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2019年11月06日 14:07

日本の政治の何が問題か(2)

拓殖大学大学院地方政治行政研究科 特任教授 濱口 和久 氏

新自由主義を推し進めた小泉政権と郵政選挙

 「新自由主義」について、森政稔著『迷走する民主主義』(筑摩書房)では、次のように定義している。

 「資本主義自体はシステムであって自ら語ることができないが、その変化を弁護してきたのが「新自由主義(ネオリベラリズム)」と呼ばれるイデオロギーである。単純にいえば政府に信用を置かず、市場に合理性を見出す考え方である。このイデオロギーは、先進国の資本主義や経済成長に翳りが見えるようになった1970年代から強まり、79年から81年にかけて相次いで成立した、イギリスのサッチャー保守党政権とアメリカのレーガン共和党政権の指導原理となった。『新自由主義』にあっては、資本主義の原動力としての企業家精神や勤労が称揚される一方、福祉の受益者および再配分を行っている政府の官僚制は、資本主義の発展を阻害する怠惰や不能率の原因として糾弾される。税金は強制であり自由の剥奪であるとして、政府支出の縮小が正義にかなうとされる。政府に頼らず、自己責任で生きることが、市民のあるべき姿だとされる」。

 日本で新自由主義的な政策を進めたのは、中曽根康弘政権のときだ。中曽根首相はNTT(日本電信電話公社)やJT(日本専売公社)、JR(日本国有鉄道)などを民営化した。半官半民だった日本航空の完全民営化も進めた。平成の時代に入り、橋本龍太郎政権が「金融ビッグバン」と呼ばれる金融制度改革を行うと、大手銀行は合併を繰り返し、メガバンクが誕生した。そして、小泉純一郎政権で規制緩和や郵政事業、道路四公団が民営化され、労働者派遣法の改正などが行われた。

 世界の国のなかには、高福祉高負担の政策を実施している国もあるが、世界の多くの国は新自由主義的な政策を実施している。

 平成17年9月に小泉首相が郵政民営化を争点に仕掛けた衆議院の総選挙「郵政選挙」は、まさに新自由主義的なテーマが争点となった選挙だった。
 このとき、郵政民営化に反対する亀井静香氏などの議員が自民党を離党し国民新党を結成する一方、小泉首相は郵政民営化に反対した自民党議員(野田聖子氏や城内実氏などは除名され無所属となる)の選挙区に「刺客」の候補者(佐藤ゆかり氏や片山さつき氏など)を擁立したりもした。マスコミも小泉首相にまんまと乗せられ、郵政選挙はワイドショー化した。結果は小泉自民党の圧勝に終わったことは周知の通りである。

 このときの選挙で、低所得者層が郵政民営化を支持したことを、森氏は著書のなかで「不可解な事実だった」と述べ、次のように解説している。

 「ひとつは政治家や政党の側のイデオロギー的な宣伝が効果を収めてしまうケースである。レーガン大統領の2期目の選挙戦では、普通の働くアメリカ人の勤労の美徳を称える広告戦術が用いられたが、新自由主義のもとではもはや膨大な富は労働とはあまり関係なく、金融市場から生み出される。経済の現実的な過程を有権者が見通せなくなってしまい、ショーアップされた劇場的選挙によって眼を眩まされた有権者の判断力の喪失が勝敗を左右しているのだというわけである。つぎに、低所得者にとって、政治への関心が薄れてきていることがあげられる、どの党に投票してもたいして変わらない、というような政治の有効性感覚の低下である。以上に特徴づけたような民主主義の衰退が、人々の政治的関心や期待を奪い、そのことが代表制においていっそう反民主的な政治家や政党を選出するのに貢献している、といった悪循環である」。

 ここで森氏が述べている「ショーアップされた劇場的選挙によって眼を眩まされた有権者の判断力の喪失が勝敗を左右している」に加担したのがマスコミであることを認識しておく必要があるだろう。マスコミが視聴率主義のなかで、郵政民営化の是非ではなく、郵政選挙を面白おかしく政治ショー化したことは紛れもない事実である。

 また、「どの党に投票してもたいして変わらない」と思っている人が少なからずいることも事実だ。とくに低所得者層は公営住宅などで暮らしている人が多いが、公明党や日本共産党の枠からも漏れた低所得者層は絶対に選挙には行かない。なぜなら、森氏が著書のなかで述べるように、絶対に誰に投票しても自分の生活が良くなるとは思っていないからだ。逆に、持ち家で、収入がある人ほど選挙に行く傾向が高いことも、私の実体験から100パーセントいえる結論だ。

 私は「地盤・看板・カバン」ももっていなかったが、30代のころに何回か国政選挙に立候補した経験をもつ。郵政選挙では民主党公認で立候補したが、小泉劇場の台風のなかであえなく落選した。森氏は著書のなかで「低所得者層が郵政民営化を支持したのは不可解の事実であった」と述べているいが、私が立候補した選挙区では、低所得者は郵政民営化にまったく興味も関心もなかった。
 その後、私は国政選挙に立候補していないが、民主党が政権を奪取したマニフェスト選挙も郵政選挙と同じように劇場的選挙に近いものがあったし、財源の裏付けのないさまざまな選挙公約(マニフェスト)を有権者は支持した。

 実際、郵政選挙での小泉自民党の圧勝も、マニフェスト選挙での民主党の勝利も、マスコミの世論誘導が選挙結果に間違いなく影響を与えたと私は思っている。マスコミは第4権力としての立場を利用して、世論誘導した罪は重いし、私は今でも郵政民営化は間違いだったと思っている。同じことは行政の効率化を目指して行われた「平成の市町村合併」にも当てはまる。合併を行わないと取り残されるようなムードが各自治体にあったが、市町村の適正な行政規模(行政の対応力)を無視した合併の結果、東日本大震災では三陸地方を中心に被害が拡大した。震災後に被災地に入り調査した経験からも付け加えておきたい。

(つづく)

<プロフィール>
濱口 和久(はまぐち・かずひさ)

1968年熊本県菊池市生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒業後、防衛庁陸上自衛隊、元首相秘書、日本政策研究センター研究員、栃木市首席政策監(防災・危機管理担当兼務)、日本防災士機構理事などを歴任。現職は拓殖大学大学院地方政治行政研究科特任教授・同大学防災教育研究センター長、(一財)防災教育推進協会常務理事・事務局長。主な著書に『日本版 民間防衛』(青林堂)共著、『戦国の城と59人の姫たち』(並木書房)、『日本の命運 歴史に学ぶ40の危機管理』(育鵬社)、『探訪 日本の名城(下) 戦国武将と出会う旅』(青林堂)、『探訪 日本の名城(上) 戦国武将と出会う旅』(青林堂)、『だれが日本の領土を守るのか?』(たちばな出版)、『思城居(おもしろい) 男はなぜ城を築くのか』(東京コラボ)などがある。

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