• このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年06月25日 16:00

100年前の危機の時代に立ち向かった北里柴三郎と大倉和親の快挙(後)

 最近よく目にする言葉に「スペインかぜ」がある。第1次世界大戦末期の1918(大正7)年から1920(大正9)年に世界各国で多くの死者を出したパンデミック(感染爆発)である。国内では人口5,500万人のうち4割強の2,300万人の患者と38万人の死者があった。新型コロナウイルスの感染は、まだ序の口にすぎない。第2波、第3波がくるといわれている。1世紀前の危機に立ち向かった人物を取り上げる。テルモ(株)創設の発起人・北里柴三郎、(株)サカタのタネと(株)INAX(現・(株)LIXIL)の設立を支援した大倉和親である。

TOTOなどのセラミック王国を築いた大倉和親

 大倉和親(かずちか)は、サカタのタネ、INAX(現・(株)LIXIL)のエンジェルである。エンジェルとは、創業間もないベンチャー企業への資金提供と経営アドバイスを行う個人投資家のこと。
 大倉は1875(明治8)年、東京・日本橋の生まれ。1894(明治27)年慶應義塾本科を卒業、森村組(後の森村財閥)に入社した。我が国貿易業の草分けである森村市左衛門は、友人福沢諭吉の「日本から流出している金銀を取り戻すには、輸出を振興するしかない」との主張に共鳴し貿易を志す。主力商品は陶磁器であった。

 森村市左衛門は1904(明治37)年設立の日本陶業(名)(現・(株)ノリタケカンパニーリミテド)代表社員(社長職)に、青年の大倉和親を抜擢した。大倉が心血を注いでつくり上げた陶磁器の「ノリタケ」こそ、戦後の「ソニー」「トヨタ」などに先駆けた日本初の“世界ブランド”だ。

 大倉経営の大きな特徴は「一業一社」。日本陶器が衛生陶器の国産化にメドをつけると、小倉工場(現・北九州市)を分離独立、17(大正6)年に東陶機器(現・TOTO(株))を設立し、初代社長に就いた。大倉は、日本碍子(株)(現・日本ガイシ(株))、日本特殊陶業(株)などを育て、セラミック王国の森村グループを築いた。

サカタのタネに支援の手を差し伸べる

 『20世紀 日本の経済人』(日経ビジネス人文庫)は、大倉和親とサカタのタネの関わりについて、こう綴っている。
 「もし、大倉和親がいなければ、存在しなかったかもしれない意外な企業がある。サカタのタネだ。創業者の坂田武雄が大倉の追悼文に経緯を記している。大正期に農産種子の輸出を始めたが、資金繰りに行き詰ってしまった。知人を通じて大倉に資金援助を申し入れる」。

 大倉は「自分にはわからないが、とにかく新しい仕事で、しかも外貨が得られるのなら、日本国に役立つ」と快諾。加えて、自分の仲間にも声を掛け、森村市左衛門の二男、開作が出資することになった。22(大正11)年、匿名組合・坂田商会が発足。後に大倉は組合員代表に就任している。

 坂田は大いに事業を拡張するが、23年の関東大震災で店舗を焼失するなどの打撃を受け、輸出手形が不渡りになって銀行融資が止まってしまった。再び、大倉に泣きつき、富士紡積(株)の株券を借用、銀行に担保として差し出した。

 戦後恐慌と関東大震災の2回、大倉和親は坂田武雄に支援の手を差し伸べたのだ。
 世界各地で花と野菜の種子を生産しているサカタのタネは、国内トップ、世界第6位の種苗メーカーだ。ブロッコリーの種の世界シェアは約65%を誇る。100年前、大倉和親と坂田武雄の出会いがなければ、今日のサカタのタネはなかったかもしれない。

伊奈製陶の株の75%を無償で分け与える

 同じような経緯の、もう1つの会社はINAX(旧・伊奈製陶(株)、現・(株)LIXIL)だ。創業者・伊奈長三郎は土管の製造に取り組んだ。しかし、資金がない。21(大正10)年に匿名組合を設立して、大倉和親に出資を仰いだ。大倉は「この土管が日本の建設業の進歩に役立つのなら」とこれに応じた。
 だが、伊奈の事業は赤字続きで、大倉は自分の土地を売って穴埋めをした。資金は貸したのでなく、くれてやったのだ。

 24(大正13)年、(株)への組織変えで会長になった大倉が、47(昭和22)年に伊奈製陶を退く時、従業員に残した「ひとこと」がある。「これという仕事をしないうちに年をとり、職を退きます。心からの感謝の気持として、伊奈製陶の株を皆さまに差し上げます。世人から『立派な会社よ』といわれる日が来るのを楽しみに、私は余生を送ります」。

 大倉は伊奈製陶の発行株式の75%を保有していたが、持ち株を全部無償で分け与えた。株の力で伊奈製陶を自分の会社にすることもできたが、そうはしなかった。余人にマネのできることではない。明治生まれの経営者には凄い人がいると驚嘆した。

 戦時恐慌に突入した21(大正10)年、大倉和親はエンジェルとして、サカタのタネの創業者・坂田武雄とINAXの創業者・伊奈長三郎を支援した。
 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で、世界的な大不況に突入することは避けられない。こういう時期だからこそ、若手起業家を支援するエンジェルの出番だ。
「出でよ、令和の大倉和親!」。
(敬称略)

(了)

【森村和男】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

     

トップニュース

2020年07月15日 11:09

英進館の筒井会長が「47回経営者賞」受賞NEW!

 「第47回経営者賞表彰式」が開催、英進館ホールディングス(株)の筒井勝美取締役会長、(株)ピーエムティーの京谷忠幸代表取締役、(株)カミチクの上村昌志代表取締役会長...

2020年07月15日 10:06

「コロナ後の世界経済」~ポスト資本主義の倫理、哲学で世界経済の再構築を(後)NEW!

 ここで肝心なのは、金もうけ本位の姿勢を見直すことだ。単なるDXデジタル技術やデータ活用でデジタル経済に転換するという安易な対応ではよくない...

2020年07月15日 07:00

相次ぐマンションの設計偽装~デベロッパーと行政の「不都合な真実」 仲盛昭二氏 緊急手記(3)NEW!

 このように、行政主導による構造検証においても、設計の偽装が見逃されていた。全国のマンションやホテルなどにおいて偽装が続けられ...

2020年07月15日 07:00

【株主総会血風録1】大戸屋ホールディングス~買収を仕掛けたコロワイドが戦わずして“戦線放棄”の奇々怪々(6)NEW!

 コロワイドは、最初から実行するべきTOBをなぜしなかったか。これも、理由ははっきりしている。「のれん代」がネックとなったからだ...

2020年07月14日 17:12

新型コロナウイルス~関東で感染拡大

  【表1】を見ていただきたい。全国(47都道府県)の新型コロナウイルス感染者の順位表である。 ~この表から見えるもの~ ◆全国(47都道府県)の7月14...

2020年07月14日 16:00

ストラテジーブレティン(256号)~日本を蘇生に導くハイテク大ブーム~米中対決のカギを握る半導体、言わば現代の石油(1)

 米中対決は香港の一国二制度の崩壊で決定的となった。現世界情勢の特徴は「中国の一方的攻勢」であろう。インド国境、南シナ海、東シナ海・尖閣列島では周辺への威圧を強めてい...

2020年07月14日 15:30

「コロナ後の世界経済」~ポスト資本主義の倫理、哲学で世界経済の再構築を(前)

 ポストコロナの時代には、格差拡大を続ける資本主義や、AIやICTを活用したリモートワークなどのオンライン化ではなく、倫理や哲学に立脚した新しい世界経済の再構築を目指...

2020年07月14日 15:05

朴ソウル市長の死去で大きく揺れる韓国社会(後)

 2年ほど前に、韓国の大統領有力候補として名が挙がっていた安照正前忠南道知事の性的暴行事件は、多くの国民に失望とショックを与えた。当時韓国では「Me Too運動」が広...

2020年07月14日 14:41

【8/10~12】上村建設前社長・上村秀敏氏初盆供養

 上村建設(株)は8月10~12日、同社前代表取締役社長・上村秀敏氏の初盆供養を同社の芥屋研修所にて執り行う...

2020年07月14日 13:32

梅の花が下方修正 20年4月期は43.9憶円の赤字に

 (株)梅の花(久留米市)が7月13日、業績予想の修正を発表した...

pagetop