2024年04月26日( 金 )

中国経済新聞に学ぶ~日本のグルメドラマが中国でも人気のジャンルに(後)

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 日本のグルメドラマは近年、中国で人気を集めている日本ドラマ独特のジャンルの1つでもある。その多くは、漫画を原作とし、『孤独のグルメ』や『深夜食堂」『ワカコ酒』などは、常に柱となる主人公が存在するようにも見えるが、実際のところ、本当の主役は、主人公が探し求める、またはつくる料理だ。そのようなドラマには通常、中心となるストーリーはなく、控えめな人物とシンプルなストーリーは、グルメの引き立て役だ。

 日本のドラマにおいて、グルメは、「温かさ」と「癒し」を提供してくれる存在だ。『孤独のグルメ』の主人公がいつも1人で食事をするのが好きなのは、グルメのなかに幸せを見出すことができるからだ。『深夜食堂』の人気の理由は、寒い冬の夜に、客はそこで温かさを感じることができるからだ。

 現在、都市に住むほとんど人は、物質的にはほぼ満たされており、物質的な不足から不安な気持ちになることはほとんどない。しかし、物質的に豊かであるからといって、喜びに満ちているわけでもない。「感情的に満たされない」ということが都市に住む人々の大きな悩みとなっており、生活のなかでもっとも琴線に触れるのは、どこにでもあり注意しないと気づくことはないちょっとした事柄だ。

 質素な食事をするときに、人々はすべての仮面を外すことができ、何かの役を演じたり、家庭における責任、社会における身分などを気にしたりせずに、人間のもっとも基本的な欲求を満たすことができるようだ。それは、生まれたばかりの赤ちゃんのように、何の違いもなく、まったく平等な個人になれる瞬間なのだ。そのため、グルメの世界において、人の心をもっとも癒すことができるのは、往々にして、ミシュランガイドで紹介されている店の豪華でぜいたくな料理ではなく、個人の思い出が詰まった家庭料理だ。

 世界でももっとも都市化が進んだ国の1つである日本の社会は、現代都市における精神的特徴やその問題を浮かび上がらせている。厚生労働省の報告によると、2007年以降、日本の人口は13年連続で減少しており、一人暮らしの人数が増え、「孤独」が若者の生活において常態化している。

 1人でできることはたくさんあるものの、日本の映画やドラマにおいて、多くの人は1人でおいしいものを食べることを選んでいる。日本人は、グルメをプライベートで楽しめることと見なしているようだ。『孤独のグルメ』というタイトルは、日本人のグルメに対する哲学を表している。多くの日本人にとっては、仕方なく「孤独」になってしまっているわけではなく、人生において自分で「孤独」を選んでいるのだ。

 その他、現代都市における生活では強い孤独感を感じるため、一部の人は都市から離れるようになっている。社会学調査では、日本を含めて、都市化が非常に進んでいる国で、「逆都市化」が1つの流れになっている。大阪、名古屋などの日本の主要都市では、20世紀末から人口が流出しつつある。サプライズや奇観に満ち、それにともなってドキドキの体験ができる都市での生活とは違い、太陽が昇ると仕事を始め、沈むと家に帰る田園生活は、シンプルで、静かで、毎日が同じことの繰り返しだ。しかし、そこにある親しい人間関係には、平穏さがあり、長年都市で住んでいる人の憧れとなっている。

 日本ドラマ『凪のお暇』において、ヒロインの大島凪は、常に空気を読んで周囲に合わせて目立たず謙虚に振る舞っているにもかかわらず、人間関係においては「失敗者」となってしまう。同僚らの陰口を知り、彼氏にも裏切られた大島は、会社を辞め、家財を処分し都心から郊外へ転居、同僚や彼氏などすべての人間関係を断ち切って、アパートで一人暮らしを始める。そして、自分で簡素な料理をつくり、少しずつ自分の心の声が聞こえるようになり、本当の自分を取り戻していく。

 近年、日本のグルメドラマは、中国の若者の間で人気を集め、多くの人がドラマを見て癒しを得て、小さな幸せを感じている。日本から海を隔てた向こうにある中国の多くの若者が、慌ただしい平日が終わった後に、日本ドラマを「おかず」にしながら、1人で夕食を楽しんでいる。それは、日本ドラマで描かれるグルメの哲学の実践でもあるかのようで、シンプルであるほど癒しを感じ、1人で美味しさをかみしめているのだ。

(了)


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