2024年04月21日( 日 )

世界初のデジタル通貨実用化を急ぐ中国(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏

 新型コロナウイルスの感染拡大は、社会のデジタル化を加速させている。通貨のデジタル化もその1つである。通貨がデジタル化したら、紙幣やコインを用いることによる新型コロナウイルスの感染のリスクもなくなるため、通貨のデジタル化にさらなる拍車がかかっている。

偽札の使用削減もデジタル化の理由

 中国がデジタル通貨を推進するようになったのは、どのような背景があるだろうか。

 中国政府はもともと偽札の問題で頭を抱えており、この偽札問題を解決するためにまず推進したのがQRコード決済である。スマートフォンの普及とともに、便利なQRコード決済は急速に普及し、中国は世界でも先を行くキャッシャレス国家となった。中国の2019年におけるQRコード決済市場はアリペイのシェアが約55%、ウィーチャットペイのシェアが約39%で、この2つの民間企業がほぼ独占する状態である。

 中国ではQRコード決済が普及したことにより紙幣の使用量が減少し、その結果、偽札の使用を減らすことに成功した。しかし別の問題が露呈した。アリペイは顧客同士の取引を自社のプラットフォーム内で完結できるため、政府は取引情報の把握ができなくなっていたのだ。

 金融政策では中央銀行が絶対的な権限をもたなければならないため、民間企業がこのように力をもつようになったことは政府にとっては不都合である。その結果、従来この2社に協力的であった中国政府は手のひらを返し、民間企業への規制を強化する方向に舵を切った。

 その1つとして、中国政府はすべての取引情報は政府機関を通すようにという規制をつくった。その次のステップとして、今回のように中央銀行がデジタル通貨を直接発行することで、民間企業がもっていた情報力を奪うことを勧めている。デジタル通貨は国が担保する法定通貨であり使用を義務付けることができるため、これから普及していくのは間違いないだろう。さらにセキュリティの問題を抱えているQRコード決済に比べて、デジタル通貨は一歩進んだ決済手段であるため、アリペイとウィーチャットペイにとっては、絶体絶命の危機が到来している。

22年の北京冬季オリンピックでの実用化を目指す

 デジタル通貨の発行にはどのようなメリットがあるのだろうか。

 中国の中央銀行(中国人民銀行)はデジタル通貨を発行することで、お金の流れを正確に把握できるようになる。中国ではすでに監視カメラなどが随所に設置されており、「監視社会」と言われているが、お金の流れを監視することで行動の監視よりもさらに詳細な監視と追跡が可能になる。その結果として、中国政府は汚職や不正蓄財、資金の不正な流用などをすぐ把握できるようになるため、大きなメリットとなる。

 加えて、国内資本の海外流出も抑えることができる。貨幣の製造および流通費用が削減される効果とともに、デジタル通貨の発行にともなう設備及びソフトウェア産業の成長が期待できる。中国でデジタル通貨が発行されると、少なくとも数百兆人民元の経済効果が生まれると見込まれている。

 一方、対外的なメリットとしては、基軸通貨であるドルの支配から逃れたいという中国政府の希望も叶えられる。中国はドルの覇権に挑んで人民元の世界化を推進するなかで、デジタル通貨において米国の先手を打つことによって、人民元を世界により普及させるとことも狙っているのだろう。米中覇権戦争が激化するなか、米国の対中金融制裁などに備えてデジタル通貨の発行を急いでいるという側面もある。

 中国のデジタル通貨の本格的な実用化のスケジュールが計画通り進むかについては見通せないが、中国政府は22年の北京冬季オリンピックでの実用化を目指している。人民元は現在世界で4%ほどのシェアであり、まだそれほど普及していないが、デジタル人民元の発行により、世界で人民元がさらに普及する可能性がある。

(了)

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