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2021年05月27日 06:00

コロナ自粛に潜む健康被害~政府の対応に大きな懸念(後)

和田秀樹こころと体のクリニック
院長 和田 秀樹 氏

 「コロナ自粛」が叫ばれて久しい。政府は外出自粛やリモートワークを推進しているが、足腰の弱体化や脳機能の低下、「コロナうつ」などのリスクが潜んでいる。「コロナ自粛」にともなう健康被害を防ぐために、どう対処すべきか。「和田秀樹こころと体のクリニック」の和田秀樹院長に話を聞いた。

高齢者の命を救っているのか

新型コロナの致死率の推定(日本)
新型コロナの致死率の推定(日本)

 和田氏は「コロナ禍での外出自粛は、短期的には高齢者の死亡者数を減らし、命を救っているように見えますが、長期的には高齢者の命を奪っているともいえるのではないでしょうか」と主張する。外出自粛で歩かなくなったり、人と話さなくなったりすることにより、歩行機能や脳機能が低下した状態であるフレイル(虚弱)が高齢者に蔓延しているからだ。

 若い人であれば、外出自粛で半年間ほど家に閉じこもって歩かなくても、自粛が終わればすぐに歩けるようになるが、高齢者が外に出なくなると要介護状態が進み、リハビリを行わないと歩けなくなることもある。足腰の筋肉は使わないと衰えてしまうからだ。また、1カ月間ほど人と話さずにいると、認知機能が低下したり、認知症が進んだりすることも研究によってわかっている。

 これらの機能は一度衰えてしまうと、意識して運動したり、脳の機能を使ったりしないと改善しない。高齢者向けデイサービスのなかには、感染を防止するため「会話禁止」のところもあるが、会話なしでは脳機能の低下が懸念される。さらに、普段から口を動かしていないと、言葉が出ない、ロレツが回らないといった言語障害や、食事で飲み込みが悪くなるリスクもある。

 コロナの死亡者数は累計で1万1,000人を超え、高齢者の死亡リスクが高いといわれているが、肺炎の死亡者数は年間10万人以上、インフルエンザは年間1万人(インフルエンザの流行による直接的・間接的な死亡者数の推計:超過死亡)に上り、コロナだけが高齢者にとってのリスクではない。サイエンス研究会が報告した「新型コロナの致死率の推定(日本)」(グラフ参照)によると、40代まではコロナ患者で亡くなった人の割合を表す致死率は0.03%以下であり、インフルエンザの致死率のほうが高い。40代以上ではコロナのほうがインフルエンザよりも致死率は高くなり、50代で致死率0.1%、60代で0.4%、70代で1~2%、80代で約5%となっている(第3波)。

 「コロナにかからないことを重視しすぎるあまりに自粛一辺倒となり、高齢者が丈夫な足腰を保てるように取り組もうという動きがありません。要介護者は現在約480万人ですが、コロナによる外出自粛で運動不足になっているため、これから100~200万人ほど増えるのではないでしょうか。要介護者は健康な高齢者に比べて平均寿命が5年ほど短くなるとされており、さらに要介護者が増え続けると医療・介護費の負担が大きくなって増税につながり、景気に悪影響が出ることも懸念されます」(和田氏)。

 コロナ感染予防以外の健康管理に関するガイドラインが国民の幅広い層に向けて公表されていないことも、コロナ自粛による健康被害に気づきにくい原因だ。

 「東京都では自粛の呼びかけばかりが目立っていますが、実際には都も一枚岩ではなく、部署によって考え方は違います。たとえば、東京都福祉保健局はコロナ自粛による高齢者の体力や脳機能の低下を懸念し、日常生活でできる健康対策を発表しています。コロナ自粛を打ち出している厚労省も、老健局では外出の自粛で高齢者が出歩かなくなると、要介護者が増えて介護福祉予算で財政が圧迫されることを懸念しているでしょう」(和田氏)。

 東京都福祉保健局が無料で配信している動画「コロナに負けない!フレイル予防」も、その対策の1つだ。運動不足による筋肉量の低下を防ぐための体操動画もある。また、和田氏は「65歳まで定年を引き上げる議論や70歳まで就労機会を確保する議論もありますが、要介護者を減らすという意味では、体を動かして長く働ける機会をつくることも大切ではないでしょうか」と話す。

 「コロナから命を守る」ことが全面に押し出されているコロナ自粛。しかし、見落とされがちな体と心の健康被害の問題も、長期的に見ると命に関わってくる。政府の自粛要請が長引くなか、命を大切にするために、何をすべきかを見つめ直す必要がありそうだ。

(了)

【石井 ゆかり】


<プロフィール>
和田 秀樹 院長和田 秀樹
(わだ・ひでき)
和田秀樹こころと体のクリニック院長。精神科医・臨床心理士。1960年生まれ、大阪府出身。東京大学医学部卒、東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、国際医療福祉大学心理学科教授。一橋大学経済学部非常勤講師、東京医科歯科大学非常勤講師、川崎幸病院精神科顧問。主な著書に『こんなに怖いコロナウイルス 心の病』(かや書房ワイド新書)、『「コロナうつ」かな? そのブルーを鬱にしないで』(WAC BUNKO)、インタビュー書に『コロナ自粛の大罪』(宝島社新書)。


和田秀樹こころと体のクリニック
院 長 : 和田 秀樹
所在地 : 東京都文京区本郷3-21-12 RTビルB1F 
TEL : 03-3814-4530 
電話受付時間: 月曜日~金曜日 午後1時~午後7時(要予約) 
診察時間  : 毎週月曜日 午前11時~午後7時

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