2024年03月29日( 金 )

新型コロナウイルスと中国経済~緊急事態における中国政府の選択(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 新型コロナウイルスの感染は2020年1月から中国の経済活動に未曾有のダメージをもたらした。この緊急事態において、中国政府は経済を下支えするために、いくつか手を打っている。今後、大規模な景気対策の実施も予想されるが、中国経済はさまざまな問題を抱えており、中長期的な視点に立った対応が求められる。

武漢市(1月29日撮影)
武漢市(1月29日撮影)

新型コロナウイルスのインパクト

 今回の新型コロナウイルスのインパクトの大きさについて、2002~03年のSARSの時と比較しながら、4つの点から強調したい。

 第1に、中国政府のとった対応策の果断さである。1,100万人都市の武漢の封鎖をはじめ、広範囲にわたる移動の制限により、労働力、モノの移動が大きく規制され、春節休暇明けの企業活動の再開を遅らせた。03年には広州交易会は春季(4月)の見本市を実施していたが(来場者数および契約成立額は大幅に減少)、今般は見本市を含め大規模イベントを停止した。

 第2に、中国経済の存在感は02~03年のSARSの時と比べ大きく増している。02年に中国のGDPが世界経済に占める比率は約4%であったが、18年には約15%と増え、中国の貿易が世界の貿易に占める比率も約5%から約15%へと増えている。中国人の出境者数(台湾・香港・マカオ含む)は02年に延べ1,660万人であったが、18年には延べ1億4,792万人へと増えている。それだけ中国経済が大きくなり、かつ世界の経済との結びつきが深まったということだ。

 第3に、中国経済の構造変化である。産業構造の比率が変わり経済のサービス化が進んだ。02~03年には第2次産業がGDPに占める比率が一番大きかったが、近年では第3次産業の比率が最も大きくなり、50%を超えている。かつて中国の経済成長を牽引していたのは投資であったが、現在は消費主導の経済へと変わっている。

 第4に、武漢市の重要性である。同市は中国中部に位置し、鉄道貨物、陸運、水運の一大拠点である。また中国トップクラスの大学を有し優秀な人材を得やすい。これら地理面、人材面での優位性から自動車、半導体、素材産業などの集積地となってきた。

過去最悪の景況感

 それでは、中国経済の現状および先行きについていくつかの指標を見てみよう。この混乱状況のためか、中国の統計部門は経済成長率など各種マクロ経済データをほとんど公表していない(できていない)が、公表されているものをいくつか取り上げる。

 PMI(50を基準とし、下回っていると今後の景気の減速を示す。中国国家統計局など発表)の2月の指数は製造業が35.7、非製造業が29.6へと大幅に下落し、いずれも過去最低となった。いかに各企業の購買担当者が調達、生産を控えようとしているかをうかがうことができ、第2四半期以降、景気の落ち込みとして反映されるであろう。

 企業の実際の稼働率もまだまだ低い。2月10日ごろから企業の活動が徐々に再開されたものの、都市封鎖、移動制限のため、従業員の職場復帰の遅れ、取引先からの部品調達の遅れなどの理由で、稼働できても元の状態に戻っていないところが大半だ。2月20日ごろには、上海など華東地域の日系企業のうち約4割の企業において稼働率が半分以下という状況であり(ジェトロ発表)、3月11日時点で中国全土の自動車業界の設備稼働率は4割弱であった(中国自動車工業協会発表)。なお、湖北省政府は3月11日から省内の一部大企業を中心に条件つきで操業再開を認めており、中小企業、移動の制限などが解除されていくことが待たれる。

 また、都市封鎖や移動制限のため、消費の落ち込みも深刻である。中国は世界一の自動車生産国、購入国であり、自動車販売台数も重要な指標の1つであるが、2月の新車販売台数は前年同期比約79%減少であった(中国自動車工業協会発表)。旅行者数も大きく減少した。旧正月休暇を含む40日間(1月20日~2月18日)の旅客数は前年同期比45%減少した(中国交通運輸省発表)。サービス業は中小企業が多く、従業員への給与支払い遅れ、給与カットが発生しやすく、資金ショートにより倒産する企業も出てくると、そのぶん消費が奮わなくなる。それが飲食業、小売などの大幅な消費減少につながっている。

(つづく)
【茅野 雅弘】

(後)

関連記事