2024年04月25日( 木 )

殺人マンション裁判の顛末~毀損された強度・資産価値を適正な状態に戻せ!(2)

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日本を代表する大手K建設 殺人マンションの顛末

深刻な裁判官不足

 ――建築の知識がない弁護士、法律に疎い建築士、これでは議論が噛み合わないでしょう。裁判官はどうでしょうか?

 仲盛 裁判官は、1人で多くの案件を同時に担当しています。日本弁護士会作成の資料によれば、大都市の裁判官は、常時、1人あたり、単独事件を約200件、合議事件を約80件抱えているとされています。さらに毎月40件前後の新たな事件が追加されるので、裁判官は我々の想像以上に多忙です。当然のことながら、それぞれの案件を深く掘り下げる時間はないので、原告や被告にとっては裁判官が短時間で理解できるような書面や資料が必要となりますが、弁護士と建築専門家の協力関係が確立していなければ、効果的な書証を作成することができません。

 ――裁判で取り扱う事件の分野は多岐に亘りますね。

 仲盛 民事訴訟の分野は多岐に亘ります。日本の法令の数は、憲法・法律・政令から規則など、その数は8,307種類(平成29年3月1日現在)も存在します。この他にも、各自治体が制定している条例なども存在するので、裁判官がこれら法令や条例のすべてを把握して、適切な判断を下すことは極めて困難です。

 建築を例にとれば、建築基準関係規定には、建築基準法令の他、建築物の敷地や構造や設備に関する法律、政令、省令、条例などが含まれ、建築関係だけでも膨大な量の法令に適合することが要求されています。さらに、建築構造設計に関していえば、国交省の告示や日本建築学会の規準や指針、日本建築センターの規準や指針などに適合していることも、建築確認審査においてチェックを受け、適合していない場合には是正を求められます。

 建築の分野だけに限っても多くの法令が存在し、裁判官が理解することは不可能であるのに、社会には、医療、教育、交通、金融、IT、化学、機械などさまざまな分野が存在し、それぞれの分野に関する法令が数多く存在します。建築など、これら多岐に亘る分野の1つに過ぎません。裁判官も1人の人間であり、同時に数百件もの事件を担当し、担当事件すべてに関連する法令を把握することが難しい状況において、裁判官が適切な判決を書くことは極めて困難であると思われます。

 このような裁判の実情では、欠陥マンションのような建築裁判においては技術的な面をカバーする専門家の存在が大きいと思います。建築の専門家といえば、建築士や大学の先生が考えられますが、大学の先生は自身が研究している専門分野には詳しいのですが、専門外の分野や設計および建築確認の実務には疎いという現実があります。

 先程述べたように、いかに裁判官に理解してもらうかが裁判において重要なことの1つだと思います。

専門委員の問題点

 ――専門分野に関して、裁判官が専門家に意見を聞くこともあると聞いていますが?

 仲盛 裁判に専門委員が出席し、裁判官が意見を聞く場合もあります。これまで、いくつかの裁判で専門委員や調停委員を見てきましたが、適格な人選といえないことがほとんどです。たとえば、建物の構造が争点になっているのに構造の知識が少ない意匠設計が専門の建築士が専門委員に選ばれるケースが多いことが挙げられます。

 また、ひどい例として、久留米のマンションの裁判では大学の建築の先生という経歴の専門委員が裁判に出席されましたが、この方は大学の先生になる前は大手ゼネコンに勤務されており、裁判における発言もゼネコン寄りの発言と明らかに裁判資料を理解していない発言に終始していました。

 その場に出席していた私が「専門委員は裁判資料を見ていないのではないか?」と指摘したところ、唇と手を激しく震わせながら 私を罵倒されました。

 ――そんな専門委員がいたのですね。

 仲盛 原告は構造計算による検証資料に加えて耐震診断による検証資料も提出していたのですが、この専門委員は裁判資料に目を通していないことを棚に上げ、「原告側で耐震診断も何もしないで、建物が危険とか軽々しくいえるものではない!」と強い口調で原告である区分所有者たちを叱責しました。

 さらに「建物が倒壊するかどうか、誰か死ななければわからない」と耳を疑うような委員の発言もあり、涙を流す女性の区分所有者の姿もありました。

 奇しくも、この専門委員は私の大学時代の先生でもあります。この先生が弱者であるマンションの区分所有者を罵倒されたことに、私も大きなショックを受けました。

 欠陥マンションの被害者であり、大地震の恐怖や資産価値の低下に苦しめられている区分所有者を罵倒した行為に憤りを感じたので、声をあげられなかった原告の区分所有者を代弁して、あえて専門委員について触れてみました。

 なお、この裁判では、和解調停協議を進めるにあたり、調停委員2名が参加されましたが、専門委員とは対照的に、中立的な意見を述べられるなど和解調停の円滑な進行に努められました。

(つづく)

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