部補てん~「正式決定ではない」との声も

 広島県警が、死亡した30代の男性警察官を書類送検の方針――。

 広島中央署の金庫から広域詐欺事件の証拠品である現金8,572万円が盗まれた事件をめぐり、マスコミ各社が一斉にそう報道したのは2月のこと。この時、「やっぱり、そうだったか」と思った人は多かったろう。この事件は2017年5月に発覚した当初から、「内部犯行説」がずっと疑われてきたからだ。

 だが、これで事件解決とはならなかった。その男性警察官については、「詐欺事件の捜査を担当し、その現金が会計課の金庫で保管されていることを知っていた」「競馬にのめり込み、知人たちから多額の借金をしていた」(中国新聞2月21日朝刊29面)などと容疑を裏づけるような事実も伝えられたが、今に至るまで書類送検されないままなのだ。

 県警に捜査の現状を質したところ、「捜査中の案件なので、コメントできません」(相原正裕捜査3課次席)との回答。要するに報道の真っ黒なイメージと裏腹に、その男性警察官を容疑者と断定するに足る証拠は揃っていなかったということだ。その男性警察官については、遺書などは見つかっておらず、死因は不明だが、任意の事情聴取に容疑を否認していたと報じられており、後味の悪さは否めない。

 一方、2月には、盗まれた現金8,572万円について、県警全職員が加入する互助会や県警幹部が金を出し合い、内部補てんする方針が固まったとも報じられたが、こちらは概ね事実のようだ。複数の県警職員に取材したところ、石田勝彦本部長(8月に公安調査庁調査第1部長に異動)が県警の全職員に対し、文書でそのような方針を伝え、理解を求めたのだという。

 もっとも、ある県警職員はこう話している。

 「内部補てんするというのも正式に決まった話ではありません。手続き的に可能なことなのかはわかりませんし、広島県警だけで決められることではないですから」

 広島県警が「証拠品の現金を盗まれ、内部のみんなで金を出し合って補てんした」という前例をつくれば、今後は他の都道府県の警察も押収した証拠品を紛失するたび、職員たちが金を出し合って穴埋めせねばならなくなりかねない。広島県警が実際に8,572万円を内部補てんするには、法的な問題も含めて、クリアすべきハードルはいろいろありそうだ。

 迷走するばかりで、何ひとつ解決していない広島中央署の証拠品の現金盗難事件。実は現在、広島県警にその現金を押収された広域詐欺事件の被告の裁判も混迷してきているのだ。

■「正当に稼いだ金もある」~詐欺の被告が新主張

「広島県警に押収された現金には、正当に稼いだ多額の現金が含まれていた」

 広島県警が死亡した男性警察官を書類送検する方針だと報道された2月の末日。広域詐欺事件で詐欺と組織犯罪処罰法違反(犯罪収益の隠匿)の罪に問われている中山和明被告(36)は裁判でそんな“新主張”を明らかにした。といっても、刑事裁判ではなく、国家賠償請求訴訟での話だ。

広島地裁。広域詐欺事件の被告の裁判が行われている
広島地裁。広域詐欺事件の被告の裁判が行われている

 広島中央署の金庫から8,572万円が盗まれたのをうけ、中山被告は2017年9月、「被害弁済が行えない」として広島県に約9,400万円の国家賠償を請求する訴訟を起こし、話題になった。この訴訟では、広島地裁の1審で昨年4月に、広島高裁の2審で今年8月に、中山被告の請求を棄却する判決が出ているが、上記の中山被告の新主張は広島高裁の2審でのものだ。

 新主張によると、中山被告は2008年頃から東京・渋谷の広告会社で働き、その後に独立して広告仲介業を行い、多額の収入を得ていたという。広島県警が中山被告の関係先から押収し、広島中央署の金庫で保管していた現金の総額は9,000万円を超えていたのだが、それは「正当に稼いだ現金と詐欺で得た現金が混在していたのが実態だった」というのだ。

 中山被告側はそれを前提にしつつ、新聞報道に基づき、「正当に稼いだ金が、公権力の行使にあたる警察官によって職務を行う際に盗まれた」「盗まれた現金は見つかっておらず、費消されたと考えられる」などと指摘し、「広島県に対し、国家賠償請求する権利があることは明らか」と主張した。これについて広島高裁は判決で、「新聞報道から、死亡した男性警察官が現金を盗んだ犯人とは断定できない」として中山被告の主張を退けたのだが、広島中央署の8,572万円盗難事件に関する捜査の迷走が中山被告の思考に影響を与え、この新主張に踏み切らせた感は否めない。ちなみに中山被告はこの2審判決を不服として、現在は最高裁に上告中だ。

 一方、中山被告の刑事裁判もここにきて先行きが不透明になっている。広島中央署が8,572万円を盗まれたために「被害弁済が行えない」として国家賠償請求訴訟を起こしつつ、中山被告は刑事裁判で起訴内容を否認していたのだが、今年3月13日の第9回公判で一転、すべての起訴内容を認めたのだ。

 この公判で中山被告は、これまでに否認していたのは「以前選任していた弁護士の方針だった」と説明。さらに「被害者の悲惨な状況を聞き、深く心を痛めています。一日も早く被害弁済したいです」と反省や贖罪の思いを吐露した。一方、「ただ、詐欺事件の金額は、一体どこまで私がやったのか不明です」とも述べている。つまり、中山被告は刑事裁判でも国家賠償請求訴訟と同様に、詐欺などで得たとされる金銭のなかに「正当に稼いだ金」が含まれていたと主張するようなのだ。

 中山被告の刑事裁判では、秋頃に広島地裁で1審判決が出る見通しだと報じられていたが、すでに秋になった現在、中山被告の裁判はまだ続いており、次回公判は期日が未定だ。中山被告が否認していた起訴内容を認めつつ、「詐欺事件の金額は自分がどこまでやったか不明」と新主張を始めたため、争点を整理するためなどに時間を要しているのだとみられる。

 中山被告らの有罪が確定すれば、被害回復給付金支給制度に基づき、犯罪で得た財産がはく奪され、被害者たちに支給されるが、裁判が確定するにはまだ相当な時間を要しそうだ。それもこれも広島中央署が証拠品の現金8,572万円を盗まれたうえ、いつまでも犯人が捕まらないことが原因なのだ。

【片岡 健】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

     

トップニュース

2020年07月14日 17:12

新型コロナウイルス~関東で感染拡大NEW!

  【表1】を見ていただきたい。全国(47都道府県)の新型コロナウイルス感染者の順位表である。 ~この表から見えるもの~ ◆全国(47都道府県)の7月14...

2020年07月14日 16:00

ストラテジーブレティン(256号)~日本を蘇生に導くハイテク大ブーム~米中対決のカギを握る半導体、言わば現代の石油(1)NEW!

 米中対決は香港の一国二制度の崩壊で決定的となった。現世界情勢の特徴は「中国の一方的攻勢」であろう。インド国境、南シナ海、東シナ海・尖閣列島では周辺への威圧を強めてい...

2020年07月14日 15:30

「コロナ後の世界経済」~ポスト資本主義の倫理、哲学で世界経済の再構築を(前)NEW!

 ポストコロナの時代には、格差拡大を続ける資本主義や、AIやICTを活用したリモートワークなどのオンライン化ではなく、倫理や哲学に立脚した新しい世界経済の再構築を目指...

2020年07月14日 15:05

朴ソウル市長の死去で大きく揺れる韓国社会(後)NEW!

 2年ほど前に、韓国の大統領有力候補として名が挙がっていた安照正前忠南道知事の性的暴行事件は、多くの国民に失望とショックを与えた。当時韓国では「Me Too運動」が広...

2020年07月14日 14:41

【8/10~12】上村建設前社長・上村秀敏氏初盆供養NEW!

 上村建設(株)は8月10~12日、同社前代表取締役社長・上村秀敏氏の初盆供養を同社の芥屋研修所にて執り行う...

2020年07月14日 13:32

梅の花が下方修正 20年4月期は43.9憶円の赤字にNEW!

 (株)梅の花(久留米市)が7月13日、業績予想の修正を発表した...

2020年07月14日 12:00

中国の新車販売が急回復!トヨタは2カ月連続で単月販売台数の過去最高を更新!

 中国自動車工業協会は7月10日、6月の新車販売台数が、前年同月比11.6%増の230万台だったと発表した。新型コロナウイルスによる影響が落ち着き、3カ月連続でプラス...

2020年07月14日 11:30

相次ぐマンションの設計偽装~デベロッパーと行政の「不都合な真実」 仲盛昭二氏 緊急手記(2)

 筆者が所有している別府市のマンション「ラ・ポート別府」でも設計の偽装が明らかになったため、区分所有者として、建築確認を行った大分県および別府市に対し質問書を送付した...

2020年07月14日 11:00

【株主総会血風録1】大戸屋ホールディングス~買収を仕掛けたコロワイドが戦わずして“戦線放棄”の奇々怪々(5)

 なぜ、コロワイドは最初からTOBを仕掛けなかったのだろうか。そしてなぜ、個人株主は株主総会でコロワイドの株主提案に反対票を投じたのだろうか。理由は、はっきりしている...

2020年07月14日 10:32

お仏壇のはせがわ中興の祖・長谷川裕一氏の経営者としての最終的総括(3)多角化のツケが露呈、その結果負の処理は人任せに

 (株)はせがわの業績を、参照してほしい。多角化経営の辻褄が合わなくなり、当時、赤字決算が続出していたことがわかる...

pagetop