2024年04月20日( 土 )

「政商」楽天、三木谷会長兼社長が大ピンチ~日米政府が中国テンセントから出資を得た楽天を監視する異常事態に!(中)

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 楽天グループ(株)の三木谷浩史会長兼社長は、中国IT大手の騰訊控股(テンセント)子会社から出資を受けたことで、米国の虎の尾を踏んでしまったようだ。菅義偉首相とバイデン米大統領の日米首脳会議が4月16日、開かれた。対中国包囲網を築くべく、日米両政府は連携して楽天グループの監視を強めることで一致。「政商」として名を馳せた楽天グループのグローバル経営は曲がり角を迎えた。

改正外為法の「例外規定」という抜け穴

 テンセントからの楽天への増資が問題になったのは、日本の外為法(外国為替及び外国貿易法)が絡んでいる。中国による技術取得の活動に危機感を抱いた米欧は相次いで投資規制を強化したが、出遅れていたのが日本だった。何もしないままでは日本が中国への技術輸出の抜け穴になっているとの批判を招きかねない。そこで経済産業省が中心になって政府は2019年末に外為法を改正した。

 改正外為法では、外国の投資家が指定業種の上場企業の株式を取得する際に、事前届け出が必要な基準値を従来の10%から1%に引き下げた。国の安全を損なう恐れが大きい業種として武器製造、原子力、電力、通信が対象。携帯電話を手がける楽天は、この対象に入る。

 一方、米国のファンドなどからは、投資を阻害するとの批判の声も上がった。このため、取締役の派遣など経営参加をする場合以外の「純投資」では、届け出義務を免除するという例外規定が設けられた。

 テンセントは出資によって楽天の発行済み株式の3.65%をもつが、「経営に関与しない」という一文を契約書に入れていたという。そのため例外規定に合致し、届け出は不要と判断していたとされる。

 この届出には経産省と財務省のそれぞれの許可が必要であるが、楽天の場合は、通信事業があるため、総務省も絡んでくる。安全保障ということで、内閣官房の国家安全保障局や外務省も関係する。どこも米国政府がこの出資にどんな反応を示すか気にはしているものの、明確に届出を出せと言った人はいなかった、という。

 届出を出されたら、審査しなければならない。その結果、出資して大丈夫と国がお墨付きを与えてしまえば、後々に問題が起こったときに責任を問われる。責任を回避するには、届け出がないことが、最上の策なのである。いかに我が身にふりかかる火の粉を払うか。責任回避は官僚が生き残るための護身術なのである。

米トランプ前大統領はテンセントを「安保の脅威」とみなした

 テンセントは中国最大のSNS「ウィー・チャット」を運営し、ゲームソフトやフィンテックでも世界有数の規模をもつ。昨年、トランプ大統領(当時)が「ウィー・チャット」アプリのダウンロードを禁止する大統領令を出して大騒ぎになった。しかし、最終的には連邦地裁によって執行差し止めになった。

 中国は17年、国家の情報収集への協力を義務付ける「国家情報法」を施行した。民間企業といえども、中国当局に求めれば情報を出さなければならない。そのため、テンセントは米政権が「国家安全保障を脅かす恐れがある」として、米国人による投資の禁止を一時検討したほどだ。そのようなテンセントが携帯電話会社の楽天に出資するのは問題ではないか、という声が出た。

 テンセントはトランプ前政権時に「安保の脅威」とみなされていた企業だけに、バイデン政権は日本に対し「米欧並みに厳しい法整備」(米国家安全保障会議)を望んでいる。ワシントン発の報道によると、東アジア・太平洋担当の元国務次官補のダニエル・ラッセル氏は「中国政策は足並みをそろえて共同戦線を張ることが重要だ」と説く。日本の対中輸出制裁を米国と同水準まで厳格化するよう求める声が根強いという。

楽天の米国企業への出資はどうなる?

 テンセント系の楽天への出資は、米国当局も関心を示しており、国際的な問題に発展しかねない。楽天は19年に5G向け技術を持つ米アルティオスター・ネットワークスに出資している。今回、テンセントからの出資を受け入れ、その業務提携の内容次第では、いったん得た承認にも影響を与える恐れがある。

 楽天はトランプ政権下で信頼できる通信事業者による「クリーン・ネットワーク構想」への参加が認められた。5G対応のための米国主導による枠組みに参加している楽天が、テンセントと提携することを米国はどう見るか。

 「単に出資を受けるだけ」という説明で、米国側が納得するとは思えない。経済安全保障は米中関係で最も関心の高いテーマだ。テンセントによる楽天グループへの出資を受けて、経済安全保障のなかでもホットな問題に浮上したのである。

(つづく)

【森村 和男】

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