2024年05月04日( 土 )

人為的創作物「維新」の衰退~「大阪市廃止案」住民投票否決(後)

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政治経済学者 植草 一秀 氏

「第三極勢力=維新」というウソ

 戦後日本を実効支配し続けてきたのは米国の支配権力である。この支配者にとって鳩山内閣は真正の脅威だった。鳩山民主党が2010年7月参院選で勝利して衆参ねじれを解消していたなら、日本政治の本格的刷新が実現した可能性が高い。

 米国が支配する日本、官僚が支配する日本、大資本が支配する日本が打破され、独立国家日本が誕生したと考えられる。日本を支配する権力者は、2度とこの過ちを繰り返さぬよう、革新政権の誕生阻止に総力を注いできた。

 自公が結託して衆参両院の多数議席を占有する。この構造の堅持が目指されているが、その基盤は盤石でない。自公に投票する国民は全体の25%しかいない。反自公勢力も国民全体の25%存在する。従って、本来、自公と反自公は勢力が拮抗するはずなのだが、現実には自公が国会議席の7割を占有している。

 最大の戦術は反自公勢力の分断だ。反自公勢力を「共産党とは共闘しない勢力」と「共産党と共闘する勢力」に分断すれば、必ず自公が勝つ。小選挙区制度では当選者が1人しか生まれない。反自公勢力が二分されれば、自公の勝利は動かない。

 この点を踏まえれば、反自公勢力が「共産党を含む共闘体制」を構築すべきことは当然だ。自公は意図して「共産党と共闘するのか」と挑発するが、その狙いは、反自公勢力を二分することにある。この「罠」に嵌ることを回避し、反自公勢力が共産党を含めて共闘するだけで与野党は伯仲の状況に移行する。

 投票率が上昇すれば、反自公勢力が自公勢力を退けて政権を奪還することになるだろう。この「悪夢のシナリオ」が潜在的に存在するゆえに、日本支配勢力は、人為的な第三極勢力の創設に尽力してきた。その中核的存在が「維新」勢力なのだ。

政策連合による政権交代実現へ

 大阪市の住民投票で制度改変派が勝利し、その勢いを次の衆院総選挙に注ぎ込む戦略が保持されてきた。自公連立を自公維連立政権に移行させることが目指されていたはずだ。

 しかし、好事魔多しである。
「大阪市廃止」住民投票の2度目の失敗により、「維新」は急激に衰退に向かう可能性が高い。メディアは橋下氏を異常に露出させてきたが、その正当性も失われることになる。コロナ下で活躍した地方自治体首長は多数存在する。それにもかかわらず、メディアは吉村大阪府知事を別格扱いで異常に露出させてきた。背後には、日本を支配する米国支配者の影が明確に存在する。

 マスメディアの「維新」勢力の異常露出報道に対して、市民はクレームを突き付けるべきだ。そして、次期衆院総選挙に向けての体制確立を急がねばならない。反自公の基本政策を共有する政治勢力と市民が、大きな連帯を構築する必要がある。政策連合=オールジャパン平和と共生はこれを「政策連合」と表現して全国運動を呼び掛けている。

 平和主義堅持、原発ゼロ、共生の経済政策を基軸とする「政策連合」を、共産党を含むかたちで構築し、すべての選挙区にただ1人の統一候補を擁立する。投票率が5割を突破すれば、「政策連合」勢力が政権を奪還する可能性が極めて高くなる。

 大阪市廃止住民投票が大阪市民の叡智によって否決されたため、日本政治刷新に向けての明るい展望が開け始めた。共産党を含む共闘体制確立、政策連合構築による政権交代が実現する諸条件が整い始めている。

(了)


<プロフィール>
植草 一秀
(うえくさ かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)=TRI代表取締役。
金融市場の最前線でエコノミストとして活躍後、金融論・経済政策論および政治経済学の研究に移行。現在は会員制のTRIレポート『金利・為替・株価特報』を発行し、内外政治経済金融市場分析を提示。予測精度の高さで高い評価を得ている。また、政治ブログおよびメルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。

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